Phase.606 『種類』
ギャギャッ!! ブヘエエ!!
草陰から飛び出してきた3匹のゴブリン。トモマサがその1匹の頭蓋を斧で割ると、続けて我星君と狗柴君も手に持っていた棍棒で、残る2匹を粉砕した。
流石マッチョというか、プロレスラーの腕力というか……殴られたゴブリンは、一撃で絶命していた。恐る恐る傷痕を見に行くと、殴打された箇所が陥没している。俺が全力で振る剣の一撃よりも、我星君達の棍棒の一撃の方が遥かに強烈であると見て解った。俺と鈴森は、身を屈めていただけで戦闘に参加もできなかったようだ。
「やっぱり人間様を殺そうと襲ってきやがったのは、ゴブリンだったな」
トモマサは、倒したゴブリンの死体を蹴り飛ばすと笑って言った。
「おい、気をつけろよ」
「気をつける? 何を? こいつらはもう死んでいるさ」
「そうじゃない。まだ潜んでいる可能性はあるぞ。ゴブリンにやられてうちの拠点に逃げ込んできた転移者は、ざっと見ても30人位いただろ」
「えっと、3組のクランがやれたんだっけか?」
「そうだけど、その中には魔物と戦う為にパーティーを組んでいた者もいたらしい。俺が言いたいのは、それだけの準備や武器を持った者がいても、やられて逃げまどう羽目になった事だ。どうしてだと思う?」
「そりゃ、アレだ。烏合の衆だからだろ。俺にしてみりゃゴブリンなんて雑魚だがよ、弱い奴からしたら強敵になるんじゃねーのか」
「……」
「あれ、違うのか?」
「襲われた連中が、俺達よりも経験が浅い奴らだったって考えもあってるかもしれない。でもそれ以外の理由も、あったんじゃないかと思ってな」
「それ以外の理由ねえ……」
トモマサはそう言って、2人の弟分を見つめた。2人は揃ってブンブンと顔を横に振る。すると次に、鈴森を見た。
「鈴森、お前は解っているのか?」
「当たり前だろ。椎名の考えはこうだ。襲って来たゴブリンは、奇襲を得意とする奴らじゃねーのかって言ってんだよ。それと奴らの中には強敵がいる。亜種……いや、上位種とかもいるんじゃないかってな。そうだろ?」
「上位種だと? それってホブゴブリンとかか」
「ああ、そうだ。ゴブリンも舐めているとかなり危険な相手だ。残忍だし、こっちが弱みを見せれば喜んでそこを容赦なく突いてくる性格……っていうか、習性を持っている。そしてその上位種であるホブゴブリンは、もっと厄介な相手だ。大谷君がゴブリンに捕まった時、助けに行った。そこで遭遇した奴が、ひと目でヤバいと思った」
「一目でヤバいってどういう事だよ」
「一言で説明するには難しいけど、何かヤバい異様な雰囲気っていうのかな。それがあったんだよ。身体もゴブリンよりも大きく、俺達に近い背丈をしていたし……かなり筋肉質だった」
「筋肉勝負で負ける気はねーぜ、がっはっはっは!!」
「兎に角、ホブゴブリンは他のゴブリンとは異質な感じがしたし、気をつけろ。上位種の種類だって、他にもいくつかいるかもしれない」
「そんなのいるのか? ゴブリンとホブゴブリン。その二種類でしまいじゃないのか?」
トモマサは、とても頼りになる大切な仲間だが、異世界の事についてというか……ファンタジーゲームやアニメなど、あまり詳しくはないようだった。
「いるんだよ、ゲームだったら」
「へえ、どんなのが?」
「ゴブリンの王様、ゴブリンキング。最上位種のゴブリンロード。ゴブリンなのに、トモマサみたいにデカいゴブリンジャイアント。あと、魔法を使ってくるゴブリンメイジなんてのもいるかな。ざっと思い出しても、こんなにいるな」
「ゴブリンメイジが気に入ったぜ。魔法っての、見てみたいしな。異世界は本当にあった。しかもそこへ来る事もできたってーのに、魔法はまだ見てないんだもんな。ドラゴンだって見たのによ」
トモマサのドラゴンを見たという言葉に、後ろの2人――我星君と狗柴君がざわめいた。鈴森が間髪入れずに突っ込む。
「正確には、あれはワイバーンな」
「ワイバーンか。ドラゴンだろ?」
「ドラゴンモドキだ」
「モドキだと? でも火を吹くんだろ、そのワイバーンってやつ」
ワイバーンは見た。俺達の拠点の遥か上空を飛行しているのを一度見た事もあるし、外でもあった。でも火を吹くところはまだ見ていない。もし見ていたとしたなら、俺はもう今頃消し炭になってしまっているかもしれない。あと、ワイバーンがドラゴン系かどうかは意見が割れるかな。
「ドラゴンじゃなくても、火を吹く魔物はいるだろーが」
「えーー。ややこしいな。でもほら、鈴森!! あれあれ、ワイバーンって翼竜って言うんだろ? じゃあやっぱ竜じゃねーの? ドラゴンじゃんか!!」
「それでも俺のやってるゲームじゃ、ワイバーンってのはドラゴンモドキの立ち位置なんだよ。ドラゴンだったら、もっとデカくてヤバいよな」
「そうなのか? よく解らねーけど」
このまま鈴森とトモマサの会話を聞いていても良かったが、よく考えたら今はそんな時じゃない。俺は2人の間に入った。
「まあ、そのワイバーンの話はまた拠点に戻ってからゆっくりとすればいいだろ。それよりも、ゴブリンだ。今、トモマサ達が倒した程度のゴブリンだけなら、あんな被害がでるはずがない。ならきっと、まだ何処かにいるはずだ。このまま放置しても、そのうち俺達の拠点にやってきて強襲してくるかもしれない。だから今のうちに見つけて、退治しておこう」
『解った』
「トモマサ達は、今度はそっちを見て回ってくれ。俺と鈴森はこっち。小貫さん達の方は大丈夫か気になるし、辺りを警戒しながらそっちへ行ってみよう。あと、そうだ。500メートルだからな。拠点からはそれ以上離れないように。厳守だぞ、トモマサ」
「解っているって。じゃあまた後でな」
本当に解っているのか。トモマサは、確かに俺達の中で一番怪力だし最強だ。でも後ろからいきなりプスリとやられれば、倒れる。人間なのだから当然だ。だからこそ、くれぐれも気をつけて欲しいんだが……果たしてその気持ちが僅かでも伝わっているかどうかと不安になる。




