Phase.566 『生きる為に』
――――目覚める。
グオオォォ……
なんだ? なんの音だ? 凄く不気味な音。
いや、鳴き声か。得体の知れない何かの鳴き声。
グオオォォオォ……
気が付くと、俺は裸になっていた。何も身に着けていない。そして穴倉のような場所で横になっていた。起き上がろうとすると、ズキリと酷い頭痛に襲われた。
「ぐっ……あいたたた……」
頭を押さえる。そしてなんとか起き上がる。くそう!! そう言えばオークだ。オークに襲われた事を思い出す。棍棒か何かで思い切り頭を殴られ、そのまま気を失ってしまった。そして今、目が覚めた事を理解した。
グオオォォ……
「なんだ? さっきから聞こえてくるこの不気味な鳴き声……もしかしてオークか」
オークだとしたら、刺激しない方がいい。また頭を殴られたら、今度は一生目覚める事はできないかもしれないのだ。
……そう言えば、熊切や貝谷、赤井はどうなった? 辺染とゴッスンは?
皆の名を大声で呼びかけようとして、やめた。オークを刺激しない方がいい。それよりも、まずはここが何処なのか確認するが先決だ。
辺りを歩きまわる。ダメージが完全に抜けていないからか、なんとなく足元がおぼつかない。また来ていた服と共に、靴や靴下まで脱がされていたので、素足でそこらを平気に歩けなかった。尖った骨のようなものや、石が散乱している。踏むと、やたらと痛い。
「くそ……服や靴、ザックや懐中電灯も持っていきやがったのは、オークか。あれがないと……とてもここから移動なんてできないぞ」
とりあえずここは、洞窟内だという事は解った。俺達は洞窟をゴブリンの巣だと思っていたが……実際は、オークの巣だったのだろうか。
ここがあの崖の先にある場所なのか、出口の方へ戻った辺りにある場所なのかも解らない。皆は、無事なのか。
洞窟内を歩き回っていると、ここが牢である事が解った。目の前に格子が現れたからだ。近づく。格子は、木で作られていた。俺はそれを強く掴んで、前後に押したり引っ張ったりしてみた。簡単には壊れない。オークが獲物を逃がさない為に作ったものだ。冷静に考えてみれば、そう簡単に壊れはしないのだろう。
しかし……ここは薄暗いが、辺りがうっすらと見える。どうしてなのか。
「あれか」
周囲に目を向けると、所々、灯りが壁に掛けられていた。松明だ。牢の中にもある。それで壁にぶつかるという事もなかった。
「さて、これからどうすればいい。このままここにいたら、大変な目に合うだろうという事は容易に推測できるが……何も身に着けていないこの真っ裸の状態で、どうやって外へ出ればいいか」
考えを口に出して呟く。その方が、よりいい考えが思い浮かぶと思ったからだった。だが今のところはどうしようもない。
もしかしたら、別行動する事になった辺染とゴッスンがいきなり目の前にヒーローのように現れて、助けてくれるかもしれない。同じ洞窟内にいる訳だし、彼等が俺と同じくオークに捕まっていたり、無事でも既に洞窟の調査を終えて外へ脱出してしまっていなければ期待はできるはず。
逆に熊切と貝谷、自動的に赤井もそうなるが……意識を失う時の記憶を思い出すと、絶望的だと思った。彼らも俺と同じく。オークに捕らえられていると思われる。
「くそ……やっぱり、じっとはしていられないな。ここから出たければ、何か行動をしないと。今の状態は最悪だが、幸いどうしようもなく絶望的という訳でもない。身体を拘束されている訳でもなく、こうして歩き回れはするんだからな」
自分を励まして、ここからどうやって外へ出るかというような考え以外は全て頭の外へ追い出した。そうしないと、不安と恐怖で押し潰される。スマホだって来ていた服と一緒に、何処かへやられてしまった。あれが無いと、もとの世界へは戻れない。けれど今は、敢えてそれを考えない。考えたら……もう正常に頭を働かせられなくなる。
閉じ込められているこの場所を、また歩き回り辺りを調べた。何か使えるものはないか。脱出に使えるものはないのか。
そう言えば、辺りに尖った骨が散乱しているな。何でもいい。何かに使えそうなものは――
石と尖った骨を手に入れた。これが何に使えるかは解らない。だが普通に武器としても使えるはずだ。相手はオークだ。ゲームじゃ雑魚敵でも実際に戦うとなると、簡単に倒せるとは思えない。実際見た目は、熊切並みにデカくて横幅は、それ以上だった。力も人と比べてかなり強そうだし……
それでも何もないよりはましか。
「あとは……」
壁にかかっている松明を見る。閃きが走る。
「もしかして、オークって魔物はあまり頭がいい方じゃないのか? それとも、自信があるからこんな物も、牢屋の中に設置してしまっている……って事なのか」
この中にあるものの中で、一番使えると思ったもの。それは壁に掛けている松明だった。これなら、簡単に牢を壊せる。格子の材質は、木を使っていた。それなら火をかけて燃やしてしまえば、外へ出る事ができるはずだ。
グオオオオオ!!
松明を手に取ろうとした所で、何かが格子の前までやってきた。二匹のオーク。
一旦、松明を手にする事を止めて、尖った骨と石を握った。これであの化物を倒せだなんて、とても無茶だ。しかしやるしか生きる道は残されていないよな。




