Phase.561 『ベテランの挑発』
誰が最初に行くかという事になり、まずは俺から登らせてもらう事になった。喉元過ぎれば熱さ忘れるというが、こういうのは先にやった方が楽に思えたからだ。
熊切や貝谷に見守られながらもロープを両手で握る。岩壁。ここを赤井と籾井は、ロープも無しによじ登った。よく見れば手足をかけられそうな場所は、結構ある。しかしよくこんな所を命綱もなしに、登る事ができたなと感心する。
「おら、長瀬からかー!! 一緒に行くなら、早く上がってこいよー!! 先がつかえてんだぞーー!!」
「ああ、解ってるーー!!」
赤井が急かしてきた。まったく、俺はまだこの世界に来たばかりなんだぞ。ちょっとは、待ってくれよ。
「おらああ!! 早く早くーー!!」
洞窟の中だから、声がよく響く。そう言えば、ここはゴブリンの巣って言ってなかったか? だとしたら、こんな大声を出していいのか?
「まあいい。とりあえず、もうこんな所まで来ちまったからな。考えるより、先へだ」
気持ちを切り替えて、ロープを強く握った。交互。足を岩に引っ掛けて、上へと登る。赤井と籾井が上に登って行った時に、下から普通に見ていたが……これは実際見るのとやるのとでは凄い違いだ。かなりきつい。腕も足もプルプルとし始めた。
「絶対に手を離すなよーー、長瀬ーー!! あと、下は見なくていいぞおお!! 見ても怖いだけで、特に意味ねーから」
「はっはっは、確かにそうだ。スリルが好きだって言うなら、チラッと見ればいいと思うけどな。高いのは、好きか?」
「大嫌いに決まっているだろーが!!」
赤井と籾井の野次が、岩壁の上の方からここへ降り注いでくる。身体が無理をしている分、2人のおちょくりを聞いて怒りが湧いた。だが、同時に少し冷静にもなった。
恐らく2人は、わざと俺に向かって野次を飛ばしている。結構それがムカつくから、自分が今岩壁を登っているとか、危険な事をしているというのを意識しないで済んでいる。もしも途中で、落下を恐れて身体が硬直するような事があったら、それが原因で本当に落下しかねない。2人はそれを見越して、この俺に野次を飛ばして注意を反らし、落下したらどうなるかという恐怖を隠しつつ、自分達の方へと意識を向けてくれているのかもしれない。
「ほら、頑張れ。もうちょいだぞ!」
「うおおおおおお!!」
突然、ロープがきしみだした。まさに今、ロープが切れそうな音。赤井と籾井に怒りと感謝をしながらここまで登ってきたけれど、急に不安になる。結構な高さまで来た。もうあとほんの少しで赤井達のいる辺りまで登り切れる。だがここでロープが切れて落下したら……上手く足から落ちても、両足共骨折するだろう。運が悪ければ、落ちて死ぬ。
「うぐぐううう!!」
「おい、長瀬!! どうした? ほら、もうちょいだ!! 早く、あがれってんだよ!!」
「いや、ロープが切れそうなんだ!! やばい、落下する!! 助けてくれ!!」
「馬鹿いうな!!」
「馬鹿? 馬鹿だと言ったか? ロープが切れそうなんだぞ!! 赤井、お前は俺を見殺しに……」
「いいから、あがってこい!! そんな無駄口叩いている暇があれば、もうここまで登れているぞ!! それと言っておくが、長瀬。お前はそのロープを自分のナイフで切るつもりなのか? ひょっとして、自殺願望があるのか?」
「そんな訳ないだろ!! ロープが切れるって騒いでいるのに、自分からそのロープを切るか、馬鹿!!」
「なら大丈夫だ。そのロープは登山用の奴で、ぜってー切れない。まあ今言ったようにナイフとかそういうので切れば、落下はするがな。だから余計な事を考えずに早く登れ!!」
「き、切れない? 登山用?」
「ああ、そうだ。当たり前だろ! こんな世界に来るんだ。異世界って言っても、俺は魔法も使えないしスキル能力とかそういうのもないんだよ!! だから準備万端にして挑むのが当たり前だろーが!!」
赤井の言葉に、妙に納得してしまった。
だがそのお陰で、岩壁を登りきる事ができた。最後の所では、赤井と籾井が俺の腕をとって引き上げてくれた。ちょっと感動してしまった。下を見る。こっちを心配そうに見上げている熊切達に、やったとサインを送ると今度は熊切が登り始めた。
「赤井、籾井。散々馬鹿にしてくれたな」
「ああ、悪いか?」
「いや、心使いに感謝している。ありがとうな」
「ケッ!」
「それで、この岩壁を登った先、奥の方はどうなっているんだ?」
「さあ、まだははっきりとは言えねーが、だいたいの予想はついている」
「予想?」
「ほれ、見ろや」
赤井はそう言って、懐中電灯を奥の方へと照らした。すると木くず? 藁が沢山落ちている。骨もあるが……
「これは、さっきそこで見つけたもんだ」
赤井はそう言って、俺に石の斧を手渡してきた。
「え? こ、これって……」
「ここがゴブリンの巣っていうのなら、この先にある。しかもこんな場所に作っている位だ。子供とか、そういうのが隠れているかもしれねーな」
「こ、子供のゴブリン⁉」
「そりゃそうだ。なんだって、赤ちゃんから始まる。ゴブリンにだって、当然子供もベビーもいるだろ」
後ろにある崖。そこに熊切が登ってきたのが解った。次は貝谷、辺染、ゴッスンと続く。




