↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
568/618

Phase.568 『松明』



 ――――目が覚めた。


 また気を失っていたようだ。


 ……っていうか、あれからどれ程時間が経っているのだろうか。ひょっとして、もう転移アプリの休止が始っているんじゃないかと思って、ドキリとした。


 秋葉原のメイド喫茶、あそこで聞いていた話。間も無く、転移アプリの休止が行われるという。そうなると、異世界と元世界の行き来は完全にシャットアウトされてしまう。急に戻りたくなっても、復旧するまではどうやっても戻れない。異世界にとどまり続けるしか道はなくなる。


 一応、運営側の処置として、転移アプリ休止が始ると同時に、その者のアプリに表記されている自分のレベルが5に達していなければ、強制的にもとの世界へと戻されるという。


 それは、レベル5にもなっていない未熟な転移者が、この異世界で暫く生きていくとしても自殺行為意外の何ものでもないと判断されての、運営側の救済処置だろう。


 しかし例外があった。


 救済は、使用者のスマホをもってなされる。もしこの異世界で、転移アプリを入れているスマホを紛失したり、破損させてしまって使えなくなってしまった場合、完全に向こうとこっちを行き来していたパイプラインはカットされてしまうのだ。


 そう、この『異世界(アストリア)』へと完全に取り残されてしまう。つまるところ、それはもと世界……日本にいた俺は死んだと同じ扱いになる。そしてこれからはこっちの異世界で、生きていかなくてはならない。


 オークに襲われてこの牢に入れられてから、俺は来ていた服も靴も、背負っていたザックや金属バット、剣なんかも全部奴らに盗られた。身に着けているものなんて、何もない。つまりスマホも紛失したという事なのだ。


 もし奴らから取り返すことができれば、俺はまたもとの世界へ戻る事ができるのだろうか。


 転移アプリ休止が始ったら、俺はこっちの世界へ居残るつもりだった。結果、そうなってしまった訳だが、その前にもとの世界へ一度帰り、もっとちゃんと準備をしておきたかった。


 …………まいった…………


 スマホの事。それが一番重要だが、同じ位に熊切達の事が心配だった。皆、俺と同じように牢に入れられているのだろうか。それとも抵抗して、既に殺されてしまったか。


 波多野、籾井、荻野、マッチャン……最初の冒険で、既に目の前で仲間が悲惨な死を遂げていて、俺は仲間の死に対して少し慣れ……というのか、この世界ではそういう事もあるのだと諦めのような感情を知らず知らずのうちに抱いてしまっている。


「う、うぐぐうぐ……」


 激痛。身体のあちこちが痛い。あの豚野郎。気を失ってからも、蹴ったりしたに違いない。くそっ、し返してやりたいが……駄目だ。そうじゃない、そんな事よりもここからどうにかして逃げ出す事を考えないと。


 周囲を見ると、やはり牢内というか洞窟の内部は明るい。それは壁に一定間隔で、松明がかけられているから。腕時計もなくなっている。自分がどれほど意識を失っていたかは解らないが、やけに長持ちする松明だ。何かこの世界の不思議なものでも使っているのだろうか。


 もしくは、俺が気絶している間に、何度か取り換えにきているかもしれない。


「…………」


 おい……


 ふっとして、壁にかけられている松明とこの牢の出入口、木を組んで作られてた格子を交互に見る。


「いけるぞ!! いける、これならいける!!」


 唐突な閃き。っというか、なぜ今まで気づかなかったんだ。これなら、きっとこの牢から外へは出られるはず。


「ふ、ふぐ……ふぐううううう!!」


 もしここに姿見があってそれを見れば、今の俺の顔面はボコボコに腫れあがって眼も当てられぬ感じになっているだろう。身体もあちこちに痣やら出血箇所がある。切り傷に打撲、土で汚れてどういう状態になっているのかも解らない。これ程、汚い姿になっているのなんて、幼少の時に母の手を振り切って近所の友達と雨の日の公園で、泥んこ遊びをした時くらいだ。


 幼かった俺も、すっかりおっさんになってしまった。子供の時みたいに、いくらでも元気が湧き上がってくる訳じゃないが、その分我慢ができるようになった。


「うおおおおおお!!」


 手を地について立ち上がろうとした。身体がきしむ。そして立ち上がる。足首に激痛が走る。まるで両足がバネになったのではないかと思う位、飛び跳ねてその場にまた転がった。


「ぐああああああ!!」


 もはや自分でも、口から漏れているのが嗚咽なのか悲鳴なのかも解らなかった。いや、両方かもしれない。両足の足首に目をやると、ドス黒い血で滲んでいる。


「あ、あいつら……あの豚共……俺が逃げ出さないように、足を潰しやがったのか……」


 血の気が引く。こんな真似をされるなんて。


 しかし切断された訳じゃない。そうされていても、おかしくない状況だ。でも足はついている。それなら回復すれば、また歩く事だってできるし、なんとかできるはずだ。幸い、両手は動く。


「うぐ」


 転がった所から、そのままゴロンとなって上を見上げた。


 壁にかけられた松明。あれをどうやって手に取るか。あれがあれば、ここから脱出する事もできるはずだ。だが足がこれだ。しかも高さ的に、立ち上がった状態でも手が届かない位置。この洞窟、結構天井高がある。怪我をしていなければ、全力でジャンプすれば手が届くといった所だろう。


「くそう、どうすればいい……いや、諦めるな。考えを巡らせ。俺はこうなるリスクも覚悟していたはずだ。ただ何も準備ができていなかった。それだけのはずだ。諦めるな。なんとかあの松明を手に入れる方法を考えるんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。