⑤
読んでいただいてありがとうございます。
ローガンとカフェに行っても、話すことはいつもと変わらなかった。
最近、読んだ本やローガンの友人の話を静かに聞いて、ちょっとした感想を言う。
ローガンが一方的に話してフェリシティがただ聞いているだけだが、穏やかな時間ではある。
今回はそこに、このカフェの内装や紅茶の種類の多さ、ケーキの味などについて少し話をした。
一通り中を見て満足したのか、帰る頃にはローガンの機嫌は良くなり、フェリシティも美味しい紅茶を飲めてそれなりに満足した。
ただ少し気になったのが、カフェは婚約者と来る場所というよりは、女性が友人と、もしくは一人で来られるような場所、という感じを受けたことだ。
実際、婚約者と来ているのは少数で、店内のほとんどは女性ばかりだった。
友人たちとおしゃべりに興じている女性たちもいれば、一人で静かに本を読んでいる女性もいた。
チラリと隣に座っていた人たちの話も聞こえたが、女性限定、とまでは言わないが、女性が気兼ねなく過ごせるようなカフェだと言っていた。
そんな場所に来る友人たちというのに少し引っかかりを受けたが、ローガンは女性が多いことを全く気にしていないようだった。
帰りは、ローガンが家まで送ると言ってくれたが、フェリシティは散歩をして帰るからと言って断り、いつもの公園のいつものベンチに座って池を眺めていた。
「おや、今日はため息を吐いていないんだね」
「まぁ、レイモンド様」
穏やかに微笑むレイモンドがやって来て、前回と同じように隣のベンチに座った。
「しまったな、今日会えるとは思っていなかったから、うちの料理長特製のお菓子を持って来なかったんだ」
「甘い食べ物の恨みは深くなりますよ」
「そうだな、しくじった」
前回、ここで会った時に甘いお菓子で買収されたのだ。その約束はまだ果たされていない。
「ふふ、私も今日会えるとは思っていませんでした。レイモンド様に会えてうれしいです」
「おじさん相手に嬉しいことを言ってくれるね。二度あることは三度あるとも言うし、偶然ばかりだといつまで経っても約束を守れそうにないから、次は約束をしてもいいかな」
「はい、もちろんです」
会うのはこれで二度目。けれど、何故か嫌な気はしない。
「でも、今日でなくてよかったです」
「おや、どうして?」
「実は婚約者と話題のカフェに行ってきたところなんです」
「カフェ?へぇー、今話題のカフェなんてあるんだ」
「ご存じありませんか?」
「あぁ、仕事と家の往復ばかりで、カフェなんて最近は行ってないからなぁ」
天を仰ぐ仕草も様になっていて、フェリシティはくすりと笑った。
「レイモンド様がお一人で入れるかどうかは、また別問題ですわ」
「うん?女性専用とかなのか?」
「いいえ、そんなことはありませんが、店内のお客さんの多くが女性でした。そのお店は女性が気兼ねなく過ごせる店を売りにしているみたいなので」
「そうなると、男性が一人で入るのは無粋というものか。カフェはけっこう好きだったんだが」
「そうなのですか?」
「時々、無性に甘い物を食べたくなる時があってね。そういう時は、カフェに行って甘いケーキを食べていたんだよ」
「おうちの料理長にお願いしては?」
「外で食べるのは、また別なんだよ。うちの味とは違う美味しさがあるから」
「確かに、そうですね」
毎日食べていれば、その味に慣れてしまう。外で食べればまた違う味に出会え、家に戻っていつもの味の料理を食べれば、それはそれでほっとする。
その気持ちも理解出来る。
「でしたら、今度、私が何か作ってきましょうか?」
「フェリシティ嬢は料理が出来るの?」
「簡単なお菓子くらいですが、クッキーを自分で作るのが好きで、木の実を入れたり、ジャムを入れたりしています」
「へぇ、美味しそうだね。じゃ、次に会う時に、我が家の料理長のお菓子と交換しよう」
「本職の方のお菓子と比べないでくださいね?」
「どちらも作り手が愛情を込めて作る物だ。そんな比べる真似なんてしないよ。そうだな……十日後でどうかな?その日は、午後から空いていたはずだから」
「はい。私はかまいません」
「万が一、私が来られなかったら、使いの者を寄こすよ。その者にお菓子も託すから、十日後には君の口に必ず入るよ」
「まぁ。無理はなさらないでくださいね。でも、レイモンド様のお菓子を楽しみにしています」
「私も、君のクッキーを楽しみにしているよ」
ローガンとは違う会話を楽しんでいたが、レイモンドが仕事に戻る時間になったので二人はそのまま別れた。
フェリシティは、クッキーの中身を何にしようか迷いながら家に帰って自分の部屋の扉を開けると、ちょうど出てきたメイドとぶつかってしまって手に持っていた袋を落としてしまった。
「お嬢様!申し訳ございません!」
「あら、いいのよ」
慌てて謝罪するメイドと一緒に、落ちた時に袋から出てしまった硬貨を拾った。
何だか今日は、この袋がよく落ちる。
そして、中の硬貨が床に落ちてしまうところも一緒だ。
「お嬢様、これで全部です」
そう言ってメイドが最後の一枚だった銀貨を拾ってフェリシティに渡した。
「ありがとう。お互い、突然のことには気を付けましょうね」
「はい!」
頭を下げたメイドは仕事に戻っていったので、フェリシティは部屋の中に入った。
そして、渡された硬貨を見て、あれ?という表情をした。
「……こんなお金、あったかしら?」
いつも使っている銀貨と同じ色味なのだが、彫られている物が違う。
誰か分からないが、男性の横顔が彫られた銀貨を見ながら、フェリシティは首を傾げたのだった。




