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Phase.599 『新たな水場 その2』



 羊の住処エリア。草木の生えた大きな茂みがある場所に、ポッカリと口を開けた大穴。その穴は、崖に囲まれているようになっていて、底を見ると地下水で満ちていた。跳び込んだりなんかしたら、自力では戻ってこられないだろう。


 大穴の周囲には、何本かの木が生えていて、その中でも一番しっかりした感じの木にロープが巻き付けられていた。そのロープの先にはバケツが結びつけられていて、大谷君はそれを掴んで俺に見せてくれた。なるほど、それを大穴に投げて水を汲んでいるんだな。


「ここの水は、地下水なのか?」

「解りませんが、僕はそうだと思います。この穴はもっと下まで続いていて、そこに湧き出た水がここまで湧き上がってきているんだと思います。だから水質も良くて、味もとても美味しいです」

「そうなんだ」


 まさか、こんな場所にこんな水場があったなんて……驚きを隠せない。


 成田さんと松倉君は欲張ってなのか、それとも作業していたら気持ちがノリノリになってしまったからなのか、それは解らないけど……俺達の拠点をとても広く作ってバリケードの設置や有刺鉄線を引いていた。だから自分の拠点だというのに、未だにその全貌を知らない。広大。探せばこういう場所が、他にも沢山あるんじゃないかと思った。


 大谷君は、手に持って俺に見せてくれていたバケツを大穴の方へ大きく放った。バシャンという音。バケツが水面に落下した。そしてロープを引く。


「椎名さん、大穴の水、試しに飲んでみますか?」

「ああ、それじゃあ一杯頂こうかな」


 大谷君が汲んでくれた水。それはとても冷たくて、透明で美味しかった。絶対そうだ。これは地下に流れている水。これなら十分な飲料水になるし、沸騰させずにそのまま飲んでも問題はないと感じた。


 ……大穴にそろりと近づいて行き、中を覗き込む。結構な高さ。そして底は仄暗い。


「落ちたらこれ、絶対戻ってこれないな、ここ」

「はい、1人だったら戻れないでしょうね。でも仮にここに落下したとしても、ここはもう僕もそうですが、小田君達やメリー達も頻繁に来る水場ですから、少し凌いでいれば助けは来ると思います」

「なるほど、確かにそれはあるか。いや、ここへ来て良かった。自分のいる拠点にこんな場所があるだなんて、知らなかったから」


 大谷君は何かを思い出したかのようにポンと手を叩く。


「そうだ! それならアレもあった!」

「え? 何が?」

「椎名さん、まだちょっといいですか?」

「え? それは全然いいけど……もしかして、まだ何か面白いものがあったりする?」

「それはどうでしょうか? 行ってみたらきっと答えが解りますよ」

「そうか、気になるな。じゃあ、早速そこへ行ってみようか」


 大谷君はにっこりと頷いて、俺を先導してくれた。


 よく考えてみれば、ろくに調査もしていなかった南エリアは兎も角、羊の住処エリアもこれまでぜんぜんノータッチだったと思う。この場所は俺達全員のものではあるけれど、大谷君達やメリー達に任せてしまっていたから。


 これから大谷君がどんなものを俺に見せてくれるのか。さっきの地下水が湧きだしている大穴もかなり驚いたけど、今度はいったい何が出て来るのか楽しみになってきてしまった。


「椎名さん、ここです」


 大谷君が俺を連れて行ってくれたところ。そこは羊の住処エリアの北側に位置する場所で、さっき大穴があった辺りや、メリー達の集落がある草木で生い茂った感じの場所とは少し違っていた。


 草や木もあるにはあるが、一言でいうと荒地。緑よりも、岩や石が目立つ場所。こんな場所に何かあるのか? でも大谷君のことだ。何の意味もなくこんな所へ俺を連れてくるような事は考えられない。きっと何かある。


「随分と荒れた場所だな。まるで西部劇に出てくる荒野みたいな場所だな」

「はい。話に聞いたんですけど、僕達のいる拠点から北や南にずっと突き進めば、こういう荒野みたいな場所が広がっているみたいです」

「そうなんだ。でもなんか、とんでもない恐ろしい魔物とか出没しそうだな」

「行けるなら僕もそこへ行って、何があるのか見てみたいですけど、徒歩で……ってなると、ちょっと流石に勇気がでないですね」

「そうだな。でもうちには、馬車がある」

「安藤さんの馬車ですよね」

「そうだ。しかも使える馬車は二台になったんだ」

「え⁉ 本当ですか⁉ 凄いですね! これからこの異世界を移動するのが、楽になりますよ」

「馬車が走れる道っていう限定的ではあるけど、そうなるな。しかも安藤さんとは、これからもっと馬車もその馬車を引くストロングバイソンも増やそうって計画を進めているからな」

「そうなんですか、楽しみですね。それじゃ、僕もその際は一緒に乗って冒険したいです」

「それはいいけど、北の河にある小屋作りも一緒にやるんだよな」


 別にそれが悪いという意味でも、意地悪をしてやりたくなった訳でもない。でも彼が最初に会った時よりも、更に生き生きとして色々な事に意欲的になっている事に驚いたのだ。


 やはり異世界ライフは、人間をも変える。生きている環境が変われば、それも当然なのだろう。


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