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6:気狂いの告白


「おはよう、ラピス」

「……おはようございます、アウル様」


 アウル様は街に留まり、私に毎日会いに来るようになった。

 手土産に、私の好物を携えて。


「市場で良い林檎が手に入ったよ」

「はあ」


 真っ赤な林檎を手渡され困惑する私をよそに、勝手に家の中へ入っていく。

 婚約者だった間も色んな贈り物を持ってきた。どれもこれも、どうして知っているのか問い詰めたくなるほどに私の好みのものばかりで、引いてしまったことがある。


(好きだろう、って当たり前のように言うのよね)


 そこまで考えてふと気がつく。


(そういえば、ここに来てから言われなくなったわ)


 一体どういう風の吹き回しなのだろう。

 私を油断させて、また殺そうとしているのかもしれない。


(……そんな回りくどいことしなくたって、殺されてあげるのに)


 しゃり、と。その場で行儀悪く林檎を齧った。

 音に気がついたのか、アウル様はこちらを振り返って目を見張る。


「お腹すいてるの?」

「……いえ、なんとなく食べてみただけです」


 不思議そうに見つめてくる目に居心地が悪くなって、堪らず目を逸らした。


(以前なら、行儀が悪いと言って怒ったのに)


 殺される日をわざと早めることは、今までに何回もやった。

 最も効果的なのは怒らせること。彼が嫌うことを率先してやれば、要らないものだと認識して殺してくれた。

 何回も繰り返すのはとても疲れる。だから、折角転生しても気が乗らなければすぐに殺されていた。

 どうせ死ぬなら、彼の手で死にたかったから。


「ラピス? どうしたの」


 有り得ないことに、アウル様は気遣いながらこちらに近付いてきた。

 今までそんなこと、一度もなかったのに。


「具合悪い? 林檎、美味しくなかった?」

「いえ……」


 美味しいとか、マズいとか。もう分からなくなってる。

 しゃりしゃりといくら齧っても、味なんてものは何も感じられない。


「……ごちそうさまでした」


 林檎を齧り続けて芯だけを残し、それを持って庭に出る。

 後ろからあのひとが付いて来るのを感じながら、土を掘って芯を埋めた。


「……もしかして、味覚がない?」

「!」


 思わず立ち上がって、彼を見た。

 私の態度を見て確信したらしく、アウル様はとても悲しそうな顔をした。


「最初に、舌を噛み切ったから……?」

「な……っ」


 どうして、そのことを。


「まさか……憶えていらっしゃるのですか?」

「……正確には、思い出したんだ。君が逃げる一か月前くらいかな」


 悲痛な面持ちのまま立ち尽くして、アウル様は「ごめん」と言う。


「今更謝っても遅いと思う……でも、ごめん」

「……自死の方法を選んだのは私です。後悔はしていません」


 恨んではいるけれど、後悔はしていない。


「アウル様、貴方は私にどうしてほしいのですか」

「……傍に居てほしい。離れないでほしい」


 恐る恐ると近付いて、私の服の裾をそっと摘む。


「泣かせたくない。傷付けたくない」


 ぽたりと落ちる雫に、ああまたかと嘆息する。


「離れた方がいい。自由にしてやった方が、君は幸せになる。そんなの分かり切ってる。……でも、無理なんだ。耐えられない」


 大雨のように泣き出す、情けない顔を見つめる。こんなに泣く彼は、前世のどの記憶にも存在しない。


「好きなんだ。狂おしくて、傷付けたくなるほどに。君が好きだったんだ」


 まるで血を吐くような告白だった。

 彼の愛は、私と同じく気狂いのそれなのだと知った。

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