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Phase.597 『小屋の残骸の話』



 小屋は立ってなかったけれど、大小沢山のテントが張り巡らされていた。それを見てふと思いつくのは、キャンプ場。でもこんな草木の沢山生い茂った場所のキャンプ場なんてあるのだろうか。キャンプ場っていうのは、お金を払って使わせてもらう訳だから、当然整備されているだろうし。


 うん、ここは荒れに荒れている。


「あっ、椎名さん!」

「大谷君! 丁度良かった」

「はい?」

「君を探していたから」


 大谷君を早速見つけるも、その向こうからまた別の俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。そして木々の陰から姿が見えた。モンタ、モージ、蟻群だった。他の皆も、近くにはいるようだ。かつては、いじめっ子といじめられっ子の関係。今は過去の過ちを悔い改めて、互いに手を取り合い仲間……というか、親友になっている。こういうのは、なんだか楽しくていいな。


「いよいよ来たるべき日がやってきた訳だけど、もうここまで来れば何を言っても帰れない。転移休止期間が終わるまでは、この世界に缶詰めだ。だからこそ互いに協力して、どう生き延びるかって事だけを考えていこう」

「はい! 僕達は、もう皆そのつもりです」

「そうだったか。そう言えば今そっちで、モンタ達の顔が見えたけど、小早川君や有明君や和希はどうしてる?」

「皆も向こうにいますよ。和希も一緒です」

「そうか、大谷君と歳も近いだろうし、和希もここにいる方が楽しいのかな」

「あの」

「なに?」

「ちょっと寄って行きませんか?」


 ちょっと寄って行く? それって……この場合、きっと大谷君がこの羊の住処エリアにある自分の住処に、俺を案内したいんだと思った。「ああ、行こうか」と返すと、大谷君は俺を連れて茂みに入って行った。


 拠点内ではあるけど、このエリアも緑が深い。大谷君を見失わないようにしないといけない。


 大きな岩がある場所に辿り着いた。その岩にまた別の大きな岩が覆いかぶさって、洞穴のようになっている。このエリアにも、こんな場所があったのか。


「あれ? もしかして、ここ?」

「岩の洞穴なんですけど、調べてみるとなかなか住みやすそうだったので、僕はこの場所を自分の家にしたんです」

「やっぱりそうか。へえ……いいな」

「べ、別にいいんですよね?」

「え? 何が?」

「こ、ここを僕の家にしてもいいんですよね?」

「ああ、勿論だ。家でも別荘でも好きにしていい。でもそれは拠点内での話だからな。外は危険だから、住む場所を作るなら内側だけで頼む」


 当たり前の事を言った。そう、冗談のつもりだった。でも大谷君は、少し笑みを浮かべているけど大笑いせず、むしろ爛々とした眼で俺を見る。なんだ?


「あの」

「ああ」

「今、椎名さんが言った事なんですが……」

「ああ、冗談だよ。外は危険だからね。こんな広くて、バリケードで囲われている拠点があるのに、何も自分の住処を外に作る人はいない。それを踏まえて、敢えて言ったんだよ」

「でも、僕ちょっと聞いたんですが……」

「聞いたって何を?」

「椎名さんが拠点の外に住む場所を作るって話をです」

「は? そんな事言ったかな? 覚えてないんだけど」

「僕も聞いた話でして。確かこの僕らの拠点の北側、大きな河があるらしいんですが、その近くに……」

「ああーーー!! 思い出した! っていうか、その事か。そうか、なるほどな。あっはっは、ごめんごめん、確かにちょっと住んでみようかなーなんて話をしたよ」


 この俺達の拠点の北側には、大きな河が流れている。東京都民である俺は、なんとなくそれを見て荒川みたいだって例えてしまったけど、その河沿いにかつて誰かが使っていたのだろう小屋の残骸……みたいなものがあった。


 大きな河の手前でなんかいい感じがしたし、場所的にも北にある廃村との丁度いい中継地点になる。そこにある小屋を完全に復旧させれば、この拠点のいい前哨基地みたいな感じにもなるだろうし。


 実際、その辺りにはゾンビが多く徘徊していた。ああいう物見櫓的な基地が拠点の少し外側にあれば、危険が迫ってきても早めに気づく事ができるかもしれないし、早めに危険を知ればそれだけ素早く対応策を考える事だってできる訳でとてもいいなって思っていた。


 大谷君には、そういう思っていた事を話し、そこにあった小屋を復活させてちょっと住んでみようかなって考えがあった事も話して聞かせた。すると大谷君は、また眼を爛々と輝かせる。


「あの、その……」

「なに?」

「えっと、その……小屋を復旧させるって事は、そこへ行って小屋を建てるって事ですよね」

「そうだな。廃墟というか、残骸って言った方がいい位だったからな。でも、あそこに小屋ができたら、ちょっと楽しいと思って。大きな河の直ぐ近くだし、最上さんなんか凄く興奮して住みたいって言い出すかもしれないな」

「あの、じゃあその小屋を作る時、僕にも何かお手伝いをさせてもらえないでしょうか?」

「え? 大谷君が?」

「はい! お願いします!」

「でも、大変だし危険だよ」

「はい! かまわないです! 大変でしょうけど、なんだか楽しそうですし、危険だからというのなら、そもそもこの異世界に……って話ですし」

「そうか、それもそうだな。じゃあ、その時は声をかけるよ。多分、直ぐ決行する事になると思う。前哨基地というのなら皆の安全にもつながる事だし、さっさと計画を進めた方がいいだろうから」

「はい!」

「それじゃ、まあそれはそういう事で……またその時になったら、声をかけるよ。大谷君が住処にしている岩の洞穴、覗いてもいいかな」

「はい、どうぞ!」


 中がどうなっているのか、気になってしかたがなかった大谷君の住処。そこへお邪魔させてもらった。


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