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Phase.581 『ここにいる理由』



 腕時計を見ると、もう22時を回っていた。


 明日は、朝から大イベントがある。午前9時半になったら全員草原エリアにある女神像の前に集合する事になっているのだ。そうだ。いよいよ、10時になったらこの異世界ともとの世界は行き来できなくなる。遮断される。やってくる来たるべき日に備える為、俺はその最初の瞬間を仲間全員で迎えたかった。


 不死宮さんの研究所を出ると、二人でスタートエリアから南エリアの方へと向かう事にした。途中の森路エリアは、相変わらず木々が茂っていて吸い込まれそうな程の闇に包まれている。その中を俺と不死宮さんは、懐中電灯を手にその灯りだけで歩いていた。


「ここは、相変わらず夜になると真っ暗だな」

「ええ。でも昼間でも、森路エリアってなんだか鬱蒼としていて、なんだか薄暗いのよね」

「そう言われてみれば、そうかも。でも最近、ここで誰か住んでいなかったっけ?」

「どうかしら。でも拠点内だから、別に誰か住んでいてもおかしくはないんじゃないかしら」

「まあ、それはそうなんだけど……」


 薄気味悪い闇の森、その中に灯りを見つけた。煌々とした灯り。動いているメラメラとした赤いもの……あれは炎だ。つまり焚火を誰かがしている。


「ほら、あれ。誰かいる」

「あら、本当ね」


 焚火の前にはテントもある。折角近くまできたので、誰がいるのか見ていく事にした。


「あれ? 幸廣さんと、鬼灯か!! って、いったいどっから現れたんだ鬼灯!!」

「なんだ、堅吾君か。がっかりね」

「がっかりとはなんだ、がっかりとは!! ねえ、幸廣さん! この人、酷い言い草ッスよね」

「え? ああ」


 森路エリアにいたのは、なんと堅吾だった。堅吾がここにいるって事は――キョロキョロと辺りを見回す。ひょっとしたら、翔太やトモマサ、鈴森の影があるかもしれない。



「誰もいないッスよ。っていうか、今ここには自分しかいないッス」

「え、そうなんだ」


 別に拠点内での行動は基本的に自由だ。誰かとでもいいし、一人で居てもいい。それも自由。だからここで一人、テントを張って焚火している堅吾を見ても、別段何も不思議な事なんてなかった。


 だけど何かひっかかる。なんだ? 堅吾の奴、いつもより妙に何か落ち着きがないというかなんというか……


 考えていると、不死宮さんがポンと手を叩く。


「あっ! なるほど」


 何かを察した堅吾は、立ち上がり大慌てし始めた。


「おお、おい!! こら、待て鬼灯!! お前、何言おうとしてるんだ、こら!! やめろ!! やめなさい!! ねえ、ねえって!!」


 ん?


 首を傾げると、不死宮さんが俺に言った。


「ところでねえ、リーダー。アイアンヘルムというクラン、知っているわよね」

「え? ああ、大石さんのクランだ」

「わーーわーー!! こら、鬼灯!! 言うな、よせ、やめろ!! こらーー!! てめえ、ふざけんじゃねーぞおお!! この野郎てめえ!!」


 最後のこの野郎てめえって所で、不死宮さんが何か決断したような表情をした。なんだ、なんかあるのか? 不死宮さんは、止めようとする堅吾を無視して話を続ける。


「実は堅吾君、そのアイアンヘルムのメンバーの芦白夕夏さんっていう可愛い女の子と最近……」

「ああああああ!! こらああああ、てめええ!! 言うなあああって言ってんじゃん!! 言ってんじゃんかよおおお!! こら黙れ、鬼灯!!」

「え? もしかして、大石さん所の子と付き合ってんの?」

「だから、違いますってええええ!!!!」


 森路エリアに堅吾の叫び声と、俺と不死宮さんの笑い声が響いた。やっぱりあれだな。こんな暗くてオバケが出そうな場所でも、仲間といると一気に雰囲気が明るくなる。楽しいな。


「え? 違うの?」

「てめえは黙ってろ、鬼灯!! この裏切り者め!! あのーー、幸廣さん」

「え? あ、はい」

「芦白夕夏さんと自分は、そういう関係じゃないんですよ」

「え? 嫌いなの?」

「だからそんな虐めないでくださいよー!! 実は彼女、空手をやってまして……」

「あー、なるほど。それで繋がりができたと」


 頷く堅吾。


「しかも可愛い子なんだ」


 頷く堅吾。


「なるほどね。いいと思うよ、俺は」


 頷く堅吾。


「だって俺も大石さんや彼の仲間と普段から仲良くやっているつもりだし、互いのクランメンバー同士が仲いいっていうのは、微笑ましくてかなりいいと思うな。まあ、そういう訳で俺は応援するから」


 頷く堅吾。


「でも、その話と森路エリアってなんの関係があるんだ?」


 また不死宮さんが何か言おうとしたのを見て、堅吾が慌てて彼女の口を塞ぐ。代わりに答えた。


「いや、そのーー、芦白夕夏さんとこの森路エリアで自分、空手の稽古を一緒にしてるんスよ」

「へえー、そうなんだ!」

「そうなんスよ。だから、もしかしたら彼女、一人でここに来るかもしれないし、それなら誰かいた方がいいじゃないッスかー。なんか、自分いないうちに勝手に稽古されて、自分だけ強くなられても悔しいじゃないっスかー」


 なるほど。要は、ここにいれば、また芦白さんと会ってお話できるという訳か。うん、微笑ましい以外のなにものでもないな。

 

 でも正直言って、あれだな。明日、いよいよ来たるべき日が来ようとしているのに、うちのクランのメンバーは全然不安っていうのか、そういうのに押し潰されていなくて凄いなって思った。


 俺なんて、ずっと不安だ。でも正直を言うと、それと同じく位にドキドキもしている。転移サービス休止期間中、いったいこの異世界で何が起こるのか……それを考えると鼓動が早くなる。


 もとの世界で、これについての真実を知っている者はいない。まあ、運営は当然知っているかもしれないけれど……でも、詳細を教えてくれる気配はない。だからこそ、俺達がこの世界で何が起こるのか、自分達で見極めてやるんだ。


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