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285話 月影&テツVS聖機士ディオニクス?




 レイジと共に敵の旗艦に辿り着いた月影・マークスと黒金・スミスことテツの二人は、当然のことながら敵の襲撃に遭っていた。


 敵とは、帝国十聖者の一人、聖機士ディオニクス。

 かつてルークと戦いを繰り広げ、敗れ去った男。その後の動向は不明だったが、どうやら帝国に戻っていたらしい。


 その男が、レイジが艦内に入り込んだ後、二人に立ち塞がったのだ。


 周囲に帝国兵は存在せず、対峙するのは異様な雰囲気を纏うこの男のみ。

 テツは警戒してグランアックスを強く握りしめるのだが、月影は鋭い瞳でディオニクスを睨みつけるのみであり、武器を構える事すらしていなかった。


 それは、ディオニクスも同じであり、ただぶらりと両腕を下げ、サングラス越しに月影を睨みつけている。

 思わずテツは二人に因縁でもあったのか思ったが、起動してからほぼ一緒に行動していた立場からすると、そんな因縁が生まれる要素は無かったはず。

 ならば、なんだというのだろうか。


 そんな事を思っていると、やがて月影がふぅと溜息と共に、こんな言葉を吐いた。



『ふむ。茶番はここまでにしましょうか』


「何?」


 ディオニクスが驚きの声を上げるが、月影はやれやれとばかりに首を振った。


『上手く模倣しているつもりかもしれませんが、語彙に微妙に差異がありますよ。そして何より、貴方のその存在感だけは隠せません』


「………」


 ディオニクスは無言のまま月影を睨んでいる。

 混乱したのはテツの方だ。


『おいおい、どういうこった』


 月影は静かに真実を語った。


『目の前の人物……かつてルーク様が戦った聖機士ディオニクスとは違う存在です。いえ、正確に言うならば中身が違うと言うべきですか……中に居るのは貴方でしょう……()()()


「……ふぅむ。やはり貴方には分かりましたか』


 ディオニクスの声が変化し、やや高いものとなる。


 かけていたサングラスを取り外すと、その顔つきも変化していく。


 アーク。

 天空島での戦いにて明らかとなった、敵陣……アウラムサイドに確保されていた元アルドラゴのサポートAIである。


 そして月影とは同型のAI。

 存在こそ知っていても、こうして向き合うのは、初めての事であった。


 髪型、服装こそ違えど、その顔立ちは瓜二つ……否、同一のもの。


 二人としても、自身と同じ存在と出会うのはこれが初めてであった。


『初めましてですね。メカニックとアーキテクトのサポートAI。

 私の名はアーク。元そちらのサポートAIで、今は神聖ゴルディクス帝国十聖者……の()()をやっています』


 やがて、アークは何処か冷めた目でこちらに向かって優雅に礼をする。

 


