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Phase.600 『石』




 羊の住処エリアの北側に位置する、まるで西部劇の舞台になりそうな荒地地帯。そこに俺は大谷君に案内されてやってきていた。直ぐ向こう側には、拠点の外と内側を区切るバリケードが設置されている。


 バリケードは、板や杭などを使用して作られたしっかりしたもので、当初の有刺鉄線だけあった状態と比べるととても頼もしい感じになっていた。


 俺はそのバリケードの内側、荒地に眼を凝らして何か気になるものはないかを観察した。


「大谷君が俺に見せたいものって、この場所にあるんだよな?」

「はい、います」

「ん? います?」


 あるんだよな? っという質問に対する解答なら、ありますというのが普通だと思う。でも大谷君は、いますと答えた。います……つまり、ここに何かがいるって事だ。


「なるほどな、つまりこの荒地に何かがいるって事か」

「流石、椎名さんです。その通りなんです」

「えっと……それ、もう見えてる?」

「はい、見えています」

「嘘⁉」


 じっと眼を凝らす。荒地を注意深く観察するも、何もいるようには見えない。あるのは、岩と石。それになんだか枯れた草と枯れ木。ん? まてよ……遠くに何か見えた。


 赤茶色の体毛に、細長いピンとした耳。あれ、兎じゃないのか⁉ 


 いや、兎だ!! 野生の兎!! 俺達の拠点の中には、一応コケトリスやストロングバイソン、未玖が見つけたピンクの兎、ラビがいる。更にあげればあの奇妙な岩の魔物、フォレストロックなども生息しているのだ。


 そうだ、あのデカいセンチュウの魔物、ロットネマトーダも南エリアには生息していた。ああいう人を襲ったり害のある魔物は駆除するが、フォレストロックやコケトリスのような至って無害な魔物はそのままにしている。


 畑を荒らす可能性もあるが、それはそうならない手を考える事にして、人を襲わない魔物はできるだけそのままにしているのだ。その理由は、不死宮さんや和希から頼まれたからだった。拠点内にいても、魔物の生態等を観察したり研究できるので、可能ならそうして欲しいと。


「大谷君、あの兎だろ? あんなのを見つけたんだ。おっ、穴を掘ってるぞ! 他にもいるのかな」

「いえ、椎名さん。この場所に兎は生息していますけど、僕が椎名さんに見せたかったのは、それじゃないんですよ」

「え? でも、他に何もいないと思うけ……あっ!!」


 大空を珍しい鳥が飛んでいた。慌ててそれを指さす。でもまたもや違ったようだ。大谷君は、ちょっと笑いながら顔を左右に振る。


 うーーん、こうなったら絶対に当てたいな。大谷君の性格からして、こんな嘘をつくようには思えない。ならきっと何かいるはずだ。もっとよく辺りを観察してみるか。


 じっくりと辺りを眺める。


「ん?」

「見つけました?」

「あそこ……」


 気になるものを見つけた。俺はそこへ歩いて行き、目線を足元に落とした。砂利と、いくつかの石が転がっている。気になったのは、その石の一つ。それに手を伸ばす。


 ギチギチ……


「う、うわあああ!!」

「椎名さん、触るなら気をつけてください。向こうから攻撃してくる事は無いと思うんですけど、もし挟まれたら大変な事になると思います。一度、落ちている枯れ木でつつこうとしたら、挟んで切断していたのを眼にしましたから」

「ええーー、そんなの聞いたら、かなり怖いな。でも、これは凄い生き物だな。魔物かな」


 足元にいたもの。それは、動く石だった。石でできた蟹。


 今、俺の目の前にいる奴は、拳大程度の大きさの蟹で、鋏も身体も足すらも石でできているようだった。例えるなら、石化した蟹が動いている感じだ。だから丸まってじっとしている姿は、遠目に見れば石ころと見分けがつかない。


 早速スマホを取り出すと、石の蟹にカメラを向ける。そして【鑑定】のアプリ起動。今のこの転移アプリが使用できない状況で他のアプリを使用できるのかは不明だったが、使う事ができた。


 


【鑑定内容】

名前:ストーンクラブ 

性別:雄 

種類:魔物

説明:石の蟹。主な食べ物は、石。鋏の力は、石を砕く程にある。




 【鑑定】アプリの内容を見るやいなや、やっぱりこの程度の情報量かと思う。でもこれだけでも解るのは、ありがたい。そして最初に突っ込んでおきたいのは、雄とか性別があんのかよって事と、名称がまんまだなって思ったところだった。


「大谷君が俺に見せたかったものって、ひょっとしてこいつの事だったのか」

「はい、そうです」


 大谷君は、頷きながらも俺のスマホを覗いてきた。


「ストーンクラブっていうんですか。あはは、そのままですね。この辺りに転がっている石、その中に結構な数のこのストーンクラブがいるんですよ。小田君達に話したら、彼等もここへ見に来て驚いていました。変わった蟹がいるって」


 ゴブリンやワイバーン、ゾンビ、アルミラージ。他にも色々と遭遇したけど、これはこれで確かに驚いた。見た目が石そのものだ。


「僕達のいる場所に、こんな石の蟹がいるのを、皆知らないんじゃないかと思って」

「なるほど。それで俺をここに連れてきてくれたのか。確かに『異世界(アストリア)』に来てから、色々と魔物には出会ったけれど、こいつは初めて見たな。教えてくれてありがとう」


 大谷君が知っているなら、彼等と最近よく一緒に行動をしている和希も勿論知っているだろう。じゃあ、この変な蟹……不死宮さんにも教えてあげた方がいいな。彼女の事だから、きっと興味を持つだろう。


 ゲームでもそうだけど、緑が多い場所とこういう荒地では、それぞれ異なった魔物が生息しているんだな。


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