Phase.556 『短期間レベル上げ』
マッチャン、波多野に続いて荻野まで死んでしまった。崖から落ちたとか、落石にあったとか、そういうのではなかった。3人共、狂暴な魔物に殺された。
それで俺達は、もうこの異世界に徘徊している魔物の恐ろしさは十分と言っていいほど知った。恐怖をその身に刻みつけられた。ファンタジーもののテレビゲームで雑魚敵としてよく目にする、ゴブリンやコボルトもこの世界ではかなりの脅威だという事を理解した。
仲間を次々と失い、俺達は熊切、貝谷、赤井、籾井の5人になってしまった。辺染とゴッスンは、動画撮影の事ばかりで相手にならず、そのまま置いてきてしまって別行動になってしまった。
それでやっぱり2人の事が心配になり、少し戻ってみた。ここにいるんじゃないか。そう思って向かっていたが、そこに辿り着くまでに途中で見つける事ができた。
流石にこの世界に異世界初心者2人じゃ心細かったらしい。まあ、兎に角どうにかこれで生き残っている7人、再び合流する事ができた訳だ。
「さて、じゃあここからどうするか?」
「そんなもん、決まっているだろ!! 仇を討つ!! 波多野をやったゴブリンも、あの狒々もだ!!」
籾井の言葉に対して、噛みつくように赤井が言った。そして俺の方を振り返る。
「お前らだって賛成だろ? 目的は、明日の転移ができなくなるまでに、レベルを5にしてこの『異世界』へ残りたいんだもんな」
「そうだが……正確にいうと、俺達はこの世界に残るつもりだが、それまでに可能ならもう一度もとの世界へ戻りたいと思っている。こっちに残れば、暫く戻れないんだろ? なら食料や武器など色々と準備をしておきたい」
「なら、魔物を殺りに行こう!! これからどうするか、決まったな! 仇討ちだ。それまでに出会う魔物とは基本的に戦う。そうすりゃレベル5なんてあっという間だぜ」
この世界でレベル上げをする事が、どれ位の事なのかは、ハッキリと解らなかった。だがとても危険で命を賭けなくてはならないというのは、もう理解している。現にマッチャンだってそれ位の事を考えてこの世界に来たんだろうが……もう……
「陽が暮れたら大変だ。じゃあ、早速行動を開始しよう。赤井や籾井は、波多野さんを殺したゴブリンや狒々の居所がわかるか?」
「いや、解らねーな。だからこれからいそうな場所を、しらみつぶしに行く。いや、なに。探しているうちにきっと向こうから来るぜ」
「それはあるな。だが狒々が現れたら逃げよう。あれは、とても手におえない」
赤井と籾井は、意見が同じようだった。どっちみち、初心者の俺達は、ある程度この世界に慣れている赤井達に従った方が計画が上手く進むと思った。
しかしここで、辺染が何かに気づいて、ひきつった大きな声をあげる。
「ああああああ!!」
「な、なんだ? うるさいな」
「そういうや、そうだ!! 言うの忘れてたわーー」
「何が?」
「そういえばよ。俺達をおめーら置いて行きやがっただろ!!」
「はあ? それはお前達が望んだ事だろ」
「望んだーー? こんなジャングルに俺達だけ置いてって、その言い方は酷くないかー?」
「いいや、この際、はっきり言っておく。俺達は別に動画撮影もお前のヘシミーチャンネルとやらも全く興味がない。だからそれに付き合うつもりもないし、それで命を落とす事になったり、そうなりかけたりなんか絶対嫌だからな」
もう人が死んでいる。この際、ハッキリ言っておいた方がいい。そう思って、皆を代表するつもりで動画撮影の事しか考えてないこの二人に向かって、言ってやった。
すると流石に堪えたのか、口ごもる辺染。すると辺染はそっぽを向いて、呟くように言った。
「そういやよ。話は変わるんだけどよ」
「はあ?」
「俺とゴッスンだけじゃ、流石にヤベーじゃん?」
「だからそれはお前が……」
「解ったから、聞けって!! まあ聞けよ、落ち着けって! カッカすんなよな。俺が言いたいのは、そこじゃねーんだから」
「はあ?」
「流石にやべー訳よ。確かに動画撮影、動画投稿、俺が作った最強のコンテンツ、ヘシミーチャンネルのことばかり俺は考えているさ。でもよー、それを今以上に成功させて盛り立てる為にはこの異世界経験は絶対必要な訳よ」
「やっぱり、その話じゃないか」
「だから聞けって。焦んなって! だからなんというか、俺も出来る限りは協力するつもりでいるからよー、協力というか教えてやってもいいんだけどよーーう!!」
熊切、赤井が明らかに辺染に対してイラついているように見える。
「さっきお前らの後を追って、合流できたわけなんだけど……その時に俺達、見たのよ!」
「見たって何を?」
「おい、ゴッスン。ここカメラ回せ。盛り上がる所だから」
「へいへい」
「おい、喋る気があるなら……」
「解ってまんがなーーってな!! よし、カメラスタンバイ、オケ!! よし、行くぞ、ゴホン!! 実は洞窟を見たんだ!!」
「洞窟、それがどうした?」
傍で話を聞いていた籾井が返した。すると辺染はニタリといやらしく笑い……
「俺達、なんか嫌な気配を感じて傍の草場に隠れて様子をみてみたんだけどよ。するとどうだ? 何匹ものゴブリンが、その洞窟から出てきやがったのよ。あれ、間違いなくゴブリンの巣だぜ。そうだよな、赤井ちゃん」
全員の視線が赤井に向いた。
「そうだ。実際見てみねーと解らねーが、洞窟にゴブリンが出入りしているなら、そこは巣の可能性が極めて高いな。どうだ、籾井?」
「ああ、どっちにしても行かない手はないな。巣ならレベル上げにはもってこいだ。運が良けりゃ、波多野をやった奴がいるかもしれない」
辺染の見たというゴブリンの巣。俺達は満場一致で、レベル上げ目的と、もしかすれば波多野の仇討ちをできるかもしれないと、これからそこへ向かう事となった。




