284話 G・S・C
『G・S・C? なんだそれは。そもそも、この期に及んでそんな銃で私に勝てるとでも?』
「さぁ……どうだろうな」
『舐めるなよ。では、もう一度その腕切り落としてくれる』
ズラリとシグマを取り囲むように出現するエギルの分身たち。
シグマのセンサーはすべてを実体として捉えている。
実際、目視においてもその差異を捉える事は不可能。
だが、確実にこの中に本物のエギルが紛れているのだ。
もし、この全てのエギルが一斉に襲い掛かってきたとしたら、避ける事は困難だろう。
だったら、避けなければいい。
「超加速」
『!!』
エギルの視覚は、一瞬だけではあるがシグマの腕が何十にも増えたと錯覚した。
その増えたすべての銃が、同時に火を噴く。
放たれた銃弾は、四方八方をに存在するすべてのエギルの分身に向かい、その肉体に命中する。
そう、錯覚だ。
シグマはその場で一歩も動かずに超加速を発動し、腕だけを動かしたのだ。
超加速中は攻撃を仕掛けることは出来ない。
だが、加速が終わった直後に引き金を引くだけなら可能。
それを0.5秒の間に15回。
出現した全てのエギルに銃弾は命中し、本体を除いた全ての分身は弾が当たった衝撃で消えていった。
残ったのは、バリアを展開して銃弾を防いだ本体のみ。
エギルはバリアに受けた威力を即座に計算し、チラリと足元に転がるバリアによって弾かれて落とされた弾丸に視線を向ける。
流石に手に取るのは隙が大きすぎる。
(鉛の弾ではない。命中した途端にまるで打撃のような重い衝撃が加わるような細工がされた特殊な弾丸だ)
それもただの打撃ではない。
アーマードスーツで全力で殴りつけたかのような破壊力を持つだろう。
だからと言って、数発当たった所で問題はない。
エギルはそう判断し、バリアを解いて接近戦を挑もうとした。
その矢先、接近しようとしたエギルに向けられたのは、数千発の衝撃弾の豪雨である。
先ほどの幻影に対処するべく使用した全周囲銃撃が正面のエギルに対してのみ使用されたのだ。
その破壊力は先ほどの比ではない。
『……ぐっ!!』
それでもエギルは衝撃弾の雨を浴びながらもシグマに接近し、剣……《高周波ブレード》を振り下ろそうとした。
『!?』
振り下ろした剣はシグマの超加速によって回避される。
そして、気づけば目の前に銃口が存在していた。
この銃弾……スーツに覆われていない部位、つまり顔面に当たるのはマズい。
顔全体を半透明のフェイスシールドが覆う。直後に弾丸が放たれるが、やはり貫通することはない。
だがフェイスシールドはあくまでも補助的な装備。衝撃吸収能力は無く、エギルの頭部は強烈なパンチを受けたかのように後ろへ仰け反った。
尤も、本来であれば頭そのものが吹き飛びかねない力だ。首が飛ばなかったのは、身体の素体がアンドロイドボディであるが故だろう。
(チィッ、舐めるな!)
仰け反った体勢のまま、エギルは《高周波ブレード》を横一文字に振るう。
そのままであれば刀身はシグマの身体を両断していただろうが、その剣の軌道はシグマより放たれた銃弾によって逸らされる。
(銃撃で防御もこなすだと!?)
とは言え、それはただの曲芸という訳でもない。
《高周波ブレード》は超振動によって物体を切断する剣。つまり、同じ剣や盾で防ごうものなら受け止められずに両断されてしまう。
衝撃弾によって防ぐというのは、理にかなった防御策であった。
シグマは銃弾を放ちつつも後ろへ飛び、エギルと距離を取り、またしばしの睨み合いの時間が生まれる。
だからと言って、シグマ相手に時間を与えるのはマズい。シグマの銃から放たれるのは実弾……つまり補充が必要な武器という事だ。
だとするならば、距離を開けたのはそのリロードをする時間を作るという事。
『させんッ!』
エギルは《高周波ブレード》を地面に突き刺すと、また新たな剣を自身のアイテムボックスから取り出す。
見た目は鍔部分に特殊な装飾が組み込まれた西洋風の剣。
エギルが宙に向かって剣を振るうと、刀身に纏っていた光が刃の形となって飛び出したのだ。
《フォトンセイバー》……構造的にはレイジの持つ《フォトンエッジ》と同様の物。つまり、刀身に光の粒子を発生させ、それを刃状にして放つことが出来る。
実態を持たない為、先程のように衝撃弾で斬撃の軌道を逸らす事は不可能。よって、シグマは超加速によって回避を選ばざるを得なかった。
だが、エギル自身もシグマより放たれる銃弾によって光の刃の連発は出来なかった。
あの男、実にうまいタイミングで銃弾を放ち、剣そのものを振るえないようにしているのだ。
攻撃そのものを防がれるというのがエギルにとっては初めての事であり、実に腹立たしいものだった。
もういっその事、《レーザーソード》を取り出して、最大出力でこの足場としている戦艦ごと薙ぎ払ってしまおうかと考えていた時―――
『!?』
危機察知機能が働き、咄嗟に側面を向く。
その顔面に向けて、銃弾が撃ち込まれた。
幸い先程から展開していたフェイスシールドによって顔面そのものは守られていた為、直撃は受けなかった。だがもし、そのまま正面を向き続けていたらフェイスシールドに覆われていない側頭部に銃弾が撃ち込まれていただろう。
(馬鹿な! 前面はバリアによって防いだはずだ。どうやって……!!)
