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Phase.579 『異世界の植物』



 彼女のテリトリーに今まで立ち入る事も少なかったので、ここぞとばかりに小屋の中を暫く見学させてもらった。本当に色々なものがある。研究の成果を書き込んだ、山積みのノートに試験管、フラスコにビーカー、完成したポージョンを入れておく用の小瓶などがそこらじゅうにひしめき合っている。


 更に山のように採取された薬草。そして鉢やプランターに入れて、育てている薬草までも目にした。彼女はこういう事が得意そうだし、好きだと思っていた。でも俺が思っていた以上に不死宮さんは凄かった。


 これまで目にしたことがない、変わった葉の形をした薬草? を見つけたので、それを興味深く観察していると、不死宮さんが椅子を出してくれた。「ありがとう」と言ってそれに腰かけると、またその気になっている薬草を見いる。すると不死宮さんは、今度は珈琲を入れてくれて俺の目の前に置いてくれた。


「あ、ありがとう」

「別にこれ位のおもてなし、大した事もないわ。それにしても、かなりその草が気に入ったみたいね」

「え? ああ。ちょっと見た事がない、変わった形をした薬草だからね。しかもほら見て、やっぱり変な葉っぱだ」


 不思議だった。変わった形をしているだけでなく、じっと見ているとなんとなく動いているようにも見える草だった。こんな草、初めて見るぞ。


「フフ、実はそれ、初めて見つけたばかりなの」

「やっぱりそうだったか。何処で見つけたの? 不死宮さんって、基本的にこの拠点から出ていないよね」


 不死宮さんは、フフと軽く笑うと頷いた。少し暗い雰囲気を纏っている人だけど、不死宮さんはなんというか……しっとりとしていて、とても美人だった。


 最初に会った頃は、なんとなく影がある人だと思っていたけれど、今は翔太やトモマサ達と同じく信頼できる仲間の一人だ。もう、うちのクランに彼女がいなくなることなんていうのは、誰も考えられないだろう。


「ええ。私、見ての通り、あまり戦闘には自信がなくて。でもこういう薬草採取や薬を作ったり、誰かの治療をしたり、そういうのは好きなのよ。それとね、私達の拠点だけど、どんどん広くなっていっちゃったでしょ? 危険な外へ出なくても、ぜんぜん退屈しないで済むのよ」

「言われてみれば、かなり広くなっちゃったかな。でも羊の住処エリアじゃ、メリー達ストレイシープ達が集落みたいなのを作って平和に暮らしているし、あまり手つかずで調査もせずに放っていた南エリアも、今は豊橋専務達が有効活用してくれている。俺達の拠点は、なるようになって、この広さになったのかもしれない」

「そうかしらね」

「それで、この変な薬草……何処で見つけたのか、そろそろ教えてくれないかな?」


 不死宮さんに更に聞くと、彼女はまた笑った。こんなにも笑う人だったかな。でもいつものミステリアスでクールな感じもいいと思うけれど、笑うと断然可愛くていいと思った。普段からもっと笑えばいいのに……って、それはお節介か。


「この薬草を見つけたのは、南エリアよ。あそこもかなり広いエリアだし、今は椎名さんの会社の専務さん達がプレハブを建てたり色々と使っているみたいだけれど、放置されて草木がジャングルみたいに生い茂っている場所が多いし。もしかしたらと思って、薬草採取に出掛けてみたら見つけたの」

「一人で行ったのか?」

「そう、一人で行ったわ。なぜ?」

「いや、南エリアはまだそれ程、安全だって言える場所じゃないかなって思って。だからそこへ不死宮さん一人でって言うのは……」

「どうして? クランルールでは、拠点内なら何処へでも自由に移動していいってはずだし、南エリアも私達の拠点じゃない? それに今は、専務さん達がいるエリアだし……もし何か魔物に襲われでもしたら、大きな声で叫ぶから心配ないわよ」

「本当に?」

「ええ。こう見えて、私その気になったら結構大きな声が出るのよ。助けてーー、椎名さーーん!!」


 いつもより多少は、大きな声だけど……やっぱり他の人に比べて小さな声。不死宮さんの2人で大笑いした。


 いや、うーーん、でも、そろそろこの薬草の正体が知りたい。既に薬草と呼んでいるけど、効能などは解明しているのだろうか。俺は不死宮さんが出してくれた珈琲を一口飲むと、その変わった薬草を指さしてまた彼女に尋ねた。


「それで、この薬草。何に効果があるのか解ったのかな?」


 不死宮さんは首を横に振る。そうか、珍しいから採取してきたけど、まだこれが何に効くのか解らないのか。それなのに、薬草って決めつけるなんて面白い。もしかしたら、毒草かもしれないのにな。


「既に薬草って決めつけているけれど、実はその草が薬草なのかどうかはまだ調べていないのよ」

「そうなんだ。それなら、俺のスマホアプリを使えば直ぐにでも解るんじゃないかな。【鑑定】を使ってみる?」

「そうね、お願いできるかしら」

「勿論」


 そういうことだ。スマホに入れているアプリ【鑑定】を使えば、もっと簡単にこの草がいったい何の役に立つのか、解るかもしれない。


 まあそうはいっても、この機能で解るのは、その対象の名前と簡単な説明位なもんだけどな。いや、でもこれが薬草として効果のあるもだと説明に記載されていたら、それだけでも得るものは大きいだろう。それでこれが薬草だと、断定できるのだから。


 スマホを取り出して、台の上にある植物に対してカメラを向ける。


「よし、じゃあ早速調べてみ……」


 次の瞬間、俺は悲鳴をあげた。カメラを向けた途端、植物がゆらりゆらりと動いたのだ。錯覚かと思ったけれど、やっぱりそうじゃない!!


 動いた植物から、緑色の蔓のようなものが何本も伸びてきて、俺の腕に巻き付いた。これで悲鳴を上げない奴がいる訳がない。トモマサだって、「うぎゃああああ」とか言いそうだ。


「な、なな、なんだこいつ!?」


 慌てて蔓を外そうとしたが、かなりの力で巻き付いている。ナイフでなら、腰に差している。それで蔓を切るしかないか。そう思った刹那、不自然なこの状況に気づいた。


 不死宮さんは俺が植物に襲われているというのに、やけに落ち着いた様子だ。しかも観察するような目でこっちを見ている。だけどそのうち近づいてきて、おもむろにポケットからライターを取り出すと火をつけた。


 そしてそのライターの火を、俺の腕に巻き付いている蔓に近付ける。すると植物は、火に怯えるように、俺の腕に巻き付けていた蔓を慌てて自分のほうへと引いた。


「え? え?」

「フフフ、驚いたでしょ。この草、生きているのは言うまでもない事だけれど、動くのよ。そして火が苦手みたい」


 驚いた。異世界版の食虫植物みたいなものだろうか。いや、まだこいつをそうだと決めるのは早いかもしれない。こいつの餌が昆虫とは判明していない。


 よし! 俺は珈琲を飲んで気持ちを落ち着かせると、もう一度さっきの植物に向けてスマホのカメラを向けた。


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