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Phase.612 『回復薬を求めて その3』



 ガサッガサッ……


「あっ!」

「見つけた? 不死宮さん」

「ちょっといいかしら」


 不死宮さんが、何かを見つけた。森はかなり暗くなっているから、目当てのものなら嬉しい。しかし不死宮さんは草むらの中へ、ずんずんと歩いて行くので、ここは拠点内じゃないのにと思いハラハラする。


「北上さん」

「オッケー。ちゃんと鬼灯についてるから」

「ありがとう」


 1人で草むらに入って行く不死宮さんを、追いかけてくれる北上さん。佐竹兄と岩城さんもついて行こうとしたので……


「2人は周辺の警戒を頼む」

「周辺か」

「ああ、ここは拠点の外だからな。何がいるか解らない」

「ハハハ、猛獣とか出てくるか?」


 佐竹兄は、おどけてみせた。でもそれは彼の自信の現れてあることは、十分に理解していた。少し迂闊じゃないかと思う反面、心強くも思う。なにせ、身体つきはアメフト選手さながらでデカくてがっしりしている。まあ、がっしり度で言えば、トモマサと揃ってうちの二枚看板だな。


「以前、未玖がこっちの方に住んでいた」

「未玖ちゃんが?」

「ああ、俺と出会う前の話だよ。それに位置的には、もっと北西でな。いったいどんなところに未玖は住んでいたんだろうなって思ったのもあって、探検がてらに行ってみたんだ」

「もしかして、その時に猛獣に襲われた」

「襲われていたら、終わっていただろうな。俺も未玖もサーベルタイガーの腹に収まっていたかもしれない」

「サ、サーベルタイガーだと⁉ サーベルは剣だろ? タイガーって言えば、虎じゃねーか、なあ、おい!」


 よほど驚いているのか、相棒である岩城さんに同意を求める佐竹兄。


「実際に見たから言ってるんだよな」

「実際に見た。虎程の大きさに、長くて太い……そうだな、例えるなら犀の角。あれみたいな牙が2本も生えていたよ。動きを見ても、あの身体からは想像もつかないような俊敏な動きをするように見えた。そう、虎のようにな。でもあれは、魔物だ。虎よりもヤバいと思った方がいいかもしれないな」

「そ、そうか。そんな奴がこの辺りに徘徊しているのか」

「正確には、しているかもしれないって話だ。今ここにいても、ぜんぜん不思議じゃない。煽る訳じゃないけど、例のブルボアだってそうだ」

「ブルボア……」

「あいつが現れたら、今の俺達の装備じゃ勝てないだろう。全滅するかもしれない。だからもし危険な奴が現れたなら、相手より先に俺達が見つけるんだ。そうすれば、逃げるにしても戦うにしても、そして隠れるにしても先手が討てる訳だ」

「なるほど、ちゃんと了解したよ。椎名さん、俺と岩城はあんたの仲間になってまだ浅いが、俺達はいいリーダーのいるクランに入ったようだな」

「買いかぶりだよ、きっと。このクランは、リーダーじゃなくてその仲間が優れているんだよ」

「へえ」


 ついうっかりとは言え、ちょっと恥ずかしい事を言ってしまった。新入りだったとしても、仲間は仲間。優れた仲間とは、当然佐竹兄や岩城さんも入っている。その事にちゃんと気づいているのか、佐竹兄はまんざらでもない顔をしてみせた。


 ガサガサガサ……


 不死宮さんの姿が消えた。とりあえず、佐竹兄と岩城さんにこの場で警戒してもらい、俺は不死宮さんと北上さんのいる草むらへ入った。草の高さは、腰ほど。北上さんは、見えるけれど不死宮さんの姿がない。


「不死宮さんは?」

「ここにいるよ」


 北上さんはそう言ってすぐ近くを指でさした。草を掻き分けて近づいて見ると、そこに彼女いた。四つん這いになって、何かを探っている。


「不死宮さん?」

「これ見て!」


 バッと振り返った不死宮さんの姿を見て、ぎょっとしてしまった。両手には、何かの草を握りしめていて、その手も顔も服も土で汚れてしまっている。普段はとても大人びて見えるのに、こういう時は別の顔をした彼女が姿を見せる。やっぱり研究者……というか、博士タイプの人なのだろうか。


 因みに博士タイプっていうのは、まあ勝手な俺の想像なんだけど、天才なんだけどちょっと変わっているイメージだ。興味のある事に没頭すると、他が何も見えなくなる。みたいな感じかな。


「それは?」

「ここは、結構な種類と数の薬草が自生しているわ。こっちのは、初めて見る子だけど、こっちの子によくにている。ニオイを嗅いでみて、少し舐めてみたんだけど……やっぱり同じ種類かもしれない。それならこの子も、薬草として使えるわね。勿論、使用する為には持ち帰ってもっとよく調べてみてからだけど」

「そうか、凄いな」

「私達の拠点はかなり広いけれど、やっぱり外にも踏み出してみないと駄目ね。こうやって少し出ただけで、まだ見た事のない植物と出会えたりするのだから」

「そうだな、でも1人で外に探索にって言うのは、流石に危険だから、今後どうするかまた考えて行動しよう。それで、どうだ? そこに生えている薬草を持ちかえれば、ポーションは完成できそうなのか?」

「是非、持ち帰りたいわ。けれどこれだけでは、あの回復ポーションを精製する事はできないわ。草だけじゃなく、キノコも使用をしているし」

「キノコか……解った。じゃあ、ここにあるのは採取していこう。佐竹さん、岩城さん!!」


 2人を呼ぶ。佐竹兄は、大きなザックを背負ってきていた。そう一番パワーのある彼に、ポーションなどの材料を背負ってもらう為だった。


 佐竹兄と岩城さんが近くに来て、背負っているザックを下ろし不死宮さんを手伝おうとすると、彼女は自分のザックからシャベルを取り出して言った。


「待って。薬草採取は私がやるから、そしたらそれぞれこのビニール袋に入れてザックへお願いできるかしら。根を傷つけると、枯れてしまう子だっているから、そうならないように傍の土を掘って、持ち帰るのよ。ちょっと待って、急いでその作業を終えるから」

「いや、でも、怪我人が待っているんだろ? なら早く集めて……」


 佐竹兄の肩に触れて言葉を止める。彼女には、彼女のやり方があると伝えた。


 俺が思う今一番の優先事項は、この中で唯一回復ポーションを作れる彼女のペースをできるだけ乱さないようにして、ポーションの精製に集中してもらうことだ。


 不死宮さんは、色んな知識を持っていてとても頭のいい人だ。草原エリアの救護テントで、怪我人の手当てをしていたのも彼女だ。こういう事は、一番よく解っている。


 兎に角、今俺達は、彼女にあれこれ言うことじゃなくて、できるだけサポートをすることだと思った。


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