表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
265/288

第265話 拡大する勢力

 キラー・マシーン三号機。

 それは、一号機をベースに小型化した量産機である。


 魂の分割と別行動に慣れてきた俺は、これまで二台だった三号機の運用をさらにもう一台追加することにした。


 意識を分割する負担は増えるが、並列思考の訓練だと思えば悪くない。


 新たに投入された三号機は、ザルツ山脈での効率的な魔物狩りを担当させている。完全に自立して狩りを行う、理想的な労働力だ。


 それに伴い、俺は山脈のふもとに位置する町「グラード」にも拠点を借り受けた。


 これで、アドラステア帝国における俺の拠点は二カ所となったわけだ。

 ベルンシュタインにある埃っぽい倉庫、そしてここグラードにある事務所である。


 俺は転移魔法を使い、グラードの事務所へと一気に移動した。

 視界が歪み、土と獣の脂の匂いが混ざった空気が肺を満たす。



 ***


「お疲れ様です、ボス!」


「おう、お疲れ」


 事務所にある俺の専用部屋から出て一階へ降りると、待機していた獣人たちが元気よく挨拶を飛ばしてきた。


 むさ苦しい男たちの声が、板張りの床を震わせる。


 こいつらは全員、元奴隷だ。この町で魔物狩りギルドを牛耳っている「ガイル」という男が使役していた連中である。


 俺の積み荷やベアリスを襲撃してきたところをキラー・マシーン三号機で捕獲し、徹底的に叩きのめした後、「魔封印」で奴隷紋を消して解放してやったのだ。彼らの怯えきった表情と、自由を知った瞬間の歓喜の涙は、今でも記憶に新しい。


 それ以来、彼らは故郷である獣人の森へ帰ることもなく、俺の下で熱心に働いている。犬タイプの獣人が多いためか、どうやら俺のことを「群れのボス」として完全に認めて懐いているようだ。


 太い尻尾がパタパタと揺れる音が、あちこちから聞こえてくる。


 それにしても、ガイルという男は相当な執念深いようだ。

 何度刺客を放っても、何一つ成果が得られていないというのに、いまだに獣人奴隷を俺にけしかけ続けている。


(……よほどの馬鹿なのだろうか)


 襲ってくるたびに、隠密状態で潜んでいたキラー・マシーン三号機が容易く捕獲してしまう。


 そして捕らえた獣人奴隷を、俺がその都度「わからせて」配下に加えているのだ。

 そのおかげで、いつの間にか俺の配下となった獣人は13人にまで膨れ上がっていた。もはやちょっとした小隊規模である。


 人員が増えたので、こいつらには主に運搬業務を任せている。


 まず、キラー・マシーン三号機が狩ってきた魔物を、この事務所の庭まで運ばせる。次に、狩ってきた獲物をこいつらがベアリスの作業場へと持ち込む。そして最後に、解体が済んだ素材をベルンシュタインの倉庫まで運ぶのだ。


