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Phase.582 『南エリア』



 森路エリアで堅吾に会った。用事がなければ、あのまま少し堅吾と一緒に焚火の前で喋っていてもいいなって思ったんだけど……どうせ、明日から暫くずっと一緒にこっちの世界にいるんだ。会話する時間なんて、いくらでもあるだろうなって思った。


「フフ」

「どうかした? 不死宮さん」

「ううん、ちょっとね。あれを見て笑っちゃった」


 不死宮さんがそう言ってさした指の先には、また誰かのテントがあった。しかも堅吾のテントよりもかなり大きくて住み心地が良さそう。誰のテントかも、見た目で解る。そう、草原エリアにあのデカいテントと言えば長野さんだった。


 不死宮さんが笑ったのは、長野さんも夜空の下、堅吾と同じようにテントの前で焚火と向き合いゆっくりしていたからだった。


 明日の午前10時。来たるべき日は、もう間もなくだっていうのに、なぜか皆落ち着いている。そしてそれぞれ穏やかに黄昏ていたことに不死宮さんは、面白いと思ったのかもしれない。もしくは、この異世界に残る皆の決意を見たから笑ったのかもしれない。


「少し長野さんの所にも寄って行く?」

「んー、そうだな。まあ、同じ拠点にいる訳だし、会いたいと思えばいつでも会えるからな。とりあえず、専務の方に先に会いに行こう」

「そうね。南エリアにあれがまだいたら、大変だものね」


 不死宮さんが採取してきた植物の魔物、マンイーターの件だった。彼女が見つけたマンイーターはまだ小さくて、蔓を動かし巻き付けてくる程度の力しかなかったが、その名を直訳すれば人喰いだ。【鑑定】で調べると、説明文に好物が人間という事もはっきり載っていた。


 あれが成長すれば、俺達にとってとんでもない脅威になるかもしれない。そんな危険な植物の魔物を、不死宮さんは南エリアで見つけて採取したと言っていたのだ。


 だったら尚更、南エリアの一部を根城にしている豊橋専務と、その仲間達にはマンイーターの事を伝えて、気を付けろと言っておいた方がいいと思った。


 草原エリアから更に南東に位置する南エリア。そこに到着すると、俺と不死宮さんは一度足をとめて目を凝らす。まだ調査もあまり進んでいない南エリア。これから二人で進む先を見据えた。


 長野さんや成田さんや松倉君がいつも手入れをしてくれている草原エリアと違って、ここは緑に溢れている。一言にジャングルと言ってもいい場所だった。俺は不死宮さんの方を振り返る。


「不死宮さん、武器は持ってきている? 南エリアは、マンイーターの他に巨大センチュウも生息しているかもしれないし、危険だから。なんならここで待っているか、引き返してくれてもいいけど」

「ううん、私も行くわ。それにちゃんと私も用心してきているから」


 不死宮さんはそう言って、自分の腰に差しているものを俺に見せた。結構大きめのナイフ。それに剪定鋏まで持ってきている。きっと薬草や、薬に使えそうな植物の採取に使用しているものだろう。もちろん、武器にだってなる。


「私は正直言って、美幸や海のように戦闘力がある訳でもない。このクランで一番弱いかもしれないって、自覚もしているわ。だからこっちの世界にいる時は、外に出る以外でも護身用として常に武器を身に着けているわ。無いよりは断然マシだもの」

「そうか、それなら安心だ。でも南エリアは、まだまだ未開の地だからね。うちの拠点って言っても、成田さんと松倉君が有刺鉄線を張ったり柵を置いて、無理やりに拠点エリアにしちゃったから。だから拠点内だとしても、専務達がいるからって言っても十分に注意して進もう」

「ええ、その方がいいわね。この草原エリアだって、丸太小屋や私の小屋があるスタートエリアだって、安全って保障はないんだもの」

「ああ、違いない」


 俺と不死宮さんは、そんな会話を続けながらも南エリアへと足を踏み入れた。拠点内なのに、少し緊張してしまうという矛盾だらけのエリア。


 辺りは、人間以上の背に成長してしまっている草地帯や、沢山の蔓が互いに何本も巻き付いて壁になっている箇所などあった。俺も常時、剣や銃、ナイフと同じように装備している鉈を手に取ると、それを勢いよく左右に振った。当たりの草が揺れる。


 ザッザッザッザッ!!


「フフ、重労働ね。大して戦力にもならないと思いうのだけれど、私も手伝いましょうか?」

「いや、いいよ。不死宮さんは、俺の後ろからついてきてくれればいい」

「それじゃ、辺りを警戒する係りをするわ」

「ははは、なんかその係りを決めるって感じ、小中高生みたいだな」

「いやだった?」

「ぜんぜん。むしろ、ちょっと若返った感じがして良かった」

「え? 椎名さん、別に若いでしょ?」

「どうかな。これでももう31歳だからね。でも20歳未満を未成年っていうのなら、20歳からは青年って事だよな。それなら30をやっと超えた俺は、ようやくこれで大人になったって事かな」

「確かに大人って、大きい人って文字では書くけれど、それにしても椎名さんがやっと大人っていうのは、少し面白くて笑っちゃうわよね」


 こんな会話を続けながら、笑い合い鉈を振った。


 不死宮さんと会話をしているから、それ程苦(く)じゃないが……また以前よりも更にこの辺は緑が深くなった気がする。


 ザザッ!!


 草を掻き分け木を避けて、もっと奥へ進んでいくとやっといくつものプレハブが見えた。それと煙。プレハブの前では、ドラム缶に薪を入れ火をつけている。ひょっとして、あれで何か焼いているのか? それともトーチの代わりかもしれない。


 いくつも並ぶプレハブの前まで行くと、そこには結構な数の専務の仲間達がいて、それぞれ思い思いに時間を使っていた。眼が合うと挨拶はしてくれるものの、皆武器の手入れをしていたり食事をしていたり、暇そうにはしていない。しかもこういう事に手慣れている様子だ。


 あとそれを見て思ったのは、来るべき日が迫って落ち着かないのは、俺達だけじゃないんだなって思った。


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