Phase.567 『張り手』
「わああああああああ!!!!」
陰に隠れて様子を見ていたら、オーク共は俺が見当たらない事に騒ぎ立て格子扉を開けて、まんまと牢の中へと入ってきた。一度に二匹を倒すのは不可能だ。だがやるしかない。
牢の隅――暗闇にしゃがみ込んで、チャンスを伺う。一匹は格子扉の前、もう一匹は中へと入って来た。俺は雄叫びをあげながら、オーク目がけて石で殴りかかった。
ガン!!
顔面に直撃。しかしビクともしない。オークは、豚の顔をしている魔物だが大きな牙が生えていて、鬼に見えた。
ブオオオオ!!
「うおおおおお!!」
フォン!!
オークは、顔面を石で殴られたお返しとばかりに、思い切り腕を振りビンタを放ってきた。喰らったら、首の骨が折れそうな勢い。だが見事な位に大振りだった。ボクサーのような高等テクニックの欠片もない力任せの攻撃。
なんとか反射的にかわす事ができた俺は、持っていたもう一つの武器、尖った骨を両手でしっかり握り込むと突進して、オークの腹に深く突き刺した。
「だああああああ!!」
ブスウウ!!
ブヒイイイ!
豚が潰されたような悲鳴。いけるかもしれない。しかし一撃じゃ、とても倒せない。なら連続で何度も突きさして倒す。
思い切り突き刺した尖った骨を引き抜こうと力を入れた。だが引き抜けない。なぜ!?
ブオオオオ……
目の前にいるオークは、俺の両手を掴んでいた。ヤバい。潰される。デカい身体は、見るからに力がありそうだった。俺の両手は今、オークに握られていて、握っている尖った骨をオークの腹から引き抜く事も、諦めて手を離すこともできない。徐々に握力を加えられて潰される。
「ぎゃあああああああ!!!!」
大きな悲鳴をあげると、オークは簡単に手を離した。声に驚いたのか!? 俺は慌て距離をとる。睨み合う。尖った骨は、オークの腹に突き刺さったままだった。
ブオオオオオ!!
オークは腹を刺されて、気が立っているようだった。どうする? もう武器はない。どうすれば、こいつをやっつける事ができる? いや、やっつけられなくても、この場から逃げ出すことができればいい。しかしもう1匹のオークは、仲間が俺に腹を刺されているにも関わらず、特に動転した素振りも見せずに退屈そうに、格子扉の前で突っ立っている。
くそう!! やはり、こいつをどうにかして倒して、あいつもやるしかないのか。
ブヒィ!
向き合っているオークは、自分の腹に突き刺さっている尖った骨を片手で掴むと、ぎゅっと力を入れて簡単に引き抜いて見せた。そしてその場に落とすと、踏みつけて粉々にした。
「くそーー!! どうすればいい!! 何かないか、何かないか、何かないか!!」
必死になって牢の中に、武器の代わりになる物がないか探す。何もない。いや、こんな所で諦めてたまるか。やっと異世界は本当にあるんだって証明されたんだ。これから俺の異世界での冒険や、生活が始まるんだ。こんな所で、終わってたまるか!!
絶対何か生きるヒントがあると思って、必死になって探し続けた。オークはそんな俺を見て、嘲笑うかのような顔で近づいてきた。万事休す。そう思った瞬間、俺はこの牢にある強力な武器に気が付いた。眼を向ける。
そうだ!! 武器はあるぞ!! ただ、俺に扱えるかどうか……いや、迷っている余裕はない!!
「たああああああ!!」
傍から見たら、破れかぶれとか玉砕アタックっていうかもしれない。なんて言っても、素っ裸の男が素手でこんな恐ろしいオークに向かって突進しているんだから。だが諦めた訳じゃない。
ブオオオオ!!
オークは、自分に向かって来る俺目がけて腕を振りかぶった。やっぱりそうだ。こいつ、まだ俺を殺す気はないらしい。なぜそう思うのか。こいつは俺に腹を刺されたにもかかわらず、武器を使わない。遊んでやがる。しかしそれなら、その武器!! 俺が使ってやる!!
オークの重い一撃。まさに張り手。それをかわして懐に入る。こんな動きを自分ができるなんて、到底思えなかった。中高生だった頃は、部活もしていた。バスケだ。あの頃は闘う相手の動きがよく見えたし、こんな鈍重な相手の懐に入る動きだってできた。でももう無理だ。社会人になって久しく運動なんてしていないし、むしろ肉体的に遠ざかるようになっていた。
なのに、なぜか今はあの時の頃のように身体が軽い。これならいける!!
「うあああああああ!!」
ブヒ!!
雄叫びをあげた。そして懐深くに入った所で、オークが腰に差している剣を引き抜いた。まるで牛刀のよう。これならオークを倒す事ができるかもしれない!!
「うおおおおおお!! 喰らえ、この豚あああああ!!」
ブヒイイイ!!
剣を振りかぶった瞬間、身体が固まった。そして後ろへ流れ、バランスが崩れる。なんだ? なんだこの剣⁉ こんなもの、とても振れない。なんて重い剣なんだ!!
後ろへ崩れて、尻もちをつくと同時に剣が落ちた。俺の顔にはっきりと絶望の色が出ると、オークはニタリと笑ったような気がした。
そして奴は一気に近づいてきて、俺の左頬に重いビンタを入れてきた。衝撃で身体が頬に引っ張られて、壁に激突。そのまままた意識を無くしてしまった。




