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Phase.576 『地獄からの脱出』



 ブギャアアアアアア!!!!


 子供でもかなりの力があった。だが負ける訳にはいかない。ここで負けたら、確実にまた牢へ戻される。もしくは、ここでそのままさっきの男のように、指を順番に切り取られた挙句に頭皮を剥がされて脳を喰われる。そんな運命は、絶対に受け入れられない。


「うがあああああ!!」


 これまで生きてきて、これほど闘争本能に火がついた事がなかった。それは日本という国で、育ち生活していて命を失う、殺されるという局面に晒された事がなかったからだった。だがこの世界は違う。いついかなる時も命を失う危険性があり、油断はできない。


 ここでもしこの子供のオークの抵抗に負けて、ここでいいやと諦めれば地獄を味わうことになる。絶対に死んでもこれは譲っては駄目なのだ。


「うがああ、うがああああ!!」


 プギャアアア!! ブブヘ!!


 何度も包丁で突き刺した。俺の今の状態では、振るよりも刺した方が殺傷力が高いと思ったからだ。気が付けば、オークの子供は血だまりの中に横たわり動かなくなっていた。熊切の方も、なんと2匹のオークを倒したようだ。


「ハア……ハア……ハア……」

「熊切!! 熊切!! 大丈夫か?」

「え? ああ、大丈夫だ。問題無く片付いた。それじゃ、ここから脱出するぞ」


 熊切はそう言うやいなや、手に持っていた血だらけのハンマーを地面に置くと、オークが持っていた牛刀を手にしてそれで、貝谷達を縛っていた縄を切った。貝谷、辺染は涙を流して俺達に感謝を示してくれた。


「ありがとう、もう駄目だと思った」

「恩に着る!! もし無事にもとの世界へ戻れたら、ぜってーお前らを俺のヘシミーチャンネルのレギュラーにしてやんよ! もちろん、ギャラも出すし高額だぜ!」

「それはいいが、赤井も見てやってくれ」

「はあ? 残念だけど、赤井はもう死んでるぜ。ここでお前らが助けにくるちょい前に、オークにしこたま殴られ蹴られしていたからな」

「しっかり見たのか?」

「見たさ。赤井の奴、この凶暴で恐ろしいオークに向かって行ってな。縛られてるし、大怪我してんのによ。それでボコボコよ。酷いもんだったぜー。俺は……なんとか助けたいって考えるよりもよ、これで赤井が直ぐに死んだら次は俺のターンが回ってきちまうんじゃねーかって肝を冷やしてた。でもそれは仕方ねーだろ。目の前でこんな地獄を見せられちゃ、誰だってそう考える」


 辺染を非難はできない。確かにその通りだと思った。オークは残虐だ。こんな殺され方をするのだと目の前で見せつけられれば、辺染のように思うに違いない。だが俺が聞いたのは、そういう事ではなかった。


「しっかり見たかと言うのは、そういう事じゃなない」

「は? いや、そんな事よりも、ここでこんなくっちゃべってなくて、直ぐにでも逃げないと!」

「解っているが、その前にもう一度赤井を調べてくれ」

「だから死んでるって!! ほら、逃げるぞ!!」


 辺染はそう言って、部屋の出口へと向かった。貝谷は、朦朧としている。俺は熊切に向かって、赤井をよく見て欲しいと頼んだ。熊切は頷いて、赤井に駆け寄ると彼の脈を診て息を聞いた。


「…………」

「どうだ?」

「……驚いた。生きている」

「やっぱり……」

「おい、どーしたってーのよ!! 早く逃げんぞ!! 逃げねーと、別のオークがここへやってきちまうだろーが! そしたら俺達、今度こそ殺されんぞ! 死にたくない、早く! そんな死にかけ放っておいて、急げってば!!」


 こいつ……


 恐怖で溢れていた心に怒りが生まれる。今にも辺染を殴りそうになったが、この足じゃそれもできない。そう思った刹那、大きな何かがドドドっと動いた。熊切だった。熊切は、辺染の首を両手で掴んで持ち上げた。首吊りのような状態になっている。


「く、苦しい!! やめろ、熊切!! 俺を殺す気か!!」

「それは、こっちのセリフだ。お前は赤井を見殺すのか?」

「こ、こいつはもう駄目だ」

「それなら、お前ももう駄目だ」

「ぐうう……ま、待て! 待ってくれ!! 息ができねーよ! 俺が悪かったかた、許してくれ!! 頼む!!」


 顔が真っ赤になる辺染。何度も謝る奴の姿を見て、熊切は手を離した。そして――


「げほっ……げほっ……なんて狂暴な奴だ」

「それはこっちのセリフだと言っているだろ。仲間を見殺しにするのか、お前は?」

「ち、違う! そいつはもともと仲間じゃねーじゃんか! どっちかって言うと、俺達を守ってくれねーといけねー立場なのによー」


 熊切の表情がまた険しく変わる。俺は熊切に向かって叫んだ。


「や、やめろ!! 辺染の言っている事も一理ある」

「なんだと?」

「誤解するな。直に別のオークがここへやってくるはずだ。俺達はここでこんな事をしている暇なんて無いだろう。今一番大事な事は、ここから早く脱出する事だ」

「スマホがねーと、ヘシミーチャンネルの配信できねーんだけど……」

「スマホと命、どっちが大切かだな。それが解ったなら、辺染。お前が赤井を負ぶってくれ」

「ええええええ!! 嘘だろ、だって赤井は筋肉ダルマだし、重そうじゃんか。それなら熊切が……」

「長瀬は、両足をやられている。だから俺は長瀬を背負う」

「じゃ、じゃあ貝谷が……」


 辺染がそう言って貝谷に目を向けると、俺達も彼を見た。まだ呆然としている。そしてすっと立ち上がると、出口の方へとトボトボと歩いて行った。それを見て、俺達も後に続く。


 俺は熊切に背負われ、赤井は辺染が背負った。武器も忘れずに持つ。後は服と服、スマホまで奪い返してここから出る事ができれば、何も言う事はないんだがな……とりあえず、一番重要なのはここから脱出する事だ。仲間は助けだしたし、あとは他の何よりも出口を目指すべきだろう。


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