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第248話 戦況悪化

 (ゼノス本体視点)


 俺とキラー・マシーン一号機は、突如として敵の奇襲を受けた。


 地面からの突き上げるような攻撃を寸前で躱し、俺は空中で浮遊魔法を発動して静止する。靴底を数センチ掠めた死の気配に、背筋が粟立つ感覚を覚える。


 眼下に広がるのは、見渡す限りの湿地帯だ。


 だが、そこには先ほどまで影も形もなかった無数の「巨大蛙の魔物」が姿を現していた。泥を跳ね上げ、ボコボコと沸騰するように湧き出したそいつらは、俺を絡めとろうと、伸縮性のある長い舌を一斉に伸ばしてくる。


 ヒュッ、ヒュンッ!


 風切り音と共に迫る無数の肉の槍。先端からは、糸を引くほどの粘液が滴り落ちている。


 俺は専用武器「クロノス・ヴァイス」を抜き放った。


 「失せろ」 短く吐き捨て、迫りくる粘着質な舌を次々と捌いていく。


 ズブッ、ブツリ。

 剣先から伝わるのは、生々しい肉を断つ不快な感触だ。切断面から撒き散らされる体液が、鼻をつく腐臭と共に宙を舞う。


 視界の端には、高速でこの場を離脱していくキラー・マシーン一号機の姿が見えた。


(……俺から離れることで、敵の注意を分散させる狙いだろうな)


 俺は襲い掛かる舌を切り裂きながら、冷静に戦場を見渡した。


(深緑のバルゲローグと直接戦う前に、まずはこいつらを片付けなくてはならないか)


 このまま宙に浮いて舌を捌いているだけでは、拉致があかない。

 俺は一度、浮遊魔法を解除して自由落下を開始した。


 重力に身を任せ、カエルの舌を切り払いながら、猛烈な勢いで地面へと迫る。

 泥の海が眼前に迫り、湿った土の匂いが濃厚になる。


 そして、沼地に激突する寸前。俺は再び浮遊魔法を起動させた!


 ――ばっ!


 水面ギリギリで制動をかけ、滑るように蹴り、水平方向への移動を開始する。

 高速で敵の巨体へと接近した。俺は一番近くにいた個体の、白くぬらめく腹部へ、深く剣を突き刺す。


 その瞬間、剣に宿らせていた「時限式爆裂魔法」の魔力を巨大蛙の体内へと注入した。


 ドクン、と魔力が流れる脈動を感じる。

 すぐさま剣を引き抜くと、加速魔法を発動させる。周囲のカエルたちが伸ばした舌を鮮やかに避け、素早くその場を離脱した。


(今の俺は精神を分割している影響で、魔力総量も大幅に減っている。節約して使わんとな)


 まるで減りゆくバッテリー残量を睨むかのように、俺は自身の魔力(MP)バーを脳内で管理する。


 加速魔法は、敵の攻撃を回避する決定的な瞬間だけに絞って使う。

 一瞬でも加速すれば、あとは慣性を利用して突き進むことができるからだ。


 加速のオンとオフを細かく切り替える。


 すると俺の動きは変則的な軌道を描き、敵の予測を完全に外すことができる。

 傍から見れば、映像がコマ飛びしているように見えるだろう。俺は戦場を縦横無尽に走り回り、次々と敵に「時限式爆裂魔法」の魔力を注入していった。



 ***


 ――どごぉおおおん!!


 戦場を駆け回る俺の背後で、時限式爆裂魔法が順次炸裂を開始した。

 鼓膜を震わせる轟音と共に、カエルの魔物たちが次々と内側から破裂し、大爆発を起こす。


 湿原に巨大な火柱が立ち上がり、辺り一面に焼きガエルの香ばしくもグロテスクな匂いが充満した。


(この調子で数を削っていけば、なんとかなりそうだな)


 しかし、このペースでの戦闘は魔力消費もかなりのものになるだろう。

 額に滲む汗を拭う余裕もない。


 現在、キラー・マシーン一号機は「カエルの魔人」深緑のバルゲローグと交戦中だ。俺も一刻も早く雑魚どもを殲滅し、救援に駆け付けたい。


(……すべてを片付けずとも、ある程度削ればそれでいいか。二対一の状況を作り、敵のボスを先に始末する……)


 俺がそんな風に方針を微調整しようと考えた、その時だった。


 視界の端で何かがきらりと光った。

 カメラのフラッシュが焚かれたような、強烈な閃光。


 そう思った次の瞬間、危険感知が脳が焼き切れるほど激しく鳴り響く。

 それとほぼ同時に、俺の脇腹に凄まじい質量を持った「何か」が衝突した。


 ――どごぉおおおおん!!


