Phase.605 『撃退』
ガサガサ、ガサガサ……
草木の多い場所を鈴森と共に進んだ。別のルートから、小貫さんやトモマサも進んでくれている。何処かに仲間がいると思うと、心強い。
「椎名、ゴブリンの気配は見当たらないな」
「これだけ草木が生い茂っている所だからな。それにうちの拠点に運び込まれた奴らは、この辺りで襲われたって言っていたし……いるなら、もう襲撃してきそうなものなんだが」
俺達よりも、この異世界に慣れているゴブリン。ここは彼らのホーム。そして襲われた者達からの聞いた話では、奇襲を得意としているようだった。
ゴブリンと言っても、俺達と同じで同種でも得意不得意があるようだ。ゲームだったら、体力も攻撃力も防御力とかパラメータが統一されているものもあるけど、少なくともこの世界のゴブリンはそうじゃない。個々で強さや能力も違うし、よく見れば身体の大きさだって異なって見えた。言い換えれば人と同じく個性がある。
「それはそうと、未玖は大丈夫なのか?」
「はは、まるで妹だな」
「うるせーよ。椎名だって、未玖の事を妹のように見てるだろ」
「まあ、そうだな。その通りだよ」
「それで、どうなんだ? ゴブリンの群れが近くにいるとなると、前みたいにまた何匹かイレギュラーな奴が拠点内に侵入してくる恐れだってあるだろ。なら、未玖には安全なところにいるように……」
「それなら大丈夫だ。未玖には、怪我人の手当とかそういうのを頼んでいるから、パブリックエリアか草原エリアにいるだろう。今、そのエリアは一番人が多いだろうし、長野さんや翔太達もいる。それにアイちゃんと児玉さんが一緒にいるから、大丈夫だよ」
「そうか。ならいいんだけどよ」
相変わらず、とっつきにくい性格の鈴森だが、それにも慣れた。それにこいつは、翔太が連れてきて紹介してくれたんだけど、翔太と同じニオイのする男だ。信頼ができて、頼もしい。俺と同じく、未玖の事を心配してくれている。
少し前までは、俺や翔太は勤めている会社に行かなくちゃならないからって、平日の日中はこっちに来れなかった。
その間は未玖が心配で、鈴森に未玖の事を頼んでいた。あれから仲間も多くなったが、こいつは今も未玖の事をちゃんと気にかけてくれている。
「なんだよ、その眼はよ」
「いや、別に」
「ッチ。文句があるなら、ハッキリ言えよ」
「文句なんてある訳ないだろ。逆に感謝してるくらいだよ」
「気持ち悪いな」
「そうだったそうだった。お前は男だもんな。感謝されるなら、俺みたいなおっさんよりも女の子の方がいいわな」
「はあ? 何が言いたいんだ、お前は」
「あの関西弁の女の子、可愛いじゃないか」
「はあ? なんだそりゃ。もしかして、ねねの事を言ってんのか? 言っておくが、ねねはな!!」
「そう言ってるけど、顔が赤くなって……」
ビュッ!!
何かが飛んできて、草むらに落ちた。鈴森と目を合わせる。鈴森は銃を抜くと、辺りを警戒した。俺は鈴森に援護を頼むとサインを送り、何かが飛んできた方へ身を屈めたまま近づいた。
ガサガサガサ……
草の擦れ合う音。この辺りだ。この辺りに何かが飛んできた。
「あった……」
見つけたのは、やはり矢だった。手に取って調べる。矢じりに毒が塗っている場合も想定して、そこは触れないようにした。
「どうだ? 何か見つけたか?」
離れた所から鈴森の声。顔が見える位置へ移動すると、大きく頷いて見せた。
「矢だ。木で作った矢。矢じりは、金属じゃない。何かの骨を利用して作ったものに見える。毒が塗ってあるかは、ちょっと解らないな。でもこれを射たのはゴブリンだろう。コボルトって可能性もゼロではないが、今この周囲にいるのはゴブリンらしいからな」
「やっぱりそうか。見つけたら、皆殺しにしてやる」
ギャアア!!
人間ではない、何かの悲鳴が聞こえた。直ぐ近くだ。俺と鈴森は辺りを見回す。近くの草むらが、大きく揺れた。銃を抜いて構える。
「おい、こら!! そんな危ないもんを誰に向けてんだ、この野郎!!」
俺も鈴森もその声を聞いて、慌てて銃を下げた。草むらから出てきたのは、トモマサと我星君だった。
「すまん、トモマサ。ゴブリンに矢を射かけられたんだ」
「ほう、そうか。そんでゴブリンってのは、もしかしてこいつの事か?」
草むらからガサガサと出てくるトモマサと、我星君。手で何かを掴んでいると思って目を向けると、なんとぐったりしているゴブリンだった。トモマサに引きずられ、我星君はゴブリンが使っていたと思われる弓矢を手にしていた。
「そう! こいつだ!! っていうか、倒したのか!!」
「まあな、何処かの兄ちゃん2人を陰から狙ってやがった所を、たまたま遭遇しちまってな。ワハハ、後ろから一気に迫って首を砕いてやったぜ」
鈴森が、トモマサの引きずっているゴブリンを調べた。
「確かに死んでいるな。それで、このゴブリンの死体をどうするんだ?」
「え? 特にどうもしねーよ。仕留めたから、自慢しようと思って持ってきただけだからな」
トモマサはそう言うと、ゴブリンを軽々と持ち上げて森の中へ投げ捨てた。我星君もゴブリンの使っていた弓矢を捨てようとしたので、慌てて止める。
「待ってくれ、我星君」
「え?」
「捨てるなら、それを俺にくれないか」
「ああ、いいッスけど。これ、手作り感満載だし、ゴミっスよ」
「ゴミでもいいんだ。調べれば、奴らについてまた何か解る事があるかもしれないしな」
「解りました。じゃあ、どうぞ」
「ありがとう」
お礼を言って、弓矢を受け取る。何の素材なのか解らないが、弓と共にある数本の矢は、ちゃんと矢筒に入っていた。
「あれ? そう言えば、トモマサ」
「なんだ?」
「もう1人はどこ行ったんだ?」
「狗柴か? 狗柴なら、そこにいるぞ」
トモマサが指を差した先は、俺の背後だった。振り返ると、狗柴君が棍棒を手に持って立っていた。なるほど、こんな近くに来るまで気配というか、ぜんぜん気づかなかった。
鈴森が辺りを警戒してくれていて、気が緩んでいたのかもしれないが……なかなか俊敏だな。トモマサの連れてきた弟分2人は、かなり頼もしい戦力になりそうだ。