更に気付く。
フェイスシールドに命中した弾丸は、それまでの衝撃弾に使われた銃弾とは違っていた。
まるでドリルのように螺旋状に加工が施された……まるで貫通を主目的として製造された銃弾。
正面に対峙するシグマに視線を戻す。
更にそのシグマが持つ武装をよく見る。
奇妙な武器だとは思っていた。
銃身と銃口が上下に二つ存在する事に何の意味があるのかと。
(……二種類の銃弾……奴の武器には二種類の銃口……なるほど、そういう事か)
シグマの持つ銃。
その上下二つの銃口からは、されざれ別の銃弾が装填されているのだ。
一つは、命中すると衝撃を与える弾。
もう一つは、破壊力よりも貫通する事を優先させた弾。
今までは、もう一つの貫通弾は使用せず、衝撃弾のみを使用して、弾丸が一種類だけであると錯覚させていたのか。
更に、バリアを避けてエギルの顔面に命中させた秘密は……
(―――跳弾)
二つの銃弾を僅かな時間差でぶつかり合うように調整し、銃弾の軌道そのものをズラしたというのか……。
正にコンピューターのような正確無比の射撃技術が無ければ出来ない芸当だぞ。
実際、シグマは正面に向けた銃弾の中で、数発わざと大きく外して撃っていた。その銃弾はバリアに命中することなくエギルの後方へ飛んでいく筈だった。
しかし、ほぼ同時に放たれた別の銃弾と空中でぶつかり合い、エギルの側頭部に命中するように調整されていたのだ。
「理屈は分かったか?」
『何?』
「という訳だから、続きをするぜ」
つまり、シグマは全方位から狙い撃つことが出来るという事だ。
バリアガントレットはあくまでも盾のように前面に展開する事しか出来ない。
これからは正面以外の銃弾にも注意せねばならないという事だ。
更に、エギルは別の問題にも気づいた。
この戦いが始まってから、シグマは一度も銃弾を再装填していないという事に。
(あり得ない。これは実体のある弾丸だ。奴の持つ銃は大型であるものの、一度に20発分ほどしか装填は出来ない筈。それが二挺。……明らかにこの戦いでは100発近い弾丸は使用されている筈。奴はどうやって再装填を……?)
