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Phase.603 『襲撃からの逃走』



 来るべき日がやってきた初日、早速大きな事件が起きた。パブリックエリアに、何人もの怪我人が運び込まれてきたのだ。


 怪我を負ったのは、俺達と同じく転移者だった。数人のパーティーを組んでいた連中で、3組。そのうちの数人が、森の中でゴブリンに襲われてえらい目にあったらしい。その辺に生えていた木を伐り、それにシートを通して作った即席簡易型担架に乗せられて運び込まれてきた連中を見た時、かなりの大怪我だと悟った。


 腕や背に矢が刺さっている者もいれば、錆びついた短剣が胸元に突き刺さっている者もいた。身に着けている衣服は赤に染まり、仲間と思われる者達は仲間の怪我に心配して涙している者もいる。


「ユキーー!! これやっべーぞ!! かなりひどい怪我だぞ!! なんとか助けてやりてーけどよ、どうしてやりゃいいのか解らねーよ」


 翔太がこっちへ猛ダッシュして来て言った。服には血がついている。そしてその後ろには、翔太に付き従う小田と蟻群と十河とモージ。もとヤンキー軍団。あれ? モンタはいないのか。


「それで、とりあえずはどうなっている?」

「いや、えっと……とりあえずは、アレだよアレ。美幸ちゃんと海ちゃんと景子ちゃん、あと志乃ちゃんに長野さん、それに他にも何人か手当てというか、そういうのをやってもらっているよ」

 

 パブリックエリアには、未玖に任せている店があった。だから出羽さんや三条さん達が率先して救助にあたってくれているのだろう。北上さんと大井さんも、店にいた感じだな。


「不死宮さんは、既に呼んだのか?」

「え? ああ、もちのろんだよ!! モンタに呼びに行かせているから、鬼灯ちゃんも青木さんも間もなく来てくれると思うぜ」


 なんで、青木さんが……ってそう言えば、不死宮さんを手伝っているんだっけか。あの人喰い植物の件で、不死宮さんの研究所に行った時に彼を見なかったから忘れていたけど、そう言えばそうだった。彼は不死宮さんの研究とかそういう作業を手伝ってくれているみたいな話を聞いた。助手か。


「よし! それじゃ、このパブリックエリアに怪我人の治療をできる場所を、テントでもなんでもいいから作るんだ。それで重症と思われる者は、スタートエリアの不死宮さんの研究所へ運び込め」

「ああ、鬼灯ちゃんの研究所って、治療小屋にもなってるもんな。解った、任せろ」

「それとな、翔太。怪我を負っていない者と、軽傷の者を集めて何があったか話を聞いておいてくれ」

「え? でも奴ら、ゴブリンに襲われたって言ったいたぞ」

「それは聞いたけど、何処でとか何時とか聞いてないだろ? 数とか、襲って来たゴブリンの特徴、ホブゴブリンのようなヤバイやつはいなかったかとか、そういうのを全部だ。この拠点付近なら、放ってはおけないからな。見た感じ、皆ここへ命からがら逃げてきた感じだろ? それならゴブリンにつけられているかもしれない」

「うおお! 解った! 確かにそれ、ヤバイな。了解、お前らちょっといいか!」


 ちゃんと理解は……してくれていそうだな。翔太は、思ったよりもてきぱきとした様子で、小田達に今俺が言った事を話して指示を飛ばした。小田達は頷いて、それぞれ駆けて行った。


 今度は、小貫さんと竜志がこっちへ駆けて来る。


「椎名さん!」

「うお、やっと来たか。ヤバいよヤバいよ。ラーメン作ってたら、いきなり怪我人が沢山運び込まれてきてよ!」

「今、それは翔太から聞いたよ。竜志は、鈴森やトモマサを呼びに行ってくれ。近くにゴブリンがいるかもしれない」

「解った。ちょっと探しに行ってくるわ!」

「小貫さんは、一緒に来て欲しい」

「ああ。やられたのは、パーティーを組んでいた奴らみたいだけど、3組もいてゴブリン共に全く太刀打ちできなかったらしいな。なんというか、一方的にやられた感じだ」

「奇襲だったんじゃないかな。ゴブリンはそういうのが得意だろ?」

「確かに」


 襲われた者達を見て回った。彼の手当てをしている北上さんの姿が見えた。俺に気づくなり、こっちに駆けてくる。


「ユキ君」

「翔太から聞いたよ。それで、何か解った?」

「襲って来たゴブリンは、結構数がいたみたい。でも森の中だったから、正確な数までは解らないんだって。四方八方から矢が飛んできて、死に物狂いで逃げたって」


 ここはまるでゲームのようなファンタジー世界だが、ゲームの世界じゃない。魔物の攻撃を喰らったら、そのダメージに応じて数字が出て終わりって訳でもない。矢が飛んできて身体に刺されば、痛みも感じるしそれだけで重症だ。出血死だってありえる。


 身体に突き刺さる1本の矢で、致命傷になるのだ。北上さんは、真剣な眼差しで続けた。


「今ね、海が鈴森君とかケンゴ君も呼びにいかないとって言ってたから……少しすれば皆を連れて戻ってくると思うんだけど……」

「ありがとう、助かるよ」

「さっきも言ったけど、怪我した人達は皆、ゴブリンの群れにいきなり襲われて死に物狂いで逃げてきたから……それってきっと……」

「もしかしたら、この場所にゴブリンを引き連れてきているかもしれないって事か」

「断言はできないけど、その可能性は高いと思う」


 こうなってしまったからには、そう考えるべきだろう。なら、これからどうするか。守るべきか、迎撃しに出るべきか。


 迎撃するとしても、うちの拠点はやたらと広すぎる。彼らが逃げてきた後を、ゴブリンがそのままつけて来ていれば、まだ動きも読みやすいが……拠点の存在に気づいて何処か手薄な方へ回り込まれたり、見張りのいない場所を見つけていつかの時みたいに侵入してきたらと考えると、不安を隠せない。


 とりあえず今は、悠長に手をこまねいている暇もない。直ぐにでも、対処をしなければ。


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