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その日、フェリシティは友人のキャサリンと一緒に小さなカフェに来ていた。
ここはローガンと行ったカフェとは違って入っている客は少なく、静かな時間が流れているようなカフェだ。個人的にはこういうカフェの方がフェリシティは好きだ。きっと誰もが居心地の良さに口をつぐみ、多くの人に知られたくないと話題にならないようにそっと配慮をしているのだと思う。
実際に、フェリシティはここで何度か社交界でも有名な夫人や色男と名高い男性が一人で静かに紅茶を飲んでいる姿を見かけたことがある。いつも連れている取り巻きは誰一人としておらず、本当にただゆっくりと紅茶を飲んでいただけだった。
店内にいる者たちも、誰一人彼らに声をかけることもなく、お互い知らない振りをしていた。
別におしゃべりが禁止なわけではないが、フェリシティたちはいつも声を少し落ち着いた感じにしてしゃべっている。
おかげで誰からも睨まれたことなどない。
「ローガン様は、またフェリのことを放ってどこかに行かれたの?」
「えぇ。近くの湖まで遊びに行くそうよ。近くにご友人の別荘があって、そちらに泊まってくるって言ってたわ」
「え?……フェリ、確認なんだけど、ローガン様が向かったのは、王都近くの湖なのよね?」
「え、えぇ、そうよ」
キャサリンが驚いたように声を出して、フェリシティのことを見ていた。
「あの、あのね。実はこの間小耳に挟んだんだけど、ローガン様たちの中に女性が一人交じっているみたいなの」
「え?」
驚いたフェリシティに、キャサリンは少し気まずそうな顔をした。
「フェリに言おうかどうか迷ったのだけど、その女性、ブリジット・サンザス様が、今度、近くの湖に別荘を持っている友人がいて、皆で出かけるって言っているのを聞いてしまって……」
「……そう……教えてくれてありがとう。キャサリンも迷ったでしょう?」
フェリシティは精一杯の笑顔でキャサリンに礼を言った。
「ごめんなさい、フェリ」
「どうしてキャサリンが謝るの?むしろ教えてくれなかったら、ローガン様に何か言われた時に、動揺してしまうだけだったわ」
「フェリ……」
「きっとブリジット嬢のことを聞いても、あくまでも友人同士だと主張するわよね。でも、複数の男性と一緒に同じ別荘に泊まる女性、しかも誰かの婚約者でも何でもなくて相手があのブリジット嬢なら、怪しむなっていう方が無理よね」
ブリジット・サンザス男爵令嬢は、有名な女性だ。
概ね悪い方向で。
本人曰く、『悪気のない言葉と行動』で男性と親しくなり、婚約破棄騒動に発展したこともある男性が守りたくなるような女性、という立ち位置にいる。
フェリシティは話をしたことはないけれど、何度かそういう場面に遭遇したことはある。
男性は彼女を守りたくなるのだろうが、女性から見るとわざとらしすぎて呆れるほど演技が下手だと思う。けれど女性がそう言ったところで、同性の僻みだと捉える男性が多すぎて、最近では彼女が男性と一緒にいると女性たちは近寄らないようにしているくらいだ。
彼女の魅力とやらにはまらなかった良識ある男性や、何らかの理由で目が覚めた男性たちも、巻き込まれないように遠巻きで見ている。
正直、フェリシティが苦手とする女性ではある。
ローガンは今までそういう話がなかっただけに、いつの間にブリジットと親しくなったのか、フェリシティには見当が付かなかった。
ただ、彼女が関わると問題が起こることだけは確実だった。
フェリシティはぎゅっと両手を握りしめた。
「……キャサリン、私、ローガン様が分からないわ…。ブリジット嬢のことを知っていて一緒に行動しているのか、それとも他の方たちのように、彼女は何も悪くないって言うのかしら……」
「ブリジット嬢に対する男性の評価は、真っ二つに分かれているわ。彼女も、自分を否定する方とは一緒にいないわ」
「……そうね」
それはつまり、ローガンがブリジット・サンザスという女性を容認しているということ。
彼女のことを信じているということ。
「怖いわ。でも、私、ローガン様に聞かないと……」
答え次第では、父母と相談しなければならない。
ブリジット嬢の近くにいると、きっと近い将来何かしらに巻き込まれる。
その時になって、慌ててローガンに聞いても遅いのだ。
フェリシティとて貴族の娘。
家を守るために、時には決断しなければならない時もある。
仲の悪い家族ならともかく、フェリシティを愛しんでくれている家族まで巻き込むような事態は避けなければ。
「……聞くわ、絶対に」
自分に言い聞かせるように、フェリシティは呟いたのだった。




