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第207話 接待と勧誘

 俺はドワーフの姫エイルたちと協力し、新たなる魔導兵器の開発に着手している。


 その名も「キラー・マシーン」。


 俺が『移し身の魔法』で乗り込んで操作する、多脚戦車型の殺戮兵器だ。

 ゆくゆくは使い勝手が良いように「写し身の魔法」を改良していきたいし、エイルたちにも機体のアップデートを継続してもらうことになっている。


 だが、それはこれからの話だ。


 開発に一区切りついたこのタイミングで、エイルたち五人のドワーフ少女には褒美を取らせようと思う。機体の操作訓練に没頭しているうちに、冬の短い日はもうじき終わりを迎えようとしていた。


 ヒュオオオ……と、庭木の枝を揺らす風の音が聞こえる。

 吐く息が白く染まるほど、気温が下がってきていた。


 身体が冷え切る前に、俺は五人を屋敷へと招き入れた。



 ***


 あらかじめ連絡を入れておいたので、風呂の用意は万端だ。

 俺は五人を浴室へと促した。


 脱衣所の扉を開けた瞬間、モワッとした熱気と共に、ひのきの香りが漂ってくる。


「わあ……! 屋敷の中にこんな立派な温泉をお持ちとは、流石はゼノス様です」


 大理石で造られた広大な浴槽に、なみなみと湯が張られている。湯口からはドバドバと勢いよく湯が注がれ、浴室全体が濃密な白い湯気に包まれていた。


 アイゼン山脈には天然の温泉が湧いているため、彼女たちにとって入浴は身近な清めの儀式だ。エイルはこの贅沢な湯量を見て、それを温泉だと思い込んだらしい。


「正確には水を沸かした湯なのだが、まあ細かいことはいい」


 俺は彼女たちへの褒美として、その身体を隅々まで洗ってやることにした。

 一日中、機械油とすすにまみれて働いた彼女たちへの、最高の労いだ。


 彼女たちは温泉以外の風呂に慣れていないようで、タオルで前を隠しながら酷く恥ずかしそうにしているが、構わず手を動かしていく。


 まずはエイルだ。

 小柄だが、職人らしく筋肉のついた腕から始め、手、指の先まで丁寧に石鹸で汚れを落としていく。


 泡立った石鹸が、彼女の褐色の肌を滑り落ちていく。エイルは顔を茹で蛸のように赤らめて、視線を彷徨わせている。


 次に、足の裏を洗うことにした。


「ひゃうっ!? んひっ……くすぐったいですっ」


「少し我慢しろ。ここもしっかりと洗わねばならん」


 足の裏は敏感らしい。

 俺は彼女の小さな足の指の間まで、指を差し込んで丹念に洗っていく。普段、自分たちでは行き届かないであろう場所を徹底的に磨き上げる。


「あの、そこは恥ずかしいです。自分で……んっ、ぁ……」


「だめだ。俺に任せろ」


 俺は凝り性だ。洗い残しがあるなど我慢ならない。

 爪の間の黒ずみ一つ許さない覚悟で、スポンジを走らせる。


 肌を傷つけないよう、あくまで優しく、だが執拗に指を這わせていく。

 日常生活では靴の中に隠されている場所を露わにされ、他人の手によって磨かれる。彼女にとってそれは、一種の陵辱に近い感覚なのかもしれない。


「そのような場所を……まじまじと見られるのは……」


 恥じらって身をよじる姿には、庇護欲をそそる可愛らしさがある。

 もっと辱めてやりたいというサディスティックな欲求と、これ以上は可哀想だという慈悲が俺の中でせめぎ合う。


(――まあ、結局洗うんだがな)


