Phase.598 『新たな水場 その1』
大きな岩と、平たい大きな岩。それらが重なりあって、できた洞穴。岩が互いに重なり合って洞穴の形になっているので、なんというか迫力がある。テーマパークにあるアトラクションへの入口のような感じにも見えた。
大谷君に「どうぞ」と言われて、早速中に入ると沢山の段ボールが積んであるのが目に入った。
「大谷君、これ?」
「あ、すいません。あの、暫くもとの世界に戻れないだろうから、食糧とか着替えとか色々そういうのをは運びこんだんです。小早川君もカイもそうですよ。皆もそれぞれ住処を作って、もとの世界から色々こっちへ運び込んでいましたから」
「そうなんだ。じゃあ、また小早川君や有明君の所にも行ってみようかな。勿論、和希のところにも」
「和希なら、僕のこの住処から凄く近い所にいますよ。それと小田君や十河君、そっちの皆はなんか一緒がいいみたいで、固まって住処を作っているみたいですね」
「そうか。それはそれで楽しそうだな」
「椎名さん、こちらへどうぞ」
洞穴の奥は快適な感じだった。大きな岩に覆われて守られているせいか、なんとなくひんやりしているような気がする。そしてテーブルに椅子。棚まで設置してあって、缶詰やらお菓子やらペットボトルやらが並べられていた。
そして大谷君に勧められた席は、テーブルと椅子ではなくて地べたに座り込む方だった。座布団代わりに段ボールが敷いてあって、その目前にはやはり焚火が設置してある。
座布団代わりの段ボール、その一つに座る。それが焚火の周りに4つ置いたままになっている所を見て、いつもここには、小早川君達が来ているのかもしれない。
「椎名さん、なんだかキョロキョロしてますね。どうですか、僕の住処? なかなか落ち着けると思うんですけど」
「いいね、ここ。俺もなんだかこういう秘密基地みたいな場所、欲しいなあ」
「ないんですか?」
「意外な事にないな。スタートエリアにある丸太小屋は、俺と未玖が使っているという事になっているけど、拠点の見回りも兼ねて最近は、何処かのエリアでテントを張って休む事が多いから」
「それも楽しそうですね。拠点の中なら、危険も少ないですし」
「楽しいよ。川エリアに行けば、最上さんとか団頃坂さんがいたりするし、草原エリアなら長野さんがいたりしてね。でも大谷君の住処を見て、俺もこういう秘密基地が欲しくなったよ。何処かないかな」
「そういう事なら、僕達のこの拠点はかなり広いですし、探せば沢山あるんじゃないですかね。こういう岩が積み重なってできた洞穴みたいになっている場所なら、南エリアとか……あと、川エリアにもあったと思います」
「なるほどねー。川エリアは、いいな。水も簡単に手に入るし」
そこまで言って、あれ? っと思った。大谷君は、棚に置いてあったお茶のペットボトルを手に取るとそれを俺の前に置いた。俺はありがとうと言って、それを飲んだ。
「そう言えば、羊の住処エリアって、大谷君達やモンタ達、それにメリー達も住んでいるよな?」
「はい、そうですね。住んでいると言えば、メリー達ストレイシープはまさにそんな感じで、彼等のいる場所は集落になっていますよ」
はははと笑う大谷君。大谷君は、ゴブリンの巣でメリー達ストレイシープと出会い、彼等を救った。そしてここへ連れてきた。それだけに、彼等が色々とやっている事に対してとても関心があるようだった。
「なら、大谷君達は水はどうしているんだ?」
「水ですか?」
「ああ、いるだろ? 飲み水だったり、洗濯したり、食べ物や手を洗ったり……ここからだったら、もしかしてスタートエリアの井戸や川エリアまで水を汲みに行っているのか?」
「いえ、その……最初はそうするしかなくて、そうしていたんですが、実は近くに水場を見つけたんです」
「え? もしかして、この羊の住処エリアにも水場があるのか?」
「はい。これから見に行きますか?」
「ああ、是非見ておきたい」
今、この拠点の中で飲み水にも使える水場は、スタートエリアの井戸と川エリアの川だけだった。一応、南エリアにも池があるが……いかんせん池なので、あまり水は流動しておらず濁っている。もしあの水を飲んだら、いっぱつでお腹がピーピーになるだろう。
「それじゃ、ちょっとまた表に出ますけど」
「ああ、ついて行こう」
大谷君の住処である洞穴から外に出た俺は、彼にそのままついて行く。近くの草むらに入ると、少し全身してストレイシープ2匹と出くわした。手には木製のバケツ。たぷんと水が入っている事からして、ストレイシープ達は、今まさに何処かで水を汲んで来たのだろう。少し覗かせてもらったら、とても綺麗な澄んだ水だった。
「本当に近くにあるんだな。それなら生活にも便利だ」
「はい、もうすぐ着きますよ」
到着。草むらをずっと突き進んで、荒地に出る。そこからまた草が生い茂った場所に入り少し前進すると、とんでもない場所が目に入った。
ぽっかりと口を開けた大きな縦穴。周囲が絶壁になっている大穴で、恐る恐る下を覗き込むとなんと水が湧いていた。地下水かもしれない。ただ、ここに落ちたら自力では這いあがれないような場所だった。高さもある。
大谷君はスタスタと歩き、大穴の近くに生えているしっかりした木に近付いて行くと、そこに巻き付けたロープとその先に結び付けてあるバケツを手に取って俺に見せてくれた。




