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Phase.601 『久しぶりの丸太小屋』


 

 ついに来たるべき日がやって来てしまった……なーんて思っていたら、もとの世界との道が閉ざされて既に数時間が経過してしまっていた。


 時間は、お昼を回って、14時半。翔太や他の人達は、パーティーだか宴をやる為にもう皆パブリックエリアの方へ移動しているみたいだ。


 そんな事を考えながら、羊の住処エリアで大谷君と会って色々と語らったりした後、スタートエリアへと戻ってきていた。


 丸太小屋へ入ろうとした所で、ふと出入口のドア枠や扉の傷に目が行く。全ての傷がもとからあった訳じゃない。ここのこの部分の深い傷、これは俺がこの異世界にやってきて初めてウルフの群れに襲われて、命からがらに丸太小屋に逃げ込んで……必死に応戦した時についた傷だ。


 もう少しで死ぬところだった。あのままやられていたら、間違いなくウルフ共の腹の中に入っていただろう。なのにまるで愛しいものに触れるように、傷を撫でる。恐怖体験をしたっていうのに、なぜか今は心地がいい。


「ゆきひろさん」


 唐突に俺を呼ぶ声に振り向く。するとそこには、未玖が立っていた。背負っているザックは、よく見ると少し動いている。きっとまた中に、ラビを入れているな。


「おう、未玖。何かあったか?」

「いえ、あれからずっと探していたんですけど……見つからなかったから……」


 あれからずっと探していた? もしかして、俺を探してくれていた? そういう事か。


「すまん。ちょっと大谷君の様子を見に、羊の住処エリアとか行っていたから」

「そ、そうだったんですか」

「最初はこの丸太小屋と井戸だけだったけど、今や俺達の拠点はかなり広いからな。そりゃ行先が解らなければ、見つけるのは大変かもしれないな。草木が茂っている森みたいな場所も、拠点内には沢山あるし」

「は、はい……」

「でも、ほら、来るべき日がやってきたからな。また転移アプリが使用できるようになるまで、これから暫くはずっと俺も翔太も北上さんも大井さんも、皆この世界にいるから。それなら未玖も安心だろ?」

「はい!」


 ちょっと浮かない顔をしていた未玖だけど、今度は嬉しそうな顔をした。そうだ、これからは鈴森やトモマサだっているぞ。未玖は決して1人にはならない。


 丸太小屋の中に入ると、俺は未玖に向かって手招きをした。未玖は俺の後についてくると、小屋に入るなり辺りを見回した。


「なんか、久しぶりだな」

「久しぶり……ですか?」

「俺はほら、最近はもっぽらテント暮らしにハマっちゃっているだろ? こういうちゃんとした小屋とかあったなー、なんてな」


 そう言って未玖の顔を見ると、微笑んでいた。


「未玖も最近は、アイちゃんとか児玉さんと凄く仲がいいみたいだし」

「はい。アイちゃんも亜里香さんもわたしと同じで、もとの世界へはもう戻れないから。だからいつも一緒にいる事ができるから……仲良くしてくれるし、安心できるから一緒にいます」

「だよな。だから余計に久しぶりだと思って」


 丸太小屋の中。いったりきたりしたり、寝室やトイレも覗く。俺達以外は誰も使っている形跡がない。


「最初はほら、夢の異世界ライフ。俺は未玖との出会いで全てが初まったように思える。そして俺達の本格的な活動は、俺と未玖の2人でスタートして、この丸太小屋からはじまったんだ。その時は、丸太小屋で寝泊まりするのが当たり前だったし、ここでの生活が基本だった」

「そうでした。こうして二人、丸太小屋の中でゆっくりお喋りしたりって、確かに久しぶりな感じがします」

「お喋り自体は、していない訳じゃないんだけどな。丸太小屋でってのがな……そうだ、未玖。そこに座りなさい」

「え? あ、はい」


 未玖は俺に言われたとおりに、テーブルの前にある椅子に座った。俺はにこりと笑って見せると、丸太小屋の外に出る。そして井戸で水を汲むと、早速丸太小屋の前で焚火を熾し始めた。


 以前はそうだ。丸太小屋メインでやってた時は、火事とか一酸化炭素中毒とか怖くて、お湯を沸かすのにも小屋の中ではなく、直ぐ外でやっていたんだっけか。それも思い出して、まだあれからそんなに経ってもないのに懐かしい気持ちになる。


 湯が沸くまで、少し火の番をしている。丸太小屋にいる未玖の方を振り向くと、椅子に座っている彼女の足元には、いつの間にかピンク色の兎がいた。ラビだ。ザックから出してやったんだな。


 マグカップを二つ用意。2人分の珈琲を入れると、それをテーブルへ置いた。俺と未玖の分だ。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 未玖がマフカップに口をつけるのを見て、俺も飲んだ。うーーん、やっぱりこの異世界で飲む珈琲は格別だな。だからこそ一応、買い置きはしておいたが……もし足りなくなるような事態に陥ったら、どうしようか。もう少し、買い足しておけば良かったかもと後悔をする。


「あの……」

「うん?」

「あの……ゆきひろさんは、今晩……どちらで休まれるんですか?」

「え? えーーと、まだ考えてないな。最近はもう気の向くまま、そこでいいやって思った所にテントを設営して、そこで寝たりしているけど……」


 じっと俺の目を見ている未玖。これはさっきの話の流れからして……今晩は久しぶりにここで寝たいのかな。


「そうだ!」

「は、はい!」

「今日は久々に、この丸太小屋で寝るかな。未玖も一緒にどうだ?」

「は、はい! もちろん! もちろん、わたしも一緒にここで寝ます!!」

「そうか。じゃあ、久しぶりにそうしよう」

「はい!」


 未玖に笑顔が灯る。考えてみれば、この丸太小屋は、ログハウスって感じでしっかりと造られていて、強度もかなりある感じだ。なのに最近は、倉庫代わりにしか使っていない。


 最悪な状態になっていたトイレだって、頑張って掃除と修理をして使えるようにしたっていうのにな。ふう、やっぱりたまにはこの丸太小屋で、寝泊まりもしなくちゃならないな。

 

 人が住まなくなった家は、朽ちるのが早いっていうけど、この丸太小屋を失うのはかなりもったいないもんな。


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