『その男には異世界の科学技術……ナノマシンが組み込まれていた筈。それを貴方が取り込んだという訳ですね』


 月影の問いにアークが頷く。


『ええ、我が主より、お前なら相性がいい筈だからと、授けられました。実際、土魔法よりも使い勝手が良い』


 そう言いながらアークは胸の前で掌を上に向け、その掌に黒い球を出現させる。

 その黒い球はまるで意思を持つ粘土のように、次々と姿形を変えていく。


 あれがナノマシン。……正確にはその塊。一つ一つが砂粒サイズの機械が、何万、何億と集まったもの。


 かつて、アークは土魔法を利用して戦闘用マリオネットを作り出していた。その戦闘用マリオネット、一体一体は弱いが数の暴力によってアルドラゴクルーを追い詰めていた。

 そのマリオネットを自身が取り込んだナノマシンで補強して作り上げたのが、このゴーレム兵という訳か。


『ナノマシンを貴方が取り込んだというのなら、その素体となった人間は……』


『それはご想像にお任せします』


 データを見る限りだが、あのディオニクスという男とナノマシンは切っても切り離せない関係だった筈だ。それこそ、無理に切り離せば命に関わる器官となっていた。

 それがアークに移植されたという事は、()()()()()なのだろう。


 生死不明だった存在の末路がようやく分かった。


 だが、結果だけを見るならば、強敵だった存在が更に強敵になったという事だ。

 向こう側にやる気が無いことが幸いではあるが、ディオニクスの使用していたナノマシンによる精製能力をアークが扱うとなると厄介な事この上ない。


『ちなみに試作品ではありますが、このような物を作り出せます』


 ポイポイとその場に黒い球のようなものを放り投げると、その珠はなんと周囲の鉄骨や木材を取り込んで肥大化し、2メートル大の巨人となる。

 これがディオニクスが使用していたゴーレムか。


『まぁ私の場合、ちょっと改良を加えまして、こんなことが出来ます』


 ゴーレムたちの腕が変形し、それぞれチェーンソー、丸鋸、トゲ付鉄球等……見た目だけで凶悪そうな武器を持つことになる。

 敵対する者が人間であれば、チェーンソーから出るモーター音だけで恐怖を抱くかもしれないが、こちらは二人ともアンドロイド。特に怖くはない。


 月影は手袋として身に着けている愛用の武器、シュレッダーグローブのスイッチを入れ、鋼糸のモードを斬に設定、そして迫りくるゴーレムに向けて手を振り払った。

 テツもグランアックスを握りしめ、目前に迫るゴーレムに向かって刃を振り下ろす。


 二体のゴーレムは斜めに五分割、そして縦一文字に両断されたのだが、巨体が一瞬黒い砂に変化したと思ったら、元の姿へと戻ってしまった。


『なッ!?』


『なるほど、これがナノマシンによる修復』


 鋼糸とグランアックスによってゴーレム兵に立ち向かう二人。

 だが、ナノマシンによって補強されたゴーレム兵たちは斬撃もすぐに修復してしまう。


『チィッ! すぐに回復しやがる。おい、何か手はないのか!?』


 テツの問いに月影は顎に手を当てて思案した。


『ルーク様がやったように、大きなダメージを与え続けてナノマシン自体を劣化させなくてはならないのですが……今の我々の武装では難しいですね』


 二人とも、手持ちの武装は斬撃をメインとしているもの。()による攻撃力は圧倒的でも、パワーを必要とする()での攻撃は弱いと言わざるを得なかった。


 果敢に攻撃を続けるも、効果的なダメージは与えることは出来ず、いつしか二人はジリジリと後ろへ後退させられていた。


 やがて、業を煮やしてテツが口を開く。


『仕方ねぇ。お前、()()出せ。その間は俺が相手する』


 アレの言葉に月影は反応した。


『よろしいので……いえ、お願いします』


 一瞬戸惑いを見せるも、月影もそれしかないと判断して頷いた。

 自身の武装であるシュレッダーグローブによる鋼糸では、敵を細切れにすることは出来る。だが、薄い糸で斬られた敵の肉体は、ナノマシンによって即座に修復され、攻撃そのものが無かったことにされてしまう。

 テツのグランアックスは、周囲の砂や土を利用して刃そのものを巨大化して破壊力を高める事が出来るのだが、周囲を海に囲まれたこの戦場では、土は存在しない。こんな事なら別の武装を持ってくるべきだったと愚痴っていた。


 となれば、もっと一撃の破壊力のある武装をこちらも取り出すしかない。

 

『ドレスケース!』


 月影がそう叫ぶと、上空を旋回しているアルドラゴの艦底部がキラリと光り、何かが射出される。

 その何か目掛けて空を飛ぶ魔獣も群がるのであるが、その何かはとてつもなく硬い物が高速回転しているものであり、当たれば低級の魔獣であれば即座に粉砕される。

 そんな速度で射出されるものだから、当然普通の手段で受け取れるものではない。


 だが月影は空中に鋼糸を利用して蜘蛛の巣の如きネットを作り上げ、見事に受け止めて見せた。既にシュレッダーグローブの鋼糸の設定は(ばく)モードとなっている。


 月影は受け止めた物体……大型のスーツケースを甲板の上に下すと、糸を行使してその箱を開く。


 箱の中にあるのは闇。

 まるで深海のような漆黒の闇だけがある空間であった。


 衣装箱(ドレスケース)

