Phase.611 『回復薬を求めて その2』
前衛は俺と佐竹兄と……とか思っていたんだけど、佐竹兄がずんずんと勝手に前に出る。なので俺と岩城さんは、中衛という感じになり、後衛を不死宮さんと北上さんになった。
「本当に行くのかい?」
「もう直に陽も堕ちてきているけど」
「ああ、解っている。でも行ってこないといけない」
「なら僕らもついて行くよ。戦闘になったら、大して役には立たないと思うけど、それでも数がいるっていうのは強みになるからね」
「ありがとう、でもとりあえず5人で行くって決めたから大丈夫だ。応援が必要にやったら頼むよ。それで……2人はパブリックエリアには行かないのか? 今晩、そこで翔太がパーティーをするんだけど」
「ああ、何もなければ勿論ぼかあ行きたいって思っていたよ。ねえ、団頃坂さん」
「そうだな。だが拙僧と最上さん、共に秋山君のパーティーへ参加すれば、この川エリアが手薄になるからな。この辺りは、最近おかしなものを見かけるし……油断はできぬ」
おかしなもの? 幽霊とかの事だろうと思った。
「そういう事で、パーティーへは交代で参加しようと思っているよ。だからここには、ぼくか団頃坂さんかのどちらかがいる事になっているからさ。手伝いが必要なら、遠慮なく言ってね」
「ありがとう。それじゃ、行ってくる」
「くれぐれも気をつけて」
いつも川エリアにいる最上さんと団頃坂さん。彼らに見送られ、俺達は川エリア北側のバリケードを越えた。既に時刻は17時を越えて薄暗くなってきている。ここら一帯は森になっていて、余計に暗く見えて拠点の外というのも重ねて不気味にも思えた。
出来る事なら、もっと明るい時に行動したい。けれど今は、一刻も早く回復ポーションを作る素材を手に入れなければ。
ブンブンと斧を振り回しながら、ずんずんと先へ先へ移動しようとする佐竹兄を呼び止めて、不死宮さんに声をかけた。
「不死宮さん。ポーションを精製する素材なんだけど……」
「数種の薬草や、キノコ、それに……まあ色々あるわ」
「それで、まずはどっちに向かえばいいかな? そりゃ不死宮さんだって、必要な素材が何処にあるなんて解らないだろうし、そんなに拠点の外へ出てもいないだろうから難しいだろうけど……でも俺達は君よりも、ぜんぜん見当もつかない。だからなんとなくでもいいから、道を示して欲しい」
なんとなく必要なものは解った。でもそれがどういうものか詳しくは解らないし、必要な量も解らない。不死宮さんはとうぜん解っているだろうけど、薬草とかが自生している所までは知るはずがない。それでも彼女なら、その素材がどんな色をしてどんな形を成しているかとか、そういうのは理解しているはずだし、俺たちよりは見つかりそうな場所を発見できると思った。
「そうね。じゃあ、あっちかしら」
「あっちか」
不死宮さんが指でさした先。この川エリアの北側は、森のようになっていて緑も多い。けれどそこは、更に草木が密集している感じのする場所だった。なるほど、薬草やらキノコやらを見つけるなら、沢山植物が生えていそうな場所を探すのは当然だな。
「よし、それじゃ行ってみよう。佐竹さん」
「おう、先頭は任せろ!! 何か出てきたら、この俺がぶっ倒してやるからよ。安心してついてこい」
「心強いよ」
そう言って岩城さんに顔を向けると、彼は両手を軽く挙げて首をすくめた。佐竹兄の相棒、それが岩城さんだ。もともと異世界に興味はあったみたいだけど、彼がこの世界へ来た大きな理由は、消息不明になった弟を探す佐竹兄に協力する為。
でも弟……佐竹さん達はブルボアに殺されてしまった。それ以来、岩城さんも佐竹兄と共に親しかった人の仇をとろうとしている。
親友の弟と、その友人達の無念。それを晴らす為にそこまでできるって、岩城さんにとっても佐竹さん達は、自分の弟のような存在だったのかもしれない。
ブルボア……あの軽自動車位の大きさのデカい、猪の化物。奴は、きっとまだ俺達の拠点からそう遠くない何処かで潜伏しているはず。
佐竹さん、戸村さん、須田さんは俺達にとってもいい友達だった。だから俺だって、いつか奴を見つけ出して、仇をとりたい。
不死宮さんが指をさした方へ向けて佐竹兄が歩き始めると、岩城さんは懐中電灯をつけて彼をサポートするように横についた。やっぱりいいコンビだな。俺の隣に北上さんが来た。
「十分に注意しないとだよね」
「ああ、注意はいつもしているけど、常に意識する事は大切だからね」
「それもそうなんだけど、ほら。モガさんやダンゴロさんも言っていたけど、川エリアの辺りってゴブリンの他にも大きな蚊の魔物とか、幽霊とか色々出るっていうでしょ?」
「言っていたな。未玖やアイちゃんも怖がっていたよ」
「ゴブリンや大きな蚊の魔物……ハンターバグなんていうのは、私のコンパウンドボウで射抜けば倒せると思うんだけど、幽霊が出たら倒せるのかなって思って……」
「そうだな……北上さん、アンデッド系の魔物との戦闘経験は?」
「ううーーん、ゾンビ意外はちょっとないかな」
ゾンビは俺も戦った。そしてアンデッドと言えばスケルトン。そして思い出すのは、やっぱり佐竹さん達だった。彼らは剣や槍などの武器、そして盾など防具を身に着けていた。それはどれもこの『異世界』のものだった。
そんな装備を何処で手に入れたのか。それを尋ねたら、佐竹さん達は俺達の拠点から少し南西に行った所にある古戦場跡で手に入れたと言っていた。そしてそこには、スケルトンなんてアンデッドモンスターも徘徊していたと――
ゾンビ、スケルトンがいるなら、幽霊だって存在する。ここは異世界なのだから、当然の考えだ。でも幽霊は、他のアンデッドと違って実態がないのでは――
もし現れて襲ってきたらと思うと、確かにぞっとする。どうやって倒せばいいのか……また襲ってくるとして、どんな攻撃をしてくるのか。想像もつかないからだ。
有名なファンタジーゲームでもあるような、もし火や雷みたいな魔法を使ってこられたらどうする? 太刀打ちできるのか? それだけでも、とんでもない脅威となるのは間違いえないと思うし、井戸から出てくるようなジャパニーズホラー映画のような存在であってもそれはそれで絶望感があると思った。
ポーションの素材探しに行く準備はまだ不十分で、早計だったかもしれない。でも行くしかないのだ。
移動しながらも、もしここにそんな恐ろしい魔物が現れたらというシュミレーションは、できる限りしておこう。現時点では、それくらいしか思い付かないし、何をやってもダメージを与えられない相手ともなったら逃げるしかないだろう。




