Phase.607 『一仕事後……』
倒したゴブリンは、全部で20匹を超えた。そのほとんどを、トモマサと佐竹兄が倒した。俺と鈴森は、ぜんぜんだったが、別にどちらがよりゴブリンを仕留めたかなど勝負をするつもりも、しているつもりもなかった。重要なのは、全て倒したかどうか。
拠点の周囲にまでやってきているゴブリン共の完全なる排除。それと周囲の状況を見たかっただけだった。
とりあえず周囲のゴブリンは、あらかた退治できただろう。俺達はそう判断して、拠点へと引き返した。戻ると、慌ただしく資材やら工具を持って駆けている成田さん、松倉君、郡司さんの姿が見えた。拠点を囲っているバリケードを見て回り、そこで問題を見つけたのだろう。
「それじゃ、ユキ!! 俺達は、このまま拠点内にゴブリンやらが侵入していないか、見てくるわ」
「頼む。それと、トモマサ」
「ああ?」
「今晩は、パブリックエリアでパーティーをするって翔太が言っていたから、来てくれよ」
「こんな状況でやれんのかよ?」
「こんな時だから、やった方がいいんだよ。しかも来たるべき日がついにやってきたけど、まだ一日も経っていないんだぞ。何が起こるか解らないし、だからと言ってずっと気を張ってもいれない」
「そうだな。酒とかご馳走とか酒とか酒で、皆の不安を取り払ってやんねーとな」
「酒が多いぞ。それとパーティーで賭け事をするなら別に構わないが、厄介な事になるのはごめんだからな。トラブル無しで頼むぞ」
「はいはい、解ってるって。そんじゃ、ちょっくらゴブリンがいねーか見てくるわ」
トモマサはそう言って、我星君と狗柴君を連れて草原エリアの方へと歩いて行った。
「椎名、俺もちょっと見てくる。川エリアや羊の住処エリア辺り、見ておいた方がいいだろ」
「すまん、頼むわ」
「了解。じゃあ、また後でな」
拠点の北側と北西を鈴森に任せた。そう言えば、最近川エリアの方で不気味な話が多い。そっちからゴブリンが襲ってきた事もあったし、見た事もないくらいのデカい蚊の魔物が襲ってきた事もあった。そして最近じゃ、幽霊の目撃情報だ。
幽霊……馬鹿げているという奴もいるかもしれないが、この異世界ならありうる。しかもそいつは、人を襲ってくるのだ。
ファンタジーゲームをプレイした事がある奴ならピンと来たりするかもしれないが、幽霊っていうのはスケルトンやゾンビ、ヴァンパイアと同じくアンデッド系と呼ばれる定番の魔物なのだ。
神聖系魔法が使えるとか、この異世界の聖水を手に入れるとか、そういうのがあれば幽霊を倒せるかもしれない。でも今の所、ゲームや小説、アニメで異世界転移する事によって得られる特別な力……なんていうのは、俺達にはない。
ならゴブリン達と戦うように、ガチで幽霊と勝負しなければならないだろう。そうなれば、実態のない相手に剣や銃でダメージが与えられるのだろうか。
「さて、じゃあ後は俺達だが、どうすればいい?」
トモマサ達、鈴森がこの場を去って、佐竹兄と岩城さん、小貫さんが目の前に残っていた。
「とりあえず、ゴブリン退治を頑張ってもらったからな。暫く、休憩してくれ」
「俺はまだまだ動けるぞ! なんなら、もう一度外へ出て、ゴブリンがいたらぶっ殺してきてやるが」
「いや、外へは出ないでくれ。またその時は頼むから」
「なら何をすればいい?」
何をすればいいって……
迫ってくる佐竹兄。やる気があるのはありがたい事だが、アメフト選手みたいな身体で近づいてくるので、圧が凄まじい。俺が困っているのを見て、岩城さんはクスクスと笑う。
「いや、佐竹は椎名さんの役に立ちたいんだよ。少しでもね」
「そうだ。俺は役に立つぞ」
「そうか、それじゃ……どうしようかなー……」
今度は俺が小貫さんへ、何かないかなと視線を向ける。すると小貫さんは、何か思いついたとポンと手を打った。
「それなら、ゴブリンに襲われて怪我した人達を見て回ろうか。手当てとか、何か手伝えることがあるだろう」
「それはいいな。じゃあ、北上さんや大井さんが仕切ってやってくれていると思うから、そこへ行って手伝ってやってくれ。あと、ゴブリンの事とか、何か有益な情報があれば聞き出しておいてくれると助かる」
「解った。任せろ!」
佐竹兄、岩城さん、小貫さんの3人と別れる。さて、どうするか? とりあえず、未玖達の事が気になるし、彼女達の様子を見に行こうか。未玖は、アイちゃんや児玉さんと一緒に、北上さん達を手伝っているはずだ。
パブリックエリアを見回す。俺達の拠点を利用する大勢の転移者達。ゴブリンにやられた人達が使用している、大型のテントがいくつも見える。集団。
…………
豊橋専務や、大石さん達以外にも転移者がこのエリアに沢山いる。パブリックエリアは、他の転移者に利用料を支払ってもらえば使えるように一般開放している。
要はキャンプ場みたいな感じかな。代金さえ払ってもらえれば拠点の内側に入れるし、未玖達がやっている店や竜志のラーメン屋とか安藤さんの店なども利用できる。
それだけに初めて見る顔が何人もこのエリアを行き来しているのも、もはや珍しくない当たり前の事になってしまっていたが……来たるべき日がやってきたっていうのに、こんなにもこの異世界へ残った人達がいるんだと改めて衝撃を受けた。
残るからには、大きなリスクができる。だから皆、色々と情報を集めているはずなのだ。以前もあった転移サービス休止期間。その時に、こっちの世界に残った者達は全員消息不明になっていることを当然として、知っている――