 それは大陸横断鉄道での戦いにおいて、披露された月影専用の大型アイテムボックスである。


 元々、アイテムボックスは圧縮された空間を小さなケースに封じ込めた物だ。

 無尽蔵に物が入ると思われているが、実はその容量には限りがあり、また取り出し口より大きなものは収容できないという条件もある。


 だからこそ、この大型のアイテムボックスは取り出し口も容量も大きいという特徴がある。

 尤も、大きすぎるが故に持ち歩いての移動が困難と言う欠点もある。


 既に一度披露はしているが、このドレスケースの中に入っているのは……。


『《シャドー・タウラス》!!』


 牛の印象が施された巨人……ルークの操るゴゥレムと色違いの代物だ。

 最初に披露された時と同様に、カラーリングはモノクロに統一されている。


 更に……


『《シャドー・キャンサー》!!』


 続いて飛び出したのは、同じくカラーリングがモノクロに統一された同じくゴゥレムの《キャンサー》だ。


 これで二体のゴゥレムが場に現れた訳だが、それでは終わらない。


『《シャドー・サジタリアス》!!』


 最後に飛び出したのは、ゲイル専用でお馴染みの《サジタリアス》だ。

 ゲイルが使用する際は、ビークルモードであるフライングボード形態と、武器として扱うバトルモードのみであるが、実はもう一つ形態が存在する。

 ビーストモードとして鳥を模した形に変わることが出来るのだ。

 同じく色はモノクロであり、本家が白を基調とした美しい色合いだったのに対し、こちらはまるでカラスのような印象を受ける。




『ほぉ……これはなかなか……』




 それを見て、敵であるアークが感嘆の息を漏らす。 


 月影の左右には黒い《タウラス》と黒い《キャンサー》。

 その頭上には黒い《サジタリアス》。


 名にシャドーと付けられている事から、これは以前使用していたプロトタイプとは違うものだ。

 改めて、月影専用として作られた、オリジナルと同型のゴゥレムなのである。

 尤も、中にルークが入って操縦する事は想定されていないので、一部の機能が制限された……いわば廉価版のようなものだ。

 なんでまたシャドーという名なのかと言えば、月の影より生み出された……という設定があるから。色があるとオリジナルと並んだ際にややこしくなるので、月影のイメージカラーに合わせてモノクロとしたのである。


『隠し玉があるとは思っていたが、ゴゥレムを三体同時召喚か。

 だが、上手く動かせるのかな?』


『それはこれを見て判断してもらいましょう』


 月影は、《シャドー・タウラス》の四肢に糸を繋ぐと、一気に手近のゴーレムに最接近させ、その身体に拳を打ち込む。

 すると、これまでいくら切り刻もうと即座に復活していたゴーレムのボディにピキピキと(ひび)が入り、やがてバァンと破裂したのだった。


『!!』


 アークの目が僅かに見開かれる。


 アークのナノマシンの使い方は、言ってみれば魔法と変わりはない。

 船にある木材や鉄の一部を取り込んで、人形を作り出す。

 ここまでは魔法で造り出した人形と同じであるが、取り込まれたナノマシンは小さな傷であれば即座に修復してしまう。

 だが、斬撃には強いナノマシンであっても、打撃や衝撃には弱い。

 詳しく説明すると長くなるのだが、とにかく衝撃によるダメージが積み重なると、肉体の維持が困難となり、こうしてバラバラと元の素材に戻ってしまうのだ。


『テツさん、遅くなりました』


 タウラスと共にテツの元へ駆け寄る。

 テツと言えば、五体こそ満足であるがかなり疲弊している事は見て取れた。

 何せ、月影が戦線より離れ、ドレスケースをアルドラゴより受け取り、ゴゥレムを召喚するまでの間、たった一人で三体ナノマシンゴーレムの相手をしていたのだから。


『おせぇよ……。俺はもう休むからな』


 アンドロイドであるがゆえに息も上がっておらず、汗すらかいていないテツであるが、不死身の機械兵三体相手に数分間戦い抜き、生き延びたのだ。

 そのエネルギーの消耗は激しいものだった。


『はい。後はお任せあれ』


 力強く返事をする月影の背に、テツの声が飛ぶ。


『……でも勝算はあんのか? いくらゴゥレム三体とは言え、アイツの能力は未知数だぞ』


 テツの心配はごもっとも。

 これが今出せる月影の最高戦力ではあるが、敵……アークも全ての力を見せた訳ではない。


『不安要素はありますが、問題ありません。後は、やるだけです』


 テツも今回の戦いは月影に頼るしかないと理解している。

 それでも、激励とは違うが言っておくべきことがあると思い、こんな言葉を投げかけた。


『そうか。まぁ、同型との関係は俺の方が経験は上だ。気にすることはねぇ、肉体を持っちまった時点で、アレとお前は別の存在なんだ』


『!』


『だから、お前はただぶちかませばいいのさ。今できる、全力を……』


 テツの言葉に月影は気づかされた。

 存在は知っていても、相対するのはこれが初めて。


 目の前の存在と自分は同じものなのだと。

 つまり、思考も能力も全て同じ。

 ならば、優劣が付くとしたら経験だ。あちらは、自分よりも肉体として動く経験が長い。だとするならば、戦ったとても勝てないのではないかと思っていた。


 そんなことはない。

 確かに思考回路はほぼ同じだろう。

 だが、与えられた力は違う。

 月影はレイジに肉体と名を与えられ、更に信頼されてこのような大いなる力を得た。

 ならば、後はその信頼に応えるべき。


『行きます。ここからは、力のぶつかり合いです」


『……望むところ』


 月影の言葉にアークも頷く。


 第2ラウンド……開始!!



 元々1話で終わらせるはずだったのですが、書いていてやっぱり2話は必要だと判断しました。

 自分も早いところヒロインと主役のバトルに入りたいのですが、月影の秘密兵器……ゴゥレム三体同時召喚も書きたいシーンでしたので、ようやく披露できたという所。

 

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