Phase.559 『骨』
懐中電灯で、辺りを照らしながらゆっくりと前進する。先頭は、また赤井と籾井だった。
デカい蝙蝠に襲われてから、10分程進んだ所で行き止まりに当たった。赤井と籾井が唸りながら周りを見て回る。しかしいかんせん暗闇なので、辺りがどうなっているのかハッキリとしない。
辺染は、さっき蝙蝠に齧られた耳がかなり痛むのは、その場に座り込んでしまった。恐怖を感じているのか、寒さなのか解らないがゾクリとしたものを感じた。貝谷やゴッスンも一瞬身体をブルっと震わせていたのを見て、俺と同じだと思い少しは安心できた。
もしこんな真っ暗な洞窟に、俺一人で来ていたら絶対にもう不安と恐怖でどうにかなっていたに違いない。でもこれだけ仲間がいれば、どうにかこうにか心を保ってはいられる。
「熊切」
「なんだ、長瀬」
「俺達もちょっと辺りを見てみるか」
「おう、そうだな」
「それじゃ、とりあえず行き止まりの方には赤井達がいるから、俺達はこっちを調べてみるか」
貝谷の方に目を向けると、彼は不安そうな顔で懐中電灯を握りしめていた。
「貝谷さん、ちょっとあっち見てくるから」
「ああ、待っているよ。赤井さんの方で何かあったら、呼びかけるから」
「頼む。でも俺達も何かあったら叫ぶから、助けに来てくれよ」
「俺に助ける力があればいいけどな」
貝谷が笑ってそう言うと、俺も笑った。
熊谷と共に、暗闇を歩いて行く。皆からはあまり離れないように、意識をしておかないとな。
「おっと」
何かに蹴躓いた。足元を照らすと、石。他にもゴロゴロと辺りに転がっている。しゃがんで石を取ってみる。観察してみたが、何処にでもある石にしか見えない。
「どうした?」
「いや、なんだろうなって思って」
「石だろ?」
「そうだが、ちょっとな……」
熊切と3、4メートル程、距離をとり探索。天井を照らすと、まさに洞窟と言わんばかりの岩。鍾乳石というのか、つららのようになっている部分もあって、あれが急に落下してこないだろうなって心配になってしまった。そしてまた少し歩いて、足もとにゴロゴロと転がっている石を見つける。今度のも大きい。丸みもあった。
「なんだ、やけに綺麗な形をした石だな」
白っぽい石。他の石同様に手に取ってみる。そして反対側がどうなっているのかと思って、こちらに向けて見ていると俺は小さな悲鳴をあげてしまった。
「ひ、ひいっ!!」
「おい、どうした⁉」
出た声は小さかったが、普通に驚いているリアクションをとっている俺を見て、熊切は何かあったとこちらに寄ってきた。
「なんだ? 何かいやがったか?」
「いや、違う。熊切、ちょっとこれ見てくれ」
「……なんだ。これ……人骨か」
そう、俺が他に転がっている石と同様だと思って拾い上げたものは、人骨だった。人骨の頭部。つまり――
「しゃれこうべだな」
「異世界人のものかな?」
熊切の反応に、俺は不満を憶えた。
「おい、怖くないのか? 人の骨だぞ、それは」
「こいつがここで何かに殺されたのなら、それは怖いと思う。だが単にしゃれこうべを見て怖いっていうのなら、別だな。もうこの世界にも慣れてきた」
「慣れてきたって……」
確かに言われてそう思う。俺も確実に慣れてきているような感覚。
「そんで、これ。どう思う? 異世界人のか?」
「ふう……ちょっと貸してみてくれるか?」
熊切は、手に持っていたしゃれこうべを俺に返してくれた。最初に見つけた時、こいつは後頭部を向けていた。破損は見られない。顔面の方には、大きな破損がある。欠けているパーツ。残っている顎に指をかけて、壊れないように口を開かせる。何本か残っている歯。
「なるほど、見つけた」
「何が? 俺に説明してくれ」
「いや、こいつは異世界人じゃない。俺達と同じ、転移者だ。ここで死んだんだろう」
「なぜ解る?」
「ここを見ろ」
俺は熊切にしゃれこうべの口の中を見せた。
「銀歯。つまり、歯医者へ行って治療した後だよ。これで解った。もしかしたら、この世界にも同じような技術があったのなら、これで異世界人なのかどうか判別するのはアレだが、おそらくは俺達と同じ世界から来た人間で間違いないだろう。それでももっと確証を得たいなら、この治療している銀歯……詰め物だけ持ってもとの世界へ戻ればいい。なんせこっちの世界のものは、もとの世界へは持って帰れないと聞いたからな。詰め物を持って帰る事ができれば、その時点でこいつは転移者だったと結論付ける事ができるだろう。どうだ? 納得したか?」
「流石だな、長瀬。納得した」
「他にも何かあるかもしれない。探してみよう」
とりあえず気になったものは、調べてみる。この洞窟がゴブリンの巣で間違いがないのかどうか、もしそうならゴブリン共は何処にいるのか。それらは、赤井と籾井に完全に任せてしまっていた。
「おい、長瀬」
「なんだ?」
「また人骨だ。見てみろ。頭部以外のパーツもあるぞ」
熊切の指した場所を照らす。確かに人骨がある。そしてそこから奥の方へ照らすと、更に人骨のようなものがもっと散乱していた。
「お、おい、これ……」
「ああ、俺も長瀬、お前と同じ事を考えている。ここがゴブリン共の巣だとすると、奴らは人間を襲って、捕らえて……その後、ここまで連れてきて殺したりしているのかもしれんな」
「やっぱりお前もそう思うか。それなら、ここは奴らが殺した人間達を捨てる場所だ」




