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Phase.557 『ゴブリンの巣へ』



 洞窟の前までやってきていた。


 辺染の話から、もしかしたら入口に見張りのゴブリンがいるかもしれないと思ったが、見当たらない。


「うおおお、いいねえ! いいロケーションだぜ!! なあ、ゴッスン!!」

「うんうん、かなりいい!! 如何にもダンジョンって感じがするよな!!」


 辺染とゴッスンは、ゴブリンの巣かもしれない洞窟を見てかなり興奮していた。だがダンジョンと聞くと、確かに興奮してしまうものはある。


 暫く様子を見ていれば、洞窟からゴブリンが出入りするかもしれないと思って隠れて少し様子を見てみたが、特に動きはなかった。赤井が俺の隣に来て言った。


「これから突入するぞ。いいのか?」

「明日までにレベルを上げておく為には、多少の危険はやむを得んだろう。それに波多野さんの仇討ちだ」

「ああ、そうだ。じゃあ、俺と籾井が先に行くから、後からついてこい」

「解った」


 赤井は、熊切や貝谷、辺染とゴッスンにも向けて言った。そして籾井と一緒に、洞窟の方へと身を乗り出しかけた所で、何か思い出したようなリアクションで再度こちらへ振り返る。


「あっ、そうだ」

「な、なんだ?」

「お前らとは、これから一緒に戦う仲間だったな。だからこれを渡しておく。受け取れ」


 赤井はそう言って、俺と貝谷に剣を渡した。熊切は、何ももらえなくて少し不満そうな顔をすると、赤井が笑いながら「お前にはこれがあるだろ」と言って、熊切の持つ薪割り用の斧を指でさして笑った。


「おい、この剣って……」

「波多野と荻野の使っていた奴だ。しかも日本から持ってきた奴じゃねえぞ、この異世界で見つけたもんだ。これなら、魔物とだってやり合える。お前らにやるから、使え」

「いいのか?」


 波多野と荻野、つまり赤井と籾井にとっては仲間の形見になるんじゃないのか。そう思って、貝谷とどうすか当惑し顔を見合っていると「いいから使えよ」と籾井にも、背中を叩かれた。


「ゲームで登場する剣も、リアルで手に持てば、かなり重いからな。振り回されないように、気をつけて使え」

「ありがとう。それじゃ、遠慮なく使わせてもらうよ」


 っと言っても、金属バットも手放さない。邪魔になっている訳でもなし、このまま持っていてもいいだろう。2つ位、武器は持っていた方が安心できるしな。そう思って、貰った剣は早速腰に吊り下げた。手には金属バット。何かものものしい雰囲気。


「それじゃ準備はオーケーだな。俺と籾井から入る。その後に合図を出すから、そしたら続いて洞窟に入ってこい」

「解った」


 行動開始。まず赤井が、戦斧を手にしながら小走りで洞窟の方へと駆けた。そして中へ入って20秒程で、手招き。次は籾井が続いて中へ入る。俺達は、先に洞窟に入っていった2人の無事を祈る。貝谷は、自分でも知らず知らずのうちになのか、かなり身を乗り出して洞窟の中を確かめようとしていた。


「そんなに身を乗り出すと危ないんじゃないか。もう少し、草陰に入って身を隠した方がいい」

「え? ああ、すまん。赤井さん達、大丈夫かと思って」

「慣れているからだいじょ……」


 そこまで言って、言うのを止めた。波多野と荻野は、もういないのだ。ある程度経験を積んだ者でも、この異世界では一瞬にして死ぬ事がある。俺達も常に気を引き締めてかからないとな。


 洞窟からどちらかの手が見えた。手招きしている。俺達は、隠れて様子をみていた草陰から身を乗り出して、洞窟へと一気に駆けて行きその中へと突入した。


「おら、それじゃ、これからが本番だぞ。洞窟の中はどうなっているか解らねーからよ。くれぐれも気をつけろよ」


 赤井の言葉に、俺達全員頷いた。そして奥に目をやると、そこには真っ暗な闇が広がっていた。


 赤井と籾井を除く、俺達は言葉を失ってしまった。すると、赤井が俺の肩を叩いた。


「いてっ!」

「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」

「え? ああ。大丈夫だ。あまりに真っ暗だったから……」

「まあ、人間は暗闇に対して恐怖を感じるからな。でも大丈夫だ、お前らだって持っているだろ? 用意しろ」

「あ、ああ」


 俺達も持っているもの。暗闇に対抗できるもの。もちろんそれは、懐中電灯だった。赤井と籾井は、それに加えてランタンにも火を点けて、用意をする。俺は、気になった事を赤井に聞いた。


「おい、懐中電灯だけでいいんじゃないのか?」

「どうしてだ?」

「いや、だってゴブリンに見つかったらヤバくないか? 懐中電灯なら、直ぐにライトを消せるし」


 赤井は一瞬、キョトンした目で俺をみた。呟く。


「……お前、やっぱりなかなか頭いいな」

「へ?」

「確かに暗闇でランタンなんて光らせてりゃ、ゴブリンに見つかる。だけどよ、こんな真っ暗な洞窟、懐中電灯だけじゃ心もとねーだろ。心配しなくても、これにゴブリンがおびき出されてきたら、返り討ちにしてやるわ」


 赤井は豪快に笑って言った。そして先頭に行き、その次に籾井が続いた。俺達は、その後についた。


 実際に洞窟に入って思う。自分がこれまで生きてきた人生で、こんな場所に足を踏み入れた事など一度もないことに。


 身体が無意識に行く事を拒んでいるのか、固くなる。それでも前へ踏み出すと、洞窟内は外よりも少し寒くて、驚く程静かで、どうしようもない位に闇が広がっていた。

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