Phase.610 『回復薬を求めて その1』
ついに、来るべき日がやってきた。
それに備えて情報収集を行った。それで得た情報の中で、最も無視する事ができない事……それは、以前にもあった転移サービス休止の話。
その期間、今の俺達と同じくこの『異世界』に残った者達、もしくは残らざるを得なかった者達は、全員が消息不明になっているらしい。
それを聞いて、不安にならない訳がない。いったいこの異世界で、何が起こっておるのか。もしくは、これから何が起こるのだろうか。
もしかしたら、想像もつかないような事が起きるかもしれない。例えば、太陽が落ちて来るとか。そして世界が炎に包まれて、この世界にいる者全員が焼き殺される。そんな事が起こりえるかもしれないなんて事も、頭をよぎった。
馬鹿げている? いや、この世界には月が二つもあるのだ。俺達の常識では計りしれない、イレギュラーな世界。太陽が落っこちてくる可能性だってあるかもしれない。
……不安になる。いったいこの世界で、何が起こる? 過去に何が起きた?
でも実際、来るべき日がいざ来てみれば、それまでと何も変わらなかった。
転移サービスが復旧するまでの間、もとの世界へ戻れない……もとの世界からも新たに転移者がやってこないというだけで、全くこの世界はこれまでと何も変わらないように見えた。
でもまだ来たるべき日がやってきてから、一日目に過ぎない。気を抜くには、早すぎる。警戒を怠ってはならない。いつ、何かが起こるかもしれない。
例えば今、周囲で何かとんでもない事が起きていると言えば、ゴブリンに奇襲されて大怪我を負った人達が、俺達の拠点へ沢山逃げ込んで来たことだ。
あとは……ぜんぜん大した事ではないけれど、翔太がパブリックエリアでこれから仲間全員の士気を高めるとかなんとかで、開催しているパーティーがある。
現状で何かあるとすれば、それ位だけど……些細な事にも注意を払い、備えられる事があるのなら十分な備えをするべきだ。俺自身を守る為、そして仲間を守る為にだ。
その為にも、不死宮さんには回復ポーションをもっと量産してもらおうと思った。出来は、俺が丸太小屋で見つけたオリジナルに比べてかなり低いみたいだけど、それでも魔法といえるような効果が期待できる程だ。
だがそれを精製する為には、いくつかの材料が必要で、中には拠点の外へ調達に行かなくてはならないものも含まれていた。
俺は早速、回復ポーションを不死宮さんに精製してもらう為に、材料の調達に行く事にした。彼女に外へ行く準備をするように伝え、俺も武器や材料調達用のザックなどを持った。
一応出発する前に、翔太にこの事を伝えた。予想通り、翔太はクラン開催のパーティーにクランリーダーが出席しないなんてどーいうこったってブーブー不満を言っていたけど、草原エリアの救護テントで今も苦しんでいる人達を助ける為でもあるんだぞと説得すると、仕方ないなと頷いてくれた。
まあ早く戻ってくる事ができれば、後で少し顔を出せばいいだろう。俺がいなくても、翔太が上手くやってくれるだろうけど。
翔太と別れると、次に俺は北上さん、大井さん、成田さんにも拠点の外へ出る事を伝えておいた。大井さんと成田さんは、クラン副リーダーだし、言っておいて間違いはないと思った。
あと本音を言えば、誰か一緒について来てくれる仲間が欲しかった。流石に不死宮さんと2人だけじゃ危険だ。
でも今日は翔太が折角大がかりなパーティーを開いてくれているし、おそらく参加してくれているだろう大谷君達はちょっと誘いにくい。今頃は彼らも美味いものを散々食って、騒いで楽しんでいるだろうからな。水をさす感じにもなってしまう。
それでどうしようと悩んだ結果、俺を含めた5人で採取に出る事になった。ポーションを精製する為の素材を採取すれば、それを持ち帰らなければならない。ならこの位の人数が丁度いいだろうと思ったのだ。
「こりゃ丁度いいぜ! さっきのじゃ、ぜんぜん暴れ足りないって思っていたからな。それに運が良けりゃ、弟の仇と遭遇できるかもしれねーしな。よし、行くぜ!!」
「任せてくれ。俺らも一緒に行こう」
佐竹兄と岩城さん。小貫さんには、念の為拠点に残ってもらったけれど、彼等はあれからも拠点内をパトロールしてくれていた。だから声もかけやすかったというのが、彼等を誘った理由の1つ。そしてもう1つの理由が、マッチョな佐竹兄がいてくれたら戦闘力も十分に期待できるし、何と言っても頼もしい。おまけに薬草など採取したものを沢山持ってくれそうだと思った。
「ありがとう、よろしく頼む」
「おーーい、私も一緒に行くからね」
そう言ってついて来たのは、北上さんだった。救護テントのあったエリアから離れようとした所で声をかけられたのだ。
彼女は、大井さんや不死宮さん、そして青木さん達と共に怪我人の手当てなどをしてくれていた。
「えっと……北上さん、大丈夫?」
「救護テントの方は、大丈夫だから。海に任せてきたし。それに鬼灯も行くんでしょ? それなら私も行くからよろしくねー。私なら何かあっても、大丈夫だって事はユキ君なら知っているでしょ」
「ああ、確かにそうだな。それじゃ北上さんにもお願いするよ。よろしく頼む」
「はーーい! 任せてーー。それじゃ愛用の弓とか――外へ出る準備してくるね」
正直、この5人の中で一番戦闘能力が高そうなのが佐竹兄で、その次が北上さんかもしれない。得意のコンパウンドボウがあれば、ぶっちぎりで一番かも。彼女の弓の腕前は大したものだし、あのコンパウンドボウの破壊力はとんでもなかった。更に付け加えるならば、彼女は佐竹兄はもとより俺よりもこの世界に慣れていた。
まあ、あとそれに、不死宮さんも自分以外がむさ苦しい男達っていうのよりは……もう1人女の子がいた方が、気持ちが楽なんじゃないかって思った。
これが素材集めに外へでるメンバー5人。不死宮さんに、素材を採取するのに何処へ向かえばいいのか聞いてみた。必要なのは、数種の薬草、それにキノコなどもあるとのこと。一番それが自生していそうな場所を考えて、俺達は川エリアに移動すると北側に配置してあるバリケードを超えて外の世界へと出た。
時間はもう17時を回っている。薄暗い。大丈夫かと一瞬不安になるも、ここまで準備したらやるしかないと腹をくくった。あの人達を助ける為だ。