やがて気付く。
シグマの持つ銃。グリップに対して上下に二つの銃身がある。
ハンドガンタイプの銃はグリップの底部より新たな銃弾の入った弾倉を装填することが多い。
この銃の場合はそれが出来ない。
つまり、銃弾の装填はグリップ底部以外の場所で行うという事だ。
『……なるほど。その腕そのものが弾倉という事か』
あの武装を取り出した際、シグマは両腕そのものを取り換えた。
つまり、正確には腕全体を含めてシグマの新たな武器という事だ。
なまじグリップを握る手が形として存在しているから騙されたが、あれはあくまで引き金を引くためのパーツであり、銃そのものを取り外すことは出来無いのだろう。
銃弾は腕そのものに組み込まれており、あと何発撃てるかなんて計測することは不可能だ。
『……なるほど、理解した』
それが奴の言うG・S・Cか。
なかなかに厄介だな。
戦いは再開される。
シグマは距離を保ちながら銃撃を行い、エギルは光刃を飛ばしながら接近戦に持ち込もうとする。だがそのたびに跳弾によって急所を狙われるため、距離を詰め切れない。
そんな戦いが数分間続き、エギルは苛立ちを隠せなくなる。
攻撃は大振りになり、跳弾によって体に弾が命中する頻度も多くなってくる。当然スーツによって守られた部位のみの命中であるが、防ぎきれないという事実がエギルを追い詰めていた。
それでも、自尊心だけはまだ保たれている。
いくら弾が当たろうと、急所さえ防げばこんなものはただの小石の礫に過ぎない。
つまりは、この銃撃のテクニックすらもただの曲芸どまりだという事だ。
『いくら貴様の命中精度が優れていようと、アーマードスーツの装甲は破れやしない』
戦いの最中、そんな言葉で挑発する。
アーマードスーツは、筋力増強以外にも耐衝撃、耐圧力、あらゆる攻撃において優位性を発揮するスーツだ。
当然防弾機能も優れており、並大抵の銃弾であれば受けた事すら感じさせない。
その筈なのに……
『!!』
シグマの放つ銃弾が、エギルの左胸を貫いていた。
想定していなかった衝撃に、エギルの身体は後ろへ吹き飛び、無様に床を転げる結果となる。
初めて味わう痛みよりも、エギルはあり得ない現実に動揺を隠せなかった。
(―――貫いただと? アーマードスーツの装甲をただの銃弾が貫いたというのか)
「急所を射抜いたんだがな……。どうも心臓は別の場所のようだ」
シグマの呟きがエギルに届く。
ならば、次に狙われる急所は―――
『!!』
斜め上より、頭部目がけて放たれた弾丸をエギルは咄嗟に腕を盾にして防ぐ。
またしても、放たれた銃弾はアーマードスーツを貫き、エギルの右腕に風穴を開ける。
アンドロイドボディを使用しているので、血が流れるわけではない。
だからと言って、装甲が破られたという事実は間違いではない。
しかし、エギルは決して見逃さなかった。
アーマードスーツを貫いた、その手法。
最初に命中したのは、ドリルのように螺旋状に加工された貫通弾である。
当然それだけでは装甲を貫くのは不可能。
すると、まるでそれを押し込むように貫通弾に衝撃弾が命中したのだ。
それでも、その一発だけではアーマードスーツの装甲は破れない。
破れはしないのだが、その命中した箇所に、何度も……何度も連続して同じことが起きれば話は違う。
スーツの耐衝撃機能は次第に崩され、やがて雨の雫が石に穴を穿つかのように、装甲は射抜かれた。
もし、これを何度も繰り返されたら?
いや……同じ事を頭部にやられた時点で、戦いの決着はつくだろう。
プツン
エギルの中の、何かがブチ切れた。
負ける?
このエギルが負けるだと?
相手は異世界のサイボーグだとは言え、数世代も前のロートルに!?
あり得ない。
あってはならない事だ!!
『があぁぁぁぁぁッ!!!』
知らず知らずのうちなエギルは吠えていた。
そして、本人の知らない……アーマードスーツに隠されていたその機能が発動する。
《アーマードスーツ……オーバーリミット》
ボンッという音と共に、エギルのスーツの人工筋肉が膨れ上がる。
スーツの筋肉は限界まで膨れ上がり、全身に走っていた青いラインは真紅に染まっていて、関節部からは排熱しきれない熱が蒸気となって立ち上っている。
オーバーリミットモード。
過去に二度、レイジが発動させてしまったアーマードスーツの裏技的機能である。
スーツのパワー増強を限界を超えて引き出すことが出来る。その代わりにエネルギーも消耗も激しく、一度使えば数時間は機能のほとんどが停止するという、正に諸刃の剣だ。
『ガアッ!!!』
エギルはまる理性を失ったかのようにシグマに最接近する。
そのスピードたるや一瞬であり、超加速と変わらないレベルのスピードであった。
故にシグマは反応することが出来ず、超加速も間に合わないままにエギルの接近を許してしまった。
「クッ!!」
咄嗟に迎え撃とうとするも、今のエギルのスピードには敵わない。
剣が一閃される。
果たしてそれは、エギルが自分の意思でやった事だったのかどうか……。
確かめるすべがないままに、シグマの頭部は胴体と切り離されていた。
「……無念」
その言葉を最後に漏らし、シグマの首はポトンと甲板の上に落ちる。
シグマVS聖騎士エギル………決着。
今回の戦いを書くにあたり、自分の漫画棚にあるガン・アクション系漫画を色々引っ張り出す。
長らく読んでいない漫画だったこともあって、久々に読み耽ったり……。やっぱ面白いわぁ。
果たして、シグマはここで退場なのか……その結果は次回にて。




