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Phase.563 『赤井と辺染』



 身体中を鼠に喰われ、籾井は絶命していた。悲しいというよりも、目を背けてしまう程の悲惨な光景に吐気を覚える。さっきまで一緒に行動し、話をしていた相手だ。


「赤井! 大丈夫か!!」

「ううう……」


 赤井もそうだった。身体のあちこちを喰われている。出血も激しく、助からないのではと思ってしまった。熊切が後ろを振り返り、声をかけた。


「そっちは大丈夫か!!」

「ああ、なんとか……」


 直ぐに貝谷の声が返ってきて安心した。ライトで照らすと、辺染とゴッスンの無事も確認できた。


「熊切、手を貸してくれ」

「解った」


 俺は熊切と一緒に、赤井を立たせようとした。このままここに、放置はできない。赤井は激痛に悲鳴をあげる。


「っぎゃあああああ!!!!」

「ちょっと我慢してくれ。直ぐに、外へ連れて行くから」

「おいおいおいおいおい。外へ連れていくってマジで言ってんのか?」


 俺と熊切が赤井の身体を支えるのを見て、辺染が騒ぎ出した。


「当たり前だ。見ろ、大怪我だ。しかも大量の鼠にあちこちを齧られているし、身体にバイキンみたいなもんが入り込んでいるかもしれない。直ぐに、外へ連れ出して手当てしないと」

「まてまて!! ここまで来たのに、帰るのか? 冗談だろ? どれだけ犠牲を払ったんだ? ゴブリン共の巣があるのなら、それをちゃんとカメラに収めてから戻らないと、皆の死が無駄になるじゃねーか!!」

「勘違いしているのか知らんが、俺達は別に動画撮影なんてどうでもいい。死んだ者も、別にお前の動画撮影の為にその命を無くした訳ではないだろ。勘違いするなよ」

「なんだと⁉ 馬鹿いうなよ。じゃあ、アレだ。お前が動画撮影なんてどうでもいいっていうのなら、知らねーだろ」

「何が」

「ヘシミーチャンネルだよ。俺のやってるヘシミーチャンネル、その登録者数を知らんな!! すげーいるんだぜ。更に今回この俺達の冒険を配信すれば、もっと増える」

「だからそれがなんだ?」

「金が入るって事だよ。大金がな。そしたらあれだぞ。ちゃんと俺の言う通り聞いて、やってくれたら協力者としてギャラを支払ってやるぞ」

「いらん、どけ!! 赤井を助ける」


 崖の方へ戻ろうとする俺と熊切を、辺染は遮って止めた。その程度の動きだけでも、俺達に支えられている赤井はつらそうに呻いた。これだけの傷と出血。当たり前だろう。


 彼の使っていた戦斧は、熊切が手に持っていて、荷物も自分のものと一緒に背負ってやっていた。本当に誰かと違って、熊切は頼りになる男だ。


「ちょちょちょちょ、ちょ待てって!! 待ってくれよ!!」

「なんだ!! ここはゴブリンの巣だぞ!! さっさとここから外へ出ないと、皆殺される!! 赤井も、直ぐに怪我をちゃんと見てやらないと駄目だ。幸い、波多野さんの時に探した薬草もあるし、どうにかなると俺は思っているけどな」

「いや、だからそれならよ。一応、ゴブリンの巣を見ておきたくねーか?」

「お前が撮影したいだけだろ」

「だから大金になるんだって。逃げるにしても、敵の事を知っておくのは大切だろ。多分、ゴブリンのねぐらまではあとちょっとだ。赤井さんには、ちょっとここで待って休んでいてもらって、ササっと行って見てこようぜ。そしたら赤井さんを連れて、ここから脱出だ。ワオーーー、やったーー無事逃げだせたねーーって、はっきりとビジョンが見えたぜ!! 間違いないって!!」

「皆、覚悟してこの異世界に来ているんだろう。俺がそうだから。だからもし、何かあって死んでも仕方がないと思う。でも生きているなら、助けるべきだ。だからどいてくれ」

「キーーー、わかんねえ奴だな!! 俺は行くぞ!! 貝谷ちゃん、ゴッスン!! こんな奴ら放っておいて、俺等は行こうぜ。ゴブリンのねぐらはもう直ぐだ。それだけ撮って帰れば、登録者数も鰻登りだぞーーう」


 ゴッスンは、辺染のもとへ行く。だが貝谷は首を振って、俺達についてきた。


「おい、貝谷ちゃん。一緒に行こうぜ。金儲けできるチャンスだぞー。そうだ、どんな結果になってもついてきてくれるだけで300払おうじゃなーーい。どう? 魅力的じゃなーーい?」

「いや、断るよ。怖いと言っておきながら、異世界にまた来てしまっている。けど、何も自殺願望がある訳じゃない。俺には俺の思いがある。長瀬さんに従うよ」

「キーーーー、なんだなんだ。じゃあもう知らねー!! ゴブリンのねぐらまであと一歩だぞーー!! そこに何がいるのか見ても、絶対にお前らには教えてやらんからな。あと、ゴブリンのガキがいたら大収穫! 攫ってやる!! 長瀬、お前キノコの魔物……マイコニッドを見つけて喜んでいたけどな。俺はゴブリンのガキだから、もっとすげえぞ!! 先に言っておくが、お前らは協力もしねーんだから、触らせもしねーし見せもしねーからな。覚悟っしろ」


 動画撮影意外にも、目的があったのか。まあゴブリンの子供を見つけたら、それを結局動画撮影に利用するんだろうけどな。


 ……あの泉の近くで見つけたマイコニッド。あれを俺が見つけて、皆に見せた時に辺染はもう考えていたのかもしれない。魔物の子供なら危険度も低いし、自分の動画配信のネタにおおいに役立つという訳か。


 まあ、でもだからと言って、秋葉原店のマドカさんの言葉も気になる。この世界で動画撮影を成功したからと言って、それをもとの世界へ持って戻れるのか。もしくは戻れたとしても、それをネット上に配信することなんてできるのかどうか。


 運営にそれがバレれば、あのマドカさんの様子から言ってもペナルティはあると俺は思っている。


 ……まいい。


 俺は動画撮影なんて知らないし、興味もない。そんなにやりたいのなら、勝手にやればいい。そんな事よりも兎に角、赤井を連れてあの崖を降りて、洞窟の外へと出ないとな。


 そう思う横で、赤井は激しい痛みに顔を歪め、ずっと唸っていた。


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