 音すら置き去りにする衝撃。

 あばら骨が粉砕される感触と、内臓が位置をずらすような激痛。


 ――どぼぉおおおおん!


 その衝撃で俺の体は無残に吹き飛び、深い沼の中へと埋もれた。


 冷たく、重い泥が全身を包み込む。

 視界は暗黒に閉ざされ、口の中にも生臭い泥が侵入してくる。


 即死級のダメージが入り、「身代わり術式」がオートで作動する。


 俺の受けたはずの「死」は、即座に身代わりの首輪をつけた「屋敷で飼っているゴブリン」へと転移した。遠い屋敷の檻の中で、哀れなゴブリンが俺の代わりに絶命したはずだ。


 俺は沼の底で目を瞑ったまま、即座に「時止めの魔法」を使用した。

 世界の色が反転し、静止した時間の中で、状況の整理を開始する。



 ***


(……なんだ? 今のは一体、何が起きた?)


 時を止めている最中であれば、泥の中であっても息継ぎの心配はいらない。

 だが、全身にまとわりつく泥の不快感と、先ほどまで感じていた死の余韻が肌に残っている。


 巨大なカエルの群れと戦闘中であり、そちらに意識を奪われていたとはいえ。

 まさか、これほど完璧な不意打ちを食らってしまうとは。


 やはり魂を分割している悪影響が出ている。

 思考にノイズが走り、危険感知の発動精度が若干下がり、反応が遅れてしまっているのだ。本来なら、光った瞬間に「時止め」を使用できていたはずだ。


(万全な状態ではないとはいえ、この俺にこれほどの一撃を叩き込むとは――何者だ?)


 標的である深緑のバルゲローグは、今この瞬間もキラー・マシーン一号機と戦闘中のはずである。


 ならば、巨大なカエルの魔物以外にも強力な部下がいたのか。


(あるいは……「新手の魔人」か?)


 魔王候補同士であっても、利害が一致すれば共闘関係を結ぶケースは十分にあり得る。深緑のバルゲローグは、アシュラフの見立てによれば「最弱」の魔王候補だ。


 ならば、自らの弱さを補うために、誰か他の有力者と同盟を組んでいても不思議ではない。


(その可能性を考慮せずに戦っていた。……俺のミスだ)


 舐めていたわけではないが、想定が甘かったことは否めない。


 この泥沼から脱するために「転移」で沼の真上に出ることは可能だ。

 だが、もしも上で手練れが待ち構えているのだとしたら、格好の的になるだけだろう。二度目の直撃を食らえば、身代わりのゴブリンが減ってしまう。


 そう判断した俺は、目的地を変更した。


 この沼地の始まり。

 俺たちが最初に転移してきた地点へと、瞬間移動で退避した。



 ***


 空気が入れ替わる。

 直前まで沼の中にいたが、転移で移動するのは俺の肉体だけだ。


 ゆえに全身泥まみれという最悪の事態は避けられた。

 それでも、肌には若干のぬめりと、泥水の冷たさを感じるが……今は我慢するしかない。


「魂の分割に、これほどのデメリットがあると知れたのは収穫だが。さて、これからどうするかだな」


 首を鳴らし、身体の感覚を確認する。 このまま戦闘を切り上げて、人間界に逃げ帰るのも一つの手だ。


 キラー・マシーン一号機は置き去りになるが、コア魔石に宿っている意識の一部は、転移でいつでも本体に戻ることができる。


 機体自体は湿地帯に破棄することになるが、予備はある。


 決して替えの効かないものではない。

 損切りとしては悪くない判断だ。


 俺は、静かに広大な沼地を見つめた。

 遠くの方から、硝煙と湿気が混ざった風が吹いてくる。


 ――どごぉおん! どごぉおおおん!


 断続的な爆発音が響いてくる。

 俺がカエルの魔物たちに仕掛けた「時限式爆裂魔法」が、次々と起動しているのだ。空を焦がす炎の色が、俺の瞳に映り込む。


 俺は大きく一息ついた。

 肺の中に新鮮な空気を取り込み、脳へ酸素を送る。


 そして、未だ爆炎の上がる遠くの戦場を見据えて呟く。


「……ここで、負けるという選択肢は。――ないよな」


 不確定要素イレギュラー上等だ。

 俺はクロノス・ヴァイスを強く握りしめ、再び浮遊魔法を展開した。

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