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5:嫌です


 笑ってやったというのに、謝るばかりで一向に帰ろうとしない。殺してもくれない。どうしたものかと困り果てていると、親友が駆け付けてくれた。


「大丈夫?」

「大丈夫そうに見えますか?」

「大事故ね」

「茶化さないでください」


 親友は冷たく彼を一瞥してから、私へとニッコリ笑いかけた。


「仕方ないわ。ひとまず家へ入れなさい」

「でも」

「だって彼、情けない姿をしていても成人男性よ。女二人では手が付けられないわ」


 それに、と。彼の腰元にある立派な剣を見ながら、親友は付け加える。


「元とは言え、かの有名な騎士団長様なのでしょう? この辺境にいる男では、どのみち太刀打ちできないわ」


 ほらほらと促され、渋々彼を家へと入れた。

 居間のソファに私と彼は並んで座り、親友は向かい側へと腰を下ろした。


「改めまして、お久しぶりですアウル様。我が領地へようこそお越しになられました」

「……ラピスが世話になった。感謝する」

「親友の頼みを聞くのは当然のことですわ」


 ようやく落ち着きを取り戻した彼に、親友は淡々と受け答えをする。


「それで、アウル様。今回の訪問の日程をお伺いしても? 何せ事前連絡も無かったものですから、お出迎えの準備ができておりませんの」

「構わない。僕はラピスに会いに来た。しばらくラピスの家に泊まりたい」

「ラピス、あなたはそれでいいのかしら」

「……嫌です」

「と、言っておりますがいかがなさいますか? よろしければすぐに代わりの宿を手配いたしますが」

「……ラピス、どうしても嫌か」


 縋るように見られても困る。

 というか、考えれば分かることだろうに。


「嫌です」

「……そうか」


 食い下がられると覚悟していたのに、案外あっさりと引いた。少し不気味に感じる。


「領主どの、宿の手配を頼む」

「承知しました。しばしお待ちください」


 親友が立ち上がって居間から出て行く。

 必然的に二人きりになってしまい、色々と気まずくて明後日の方向を見ていた。

 しかし、一番話したくない相手から声をかけられてしまう。


「ねぇ、ラピス」

「……なんですか」

「ここでの暮らしは、楽しかった?」


 質問というより確認に近い問いかけだった。

 もちろん、答えは決まっている。


「楽しかったです。何もかも放り出して、自由に過ごせました」

「……そう」





 しばらくして親友が戻り、彼を伴って家を出ていった。

 抵抗も無くすんなりと連れて行かれたのを見て少し拍子抜けしたけれど、すぐに気を引き締めた。


(あの男は、今まで散々私を裏切った)

(気を許してはいけない)


 二人が出て行った扉を見つめながら、心に強く誓った。


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