 結局、エイルをピカピカになるまで清め終えた俺は、残りの四人も同様に磨き上げてやった。浴室には、少女たちの甘い悲鳴と、お湯の跳ねる音だけが響いていた。


 その後、皆で湯に浸かり、身体を芯から温める。


「はぁ~……生き返ります……」


 冬の訪れ。

 暖炉と魔道具で室温を上げているとはいえ、外気は冷たい。

 寒さの中で熱い湯に浸かるという贅沢を、俺たちは存分に味わった。



 **


 風呂から上がり、さっぱりとした気分で食堂へ向かうと、夕食の準備が整っていた。テーブルには湯気を立てるシチューや、香ばしく焼けた肉料理が並んでいる。


 普段、彼女たちは自分たちの郷土料理を自炊しているが、今日は俺がシェフに特別に用意させた。


 たまには異国の味を堪能するのも悪くないだろう。


「おいしい! このお肉、とろけます!」


 少女たちが目を輝かせて食事を楽しむ様子を眺めながら、俺もワインを傾けた。


 食後、冷え込みの厳しくなったドワーフ小屋まで彼女たちを送ることにする。

 屋敷の外に出ると、張りつめた冷気が頬を刺した。空には凍り付いたような星々が輝いている。


「外は寒いですし、ゼノス様が冷えてしまいます。ここからは自分たちで……」


 エイルは遠慮していたが、俺は構わずにエスコートした。

 ザク、ザク、と霜柱を踏む音が夜道に響く。


 成果を出した者へのねぎらいは主人の義務だ。


 この世界で「キラー・マシーン」を作り上げられるのは彼女たちだけだろう。

 俺に前世の記憶という「発想」があったとしても、それを形にする技術がなければ意味がない。


 本人たちは自覚していないが、彼女たちは今、この世界に技術革命という名の変革を起こしているのだ。


 それを思えば、特別な接待など当然のことだ。

 何より、俺はエイルを気に入っている。彼女の小さな背中を見送りながら、俺は満足げに息を吐いた。白い息が夜闇に溶けていった。



 ***


 屋敷に戻った俺は、使用人と同じ食事を乗せたトレーを手に、地下へと転移した。


 湿ったカビの匂いが鼻をつく。


 物置小屋――

 現在は暗殺者の少女を閉じ込めている監禁部屋だ。


 俺が姿を現すと、彼女は即座に身構え、警戒の視線を向けてくる。

 薄暗い魔法の灯りの中、彼女の鋭い瞳だけが、獣のように光っていた。だが、以前のようにいきなり襲いかかってくることはなくなった。


 食事の世話を続け、抵抗後の「尻叩き」で分からせてきた成果だろうか。

 あるいは、ただの無駄な足掻きだと悟ったのか。


 彼女は無言を貫いているが、俺が食事を口に運び、食後に歯を磨いてやっても抵抗はしない。シャカシャカと、静かな地下室にブラシの音だけが虚しく響く。


 仕上げに口をゆすがせながら、俺はわざと重要な情報を落としてやった。


「俺は現在、イスファラの領主サーメフと組んで、カリム大臣に対する反逆を計画している」


 彼女の目が、微かに揺れた。


 これまで何を聞いても石のように無反応だった彼女が、慌てて口を動かし、勢いよく水を吐き出した。


 ブフォッ!


「げほっ、ごほっ! ……あ、あなた、正気!?」


 彼女は濡れた口元をぬぐうことも忘れ、俺を睨みつけた。


「……なんて無謀なことを。水を止められてしまったら、地方都市なんて一溜まりもないわ。無意味に人が死ぬだけよ」


 的を射た指摘だ。

 やはり彼女は、身体能力だけでなく頭の回転も悪くない。その声には、怒りよりも深い絶望が滲んでいた。


「お前はもう奴隷ではない。それでもカリムに逆らえないのは、奴が怖いからか?」


「ええ、そうよ。あいつを裏切ったと知られれば、貿易商をしている私の部族が『砂のサンド・ファング』の標的にされてしまう。盗賊団に常に命を狙われる状態で、行商なんて続けられないわ」


 なるほど。

 彼女が屈服しているのは、個人の恐怖ではなく「部族」という守るべき対象があるからか。彼女の手が、膝の上で強く握りしめられているのが見えた。


「俺がカリムを抑えてやる。その後でいい、俺の下に付け。悪いようにはしない」


 俺は淡々と告げる。

 その言葉が、彼女にとってどれほどの救いになるか、あるいは新たな悪魔の囁きに聞こえるか。


 彼女の答えを待たず、俺は転移で寝室へと戻った。


 一瞬の浮遊感の後、ふかふかの絨毯の感触が戻ってくる。

 窓の外では風が唸りを上げている。

 夜風は一段と冷たさを増しているようだ。


 明日に備え、しっかりと毛布にくるまって眠るとしよう。

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