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Phase.609 『回復薬作成』



 草原エリアにいくつも建ち並ぶ救護テント。大井さんと別れた後、今度は不死宮さんと一緒に見て回った。彼女とも話をしておきたかった。


「かなり酷い、怪我人もいるみたいだな」

「いるわね。美幸や海、青木君が率先して手を貸してくれているけど、なかなか思うように助けてあげられないわ」

「人が必要なら、俺も手伝わせてくれ。他に手の空いている者にも、声をかける。言えば、皆手伝ってくれると思うから……って、さっきも大井さんに言ったんだけど」

「少し前までモンタ君や未玖ちゃん達も手伝ってくれていたし、手は足りているわ。それよりも……」

「回復ポーションか」


 不死宮さんは、回復ポーションを作る事ができるかもしれない。サンプルとして、持っているポーション4本のうち2本を手渡した。


 あれを使っても2人しか助ける事ができない……でももし、新たに同じものが作れたら事態は激変するだろう。唐突に不死宮さんの目の奥が、光り輝くように見えた。


「もしかして、不死宮さん? 回復ポーションって……」

「ええ、椎名さんから譲り受けたオリジナルに比べれば、効果は比べ物にならない位に低いけれど、まるで回復魔法でもかけたかのような神秘的ともいうべき効能のあるものを、いくらか作る事はできたわ」

「な、なに!! そ、それは本当に⁉」


 まさか本当に!! もしこの話が本当なら……って、不死宮さんが俺に嘘をつく理由も必要もない。


 そうだ、本当の事なんだ。俺達は、ついにこの異世界の力を手に入れる事ができた訳だ。オリジナルに比べて効果が薄いなんて、関係がない。これは、これからの大きな一歩になる。


「ええ。先に言ったように、本数はまだ大して作れていないわ。けれど、それでもいくらか精製する事はできたし、既に実験も行って成功しているわ」

「実験?」

「ええ。自分の腕をナイフで切って傷をつけ、そこに回復ポーションを使用する単純なものよ。結果、カッターナイフでつけた切り傷程度なら、あっという間に跡形もなく消えてなくなるわよ。ピリッとした痛みは、暫く残るけどね」

「そうなのか。じゃ、じゃあ、それを使えばここにいる人達も助ける事ができる訳か」

「ええ、既にそうしている。私達が一般的に知っている手当てや看護はしている。そして回復ポーションも、オリジナルには及ばないけれど、それでも救える命もあるから」

「ありがとう不死宮さん。君は、本当に凄い人だな」

「信じていたから、貴重な回復ポーションを2つもくれたんじゃなかったのかしら?」

「もちろん、信じていたよ。不死宮さんなら、なんかしらの成果をだしてくれるんじゃないかって。でもこれは予想以上だ」


 回復ポーションを作れるなら……量産できるなら、この異世界ライフはもっと安全になるのではないかと思った。不死宮さんだって、好奇心もあっただろうけがそう思っていたのは間違いえないはず。なのに、次第に表情を曇らせる。


「不死宮さん。回復ポーションは、どのくらいあるんだ?」

「……ちょっとこっちへ来てくれないかしら」

「ああ」


 草原エリアの今いる一画に、いくつも建ち並ぶテント。そのテントは、ほとんどがゴブリン共に襲われて怪我を負った人達を収容している救護テントだった。しかしその中には、別の用途で使用しているものもあった。その一つに、案内される。


 不死宮さんに連れられて中に入ったテントには、包帯やガーゼ、テッシュ、絆創膏。もとの世界から持ってきた色々な救急セットや薬の他に、俺が不死宮さんに渡した回復ポーションに使用されていた瓶によく似たものがいくつか並べられて置かれていた。


「これか……」

「そうよ。思ったよりも少ないでしょ?」

「それは、ここにいる怪我人の為に使用したからじゃないのか? なら数が減って当然だろ」

「そうよ、でも足りないの」

「足りない?」

「言った通り、ぜんぜん足りない。私が精製した回復ポーションは、オリジナルまでといかなくても、魔法のような治癒効果が期待できるわ。でもね、今ここで横になっている怪我人の数は50人を超えているわ。これじゃ、全く足りないのよ」

「なら、新しく精製する事はできないのか? ここを他の誰かに任せて、その間に不死宮さんと青木さんでどうにかもっと数を精製するとか……」

「そうね、できる事ならそうしたい。でも薬を作るにも、材料がいるのよ。それが圧倒的に足りない」


 材料……回復ポーションを作る為の素材。よく解らないが、もととなる薬草とかそういうのだろう。


 そうなのだ。回復ポーションを作るとしても、何もない所から何かを作る事なんてできない。当たり前の事だった。それにもしかしたら、その素材は手に入りにくいものかもしれない。


「薬草畑には、沢山の薬草があったはずだけど……」

「あの薬草も使用するけど、他にも別の種類の薬草が必要になるわ。その中には、拠点内で手に入らないものもあるわ」

「じゃあ、取りに行くしかないか」

「必要な素材は、木の実とかキノコとか薬草以外もいくつかあるし、その薬草も一種類じゃない。きっと私でないと、集められないと思うから」

「それでも、頼めないかな? 今から直ぐにでも採りに行きたい」

「でもパブリックエリアでは、パーティーをやっている最中じゃない?」

「それを言うのならパーティーをやっているのに、不死宮さんだってここで怪我人を相手に頑張っているだろ。重傷を負って危険な状態にいる人もいるみたいだし、事態は一刻を争うと思う。とりあえず、俺の他に誰か協力をしてもらうから、これから一緒に素材を調達に行こう」

「……ええ、そうね。解ったわ。それじゃ、直ぐに準備をするわね」


 草原エリアでは、50人以上の怪我人の治療を行う事になり、パブリックエリアでは翔太が皆を集めてこれからの異世界ライフを上手くやっていくために、パーティーを開催していた。


 来るべき日がやってきた初日から、色々な事が起きて忙しくなってきたけど、とりあえず優先順位をつけてやっていくしかない。1つずつ潰して行くんだ。


 ならまず俺は、不死宮さんと回復ポーションを作る為の素材を採取しに行く。これから始める事に決めた。


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