 人員を適切に割り振り、それぞれの拠点を任せている。

 この町の近辺に出没する程度の弱い魔物であれば、こいつらでも十分に狩ることが可能だろう。行く行くは魔物狩りを任せてもいい。


 ただ、こいつらはあくまで獣人だ。

 対外的には、現在も奴隷であるという「ふり」を徹底させている。


 首には隷属の首輪を巻かせ、粗末な服を着せている。

 胸には偽の奴隷紋も描いている。


 人間社会において、奴隷ではない自由な獣人が集団でいれば、無用なパニックを引き起こしかねないからだ。


 また、人間側の代表者も必要となる。

 そのため、ベルンシュタインでは例の倉庫業の商人に、人を派遣してもらう形で代理人を任せ、俺が不在の際の実務を回している。


 俺は一通り指示を終えて事務所を出ると、ベアリスの元へと向かった。



 ***


 ベアリスの解体作業場へ足を踏み入れると、中には解体を待つ魔物の死体が複数横たわっていた。むせ返るような血の匂いと、内臓特有の生臭さが鼻をつく。


 以前は閑古鳥が鳴いていたこの作業場も、今では俺が持ち込む仕事で溢れ返っている。


「……一体こんな朝っぱらから、何の用だい」


 刃物を研いでいたベアリスが、隠しきれない不機嫌そうな顔で尋ねてきた。

 その額には、うっすらと汗が浮かんでいる。


「特に急用はない。ただ様子を見に来ただけだ」


「何だか知らないけどさ……。人を便利使いしやがって……」


 俺が勝手に大量の仕事を持ち込み、さらには不在時の代理人まで押し付けていることが、よほど気に入らないらしい。


 だが、俺だって好きでこんな面倒な体制を敷いているわけではない。

 ガイルの野郎がしつこく刺客を送り続けてくるから、こうなったのだ。


 文句があるなら奴に言うべきだろう。


 俺は不満を漏らすベアリスの腰に手を回し、強引にその身を抱き寄せた。

 汗ばんだ肌越しに、鍛え上げられた筋肉の硬さが伝わってくる。


「なっ……!?」


「仕事を持ってきてやっているんだ。文句を言うな――お前はただ、俺のために働けばいいんだ。……解ったな?」


 至近距離まで顔を近づけ、静かに説教を垂れる。

 俺の吐息が彼女の肌を撫で、その心臓の鼓動がわずかに速まるのを感じた。


「くっ……! ふざけんんじゃないよ……っ!」


 ベアリスは口では威勢よく反抗するものの、純粋な力で俺に敵うはずもない。

 顔を真っ赤にして背けるのが、彼女にできる精いっぱいの抵抗だった。


「……大人しく俺に従っていれば、悪いようにはしない。いい子でいろ。……いいな?」


 俺は抗議を封じるように彼女の首筋にキスを落とし、そのまま作業場を後にした。背後から飛んでくる殺気めいた視線を背に受けながら、事務所に戻った俺は、そこから転移で王国の屋敷へと帰還する。


 朝食を済ませ、いつものように学校へと向かった。



 ***


 放課後。

 学校を終えて屋敷に帰った俺は、即座にザルツ山脈のある地点へと転移した。

 キラー・マシーン三号機から「獲物を発見した」という、脳を直接焦がすような強い感情の信号を受信したからだ。


 これまで俺は、この広大な山脈で次なる大型の獲物を探していた。

 どうやら、執念深く山を探索していた三号機が、ついにそれを見つけ出したようだ。


 転移した先の現在の標高はかなり高い。

 一歩踏み出すたびに、足元の砂利が乾いた音を立てて崩れ落ちる。


 周囲には、切り立った荒々しい岩山がいくつも乱立している。

 どうやら、このあたりが目的の魔物の生息域らしい。


 俺は現地で三号機と合流し、さらに深く獲物を探索していく。

 ヒュウヒュウと、耳を裂くような鋭い風切り音が響く。


 季節は夏に近づいているが、これほどの高度ともなれば気温はかなり低く、吐く息が白く染まった。


 周囲を見渡しても、ここにはラヴァ・タートルのいたようなマグマだまりは見当たらない。


 ただ、視線の先にある最も高い山の上からは、絶え間なく噴煙が立ちのぼり、硫黄の匂いが風に乗って漂ってくる。


 おそらく、あそこが奴の巣なのだろう。


 不意に、上空から一つの炎の塊が舞い降り、その山頂へと吸い込まれていった。

 燃え盛るような紅の軌跡が、薄暗い空に焼き付く。


「……フェニックスか」


 全身に炎をまとった、伝説的な鳥の魔物。

 それが、今回の俺のターゲットである。


 俺たちがその頂を目指して歩みを進めていると、突如として視界に巨大な影がよぎった。そいつの巨体が月明かりを一瞬だけ遮り、地面に不気味な影を落としたのだ。


 頭上から、ジュルリという粘ついた音が降ってくる。


 その瞬間、俺と三号機は阿吽の呼吸で左右に展開。

 専用武器「クロノス・ヴァイス」を抜き放ちながら、頭上からの急襲を寸前で躱した。


 ドンッ!

 という地響きと共に、先ほどまで俺たちがいた場所の岩が粉々に砕け散る。


 砂煙が晴れ、着地し、背後に立っていたのは――

 【火精の捕食者】サラマンダー・ストーカー。


 全長二メートルにも及ぶ、獰猛なトカゲタイプの魔物であった。

 その赤黒い鱗の隙間からは、マグマのような高熱が漏れ出している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