Phase.575 『血溜まり』
オークは、その怪力で無理やり男を立たせると、その首筋に牛刀をヒタリと当てた。
そのまま男の首を刎ねる。そう思った刹那、オークは男の首筋に当てていた牛刀を男の額へと移動させた。
プシュウッ!
「ぎゃああああああああ!!!!」
ブヒャッヒャッヒャッヒャ!!
笑っている。オーク達が楽しげに、大笑いをしている。
オークは男の額に牛刀の刃を入れると、そのままゆっくりと頭の皮を剥ぎ始めた。断末魔。泣き叫ぶがオークは、特に動揺している素振りもなく淡々と男の頭皮を剥ぐと頭蓋を割った。そしてそこへ指を突っ込むと、まるでハチミツを舐める熊のように脳みそを掬って喰った。男は痙攣しているが、もう死んでいるのは明白だった。
「うぐ……」
「おい、吐くなよ長瀬。バレたら、奇襲できなくなるぞ!」
「そ、それは無理……うええええ!!」
熊切に背負ってもらっていた。そして俺の我慢は限界を通り越して、嘔吐してしまった。だが熊切に吐きかけないように、横を向いて出した。もうほとんど何もでない。熊切は自分の背中に吐かれるよりも、別の事を気にしていた。俺が吐く事で、向こうにいるオーク共に気づかれてしまうという事だった。
もし気づかれて、3匹一斉に向かってこられたら、いくら熊切でも勝てないだろう。こちらは全然戦う為の準備もなにもできていないのだ。
「熊切、すまん! オークはどうなった? 気付かれてしまったか?」
「自分で見てみればいい」
そう言って前に出る熊切。オークが気づいてこちらに向かって来ていたら、もしかして俺を差し出してその隙に逃げるんじゃないだろうなと思う位の感じで、壁から外へ突き出された。
「おい、早く引っ込めてくれ! 見つかる!!」って言ったのと同時に前方へ目をやると、オークに捕まっている貝谷や辺染も盛大に吐いていたのだ。危なかった。そのお陰で俺達は、気づかれなかったようだ。
「良かった、気づかれていない。だが……」
「こんな所で、まごまごとしていられん。まだ3匹だが、下手をすると別のがここへやってきて更に増える可能性も考えられる。今ならなんとか勝つ自信はあるが、流石にもう1匹増えたらどうなるか解らんぞ」
「今なら勝つ自信はあるのか? さ、3匹だぞ!!」
「ある」
熊切は言い切った。どちらにしても、ここまで来れば貝谷達を見捨てられない。なら自信が無いと言ってすくみ上るよりも、あると言った方が前向きで望みがあると思った。もしくは、熊切には本当に奴らに勝つ自信があるのか。
考えていると、俺は熊切に地面に降ろされた。
「お、おい」
「手伝ってもらうつもりだったが、俺一人でいけそうな気持になってきた。ここで待っていてくれ」
「お、おい! 2人でやった方が……」
言って自分が今、立ち上がる事すらままならない事に気づく。向こうを覗き見ると、オーク共は先程までいたぶって楽しんでいた男を、うつぶせに倒れている赤井の横に転がしていた。
ブヒャア!!
ブヒイブヒイ!!
何か会話をしている。
「なんだ、奴ら何を話しているんだ?」
熊切にそう聞きながらも、目は奴らに釘付けになってしまっている。熊切は、オークの前に出て行くという決心した顔をしていた。覚悟を決めた表情。
オークが、貝谷に手をかけた。そして先程脳みそと指を喰われた男が座っていた位置に連れて行く。
ブヒイイ!!
「ひ、ひいいい!! た、助け……助けてくれ!! 死にたくない!!」
ブヒャアア!!
オーク共は、貝谷を座らせる。目前に突き立った杭に、彼を縄で縛ろうとしている。牛刀と斧。
「今だ!! 今なら2匹とも向こうを向いている!! 行ってくる!!」
「ま、待て熊切!! 子供がこっちを向いている!!」
熊切は、もうここしかチャンスが無いと思ったのだろう。ハンマーを手に、オーク共のいる部屋に入るとそのまま早歩きに近付いていった。そしてハンマーを振り上げた瞬間、目の前にいた子供のオークが熊切を指さして騒いだ。振り返る2匹のオーク。熊切の思い切り振ったハンマーが、片方のオークの顔面に振り下ろされた。
ピギャアアア!!
ビヒイイイイ!!
熊切の一撃をまともに顔面に受けたオークは、その場に倒れた。躊躇う事無く、ハンマーを振り上げて振り下ろすという事をやってのける熊切。血飛沫。
やばい、こうなったらやるしかない。俺も身を乗り出して、匍匐の状態で熊切に近付いていく。一方で熊切は、もう1匹のオークとハンマーで打ち合っていた。やはり真っ向勝負だと、こちらの分が悪いか。
「うがああああ!!」
ピギャアアアア!!
捕らわれ、血と泥で汚れて俯いていた辺染がいきなり、熊切が戦っているオークの足に噛みついた。丁度、アアキレス腱の部分で、見ているだけでも血の気が引く。しかし辺染はものともしない。そうでなければ、ここから生きては戻れないと知っているから。
「どりゃああああ!!」
プギャアアアア!!
ドガッ!!
辺染にアキレス腱をかみ切られ、痛みで体勢を崩したオークの頭部に、熊切のハンマーが落ちた。だが続けて熊切も悲鳴をあげる。見ると彼の太腿に、短剣が刺さっていた。刺したのは、子供のオークだった。
まずい!! ここで行かなければ、俺達は全滅する!! 匍匐していたが、無理やり身体を起こすとそのまま立ち上がろうとした。すると足首に激痛が走り、転倒する。しかしこれでいい。倒れた先には子供のオークがいて、俺の手にはさっきオークの厨房で手に入れた包丁が握られていた。
プギャアアアアアア!!!!




