Phase.560 『洞窟の崖』
「おおーーーーい!! 戻ってこーーーい!!」
洞窟の中はよく声が響く。赤井の声を聞いた俺達は、彼等のもとへ戻った。そして何をしていたか聞かれたので、むこうに人骨が山積みになっていると知らせた。すると赤井は、やはりこの洞窟はゴブリンの巣なのだと言った。
ゴブリンは人を襲う。その場で殺す事がほとんどだが、場合によっては捕らえて自分の巣へ連れ帰るらしい。そして捕らえてきた人間で、遊ぶ。あくまでも人間とではなく、人間でという意味だ。
ゴブリンは、醜悪で冷酷残忍な性質を持つ魔物らしく、人間や他の動物が苦しむさまなどを目にすると、笑い転げるらしい。だから人間を捕らえれば、その人間を傷つけ悲鳴をBGM代わりにして楽しむらしい。そして最後は殺してしまう。
また、奴らは人間の肉を喰らう。彼らにとって、俺達は玩具かあるいは肉でしかないのだ。
赤井は俺達が戻ると、なぜか機嫌がいいように見えた。もしかして先へ続く道が見つかったのかと思ったが、ビンゴだったようだ。
「こっちに来い」
「ここは、行き止まりだろう」
「始めは俺もそう思ったが……あれを見てみろ」
赤井はそう言って、目の前の壁を懐中電灯で照らした。行き止まりになっている箇所。照らした灯りは、下からずっと上へと壁を這っていく。そして天井付近でピタリと止まる。隙間?
「見えるか? あそこ、隙間があるだろ。人が入って行ける位の隙間だ」
嫌な予感。
「確かに見えるが、ま、まさかあそこまでよじ登って行って、中に入るつもりじゃないだろうな」
ニヤリと笑う赤井と籾井。それは、そうなのだと返事している事を意味していた。
「う、嘘だろ……」
「じゃあ、ここで待っているか? 俺と籾井は、上に上がる。それと言っておくが……ああいう場所の先にあったりすんだよ」
「何が?」
「ゴブリンの巣だよ」
「なに? ここが、この洞窟自体が巣じゃないのか?」
「まあ、大きく見ればそういう事だが、その中の更に奥に中枢部分があるかもって言ってんだよ。嫌なら、ついてくるな。ここで待ってろよ。行くぞ、籾井」
「おう」
「お、おい待てよ!」
赤井と籾井は自分のザックから色々と壁を登る為の道具を取り出して、用意し始めた。と言っても、それ用の滑り止めの強そうな手袋と、上る途中に岩の隙間に打ち込んだりするピッケル位か。あと、頭に装着できるライト。
なんの躊躇いもなく赤井と籾井は、壁に張り付くと本当に上へと昇りだした。
「お、おい!! 気をつけろよ!!」
「解ってるって言ってんだろ!! 集中してやんねーと危ねえんだから、気安く声かけてんじゃねーよ!! その気がねーのなら、黙ってそこで見てろ!!」
「…………」
赤井が言ったように、俺達は黙ってただただ突っ立って壁を登っていく2人を見ていた。すると2人は、本当に上に登り切ってしまった。赤井はそこから勝ち誇った顔で、俺達を見下ろした。まるで天上にいる神が、地上の人々に目をやるように。
「まさか、本当に登りきってしまうなんてな。驚きだ」
「これから更に冒険になるぞ。いいのか?」
「いいって?」
「本当に登ってこないんだな? 別にそこで待っててもいいけどよ」
熊切、貝谷、辺染、ゴッスンと順に顔を合わせる。すると一番に辺染が前に出た。
「よっし、決めた!! 俺様のヘシミーチャンネル、登録者数を爆上げする為に前進するぜーー!!」
「ほ、本気か?」
「大丈夫、大丈夫。あんなデカい身体している赤井達だって、簡単に登ってみせたんだ。俺ならもっと簡単に登れるぜー。なあ、ゴッスン!」
「も、もちろんだ!! それより、ヘシミー、耳大丈夫か? それ、酷くないか?」
「なんだよ、やる気無くなる事いうなよ。大丈夫だって」
蝙蝠にやられたのは、片耳だったのでゴッスンが言うまでそれ程気にしていなかった。だが改めて見てみると、辺染の右耳がある箇所、ガーゼと包帯で応急処置した辺りは真っ赤に血で染まっていた。どう見ても、出血し続けている様子に見える。
「おら、行くぞお!!」
「熊切と貝谷さんは、どう思う?」
「そうだな。ここまで来たんだ。行くか」
「俺も行くよ」
「そうか。じゃあ、残るって言ったら俺一人になってしまうしな。選択肢は他に無いか」
辺染とゴッスンから上に登る流れになり、壁に張り付いた。すると上から何かが落ちて来た。丁度真下にいた2人が悲鳴をあげる。
「な、なんだなんだ!! ひいいい、なんか落ちてきた!!」
「なんだ、これ!! 蛇じゃねーのか!! うわああああ、蝙蝠の次は蛇だ!! 助けてくれええええ!!」
蛇の魔物!? 咄嗟に武器を構えた。直ぐに上の方から、赤井と籾井の笑い声が聞こえてくる。それで察した俺は、懐中電灯を照らして何が落ちてきたのかを確かめた。蛇と思ったものの、正体が判明する。
それは、赤井が下へ放ったロープだった。
「お、おいい!! ビビらせんな、赤井!! こら!! ロープじゃねーか!!」
「ぎゃっはっはっは!! そんなもんにビビッて馬鹿じゃねーの!! おら、その気があるんなら、早くそのロープ使って登ってこいよ!!」
赤井は、先に壁の上に登ると、そこでロープを巻き付けられる箇所を探し、それができると俺達のいる下までロープを放ってくれたのだった。
確かにこれがあれば、より安全に楽に壁を登る事は可能だ。やっぱり赤井と籾井は、俺達の案内をかってでてくれるだけあって大した奴らだ。




