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 コインをレイモンドに渡した日の夜、フェリシティは眠れずにいた。

 フェリシティにはあのコインが何か分からない。けれど、レイモンドは一目で何か分かったようだった。


『このコインについては私が全て引き受けるよ。フェリシティ嬢は何も持っていなかったし、何も見なかった。いいね?』

『レイモンド様が危なくはないのですか?』

『大丈夫だよ。これでも一応、剣の扱いは慣れているんだ』


 そう言って微笑むレイモンドは、無理を言っているようには見えなかった。

 さすがに騎士ではないだろうけれど、剣は貴族の嗜みだからレイモンドも修めているのだろう。

 フェリシティの父親だって、たまに庭で剣を振っている。


「……でも、もし、レイモンド様に何かあったら……」


 コインを渡したことで、レイモンド様が何かしらの危険に巻き込まれてしまったとしたら……。

 眠れずに、そんなことばかり考えてしまう。


「いえ、レイモンド様はきっと大丈夫……」


 大人できっとそれなりの地位にある方。

 フェリシティでは無理なことも、きっとレイモンドなら大丈夫。

 フェリシティはそう信じて無理矢理目を瞑った。

 とはいえ、夜中に何度か目が覚めたフェリシティは、翌朝は目の下に隈が出来ていた。


「お嬢様、あまり眠れなかったのですか?」

「……やっぱり分かる?」

「はい」


 朝、侍女が来る頃には、すでにフェリシティは起きていた。

 何度も眠ろうとしたのだが、結局眠ることが出来なかったので、諦めて身支度をしたのだ。


「目の下の隈がひどいですね。少しお化粧で隠しましょう」

「えぇ、お願いね」


 幸い、今日は出かける予定はない。

 一日、家でゆっくりしていよう。

 そう思っていたのに、朝食後しばらくしてから、ローガンが屋敷にやって来た。

 先日、変な啖呵を切って帰って行ったくせに、どうしてすぐにこうして来るのだろう。

 ローガンの思考回路が読めない。


「急にすまないね、フェリ」

「いいえ。どうかなさいましたか?」

「先日は悪かった。俺も少し感情的になってしまったんだ」

「そうですか……ですが、同じ忠告をさせてくださいませ。ブリジット嬢とのお付き合いは、どのような形であれ避けるべきだと思います」

「誤解だ、フェリ。本当に彼女とは友人なだけだよ。フェリ、俺の交友関係に口を挟まないでくれ」


 何度言ってもブリジット・サンザス嬢のことを友人だと言い張るローガンに、フェリシティは内心でレイモンドと比べていた。

 レイモンドなら、きっとそんな言い方はしない。

 フェリシティがブリジット嬢のことを忠告したのなら、きっと自分でも調べてくれる。

 そして、完璧とも言える報告書を出してきそうだ。

 レイモンドなら、絶対にローガンのように、あからさまに怪しい言い訳はしない。

 けれど、ローガンが今この場でそう言い張るのなら、これ以上ブリジット・サンザス嬢の名前を出すのは控えた方がよさそうだ。

 いくら自分の家とはいえ、フェリシティはあくまでもか弱い女性。多少、剣の心得があるローガンに勝てるはずもない。


「……分かりました。ですが、ローガン様、私がこうして忠告したことは、覚えておいてくださいませ」

「……あぁ、分かった。ところでフェリ、もう一度聞くが、何か変わった物は落ちていなかったか?」


 ローガンの問いに、フェリシティの心臓がバクバクと音を立てた。

 フェリシティはローガンに気付かれないように、小さく息を吐いた。


『落ち着いて、フェリシティ。レイモンド様に言われた通り、私は何も知らない。何も拾っていない。ローガン様の落とし物など、知らない』


 心の中で何度かその言葉を自分自身に言い聞かせて、フェリシティはいつも通りの顔を作った。


「いいえ、ローガン様。何も落ちていませんでした」

「本当に?」

「まぁ、疑り深くでいらっしゃるのね。そもそもローガン様は、何を探していらっしゃるんですか?」


 フェリシティの言葉に、ローガンはしばらく考え込んだ後に口を開いた。


「少し赤っぽい銀色のコインだ」


 ローガンの言葉に、フェリシティはコインの出所を確信したのだった。


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― 新着の感想 ―
言うのか!?笑 アホの子だと思ってはいたけど・・・今まで濁した意味は(^◇^;) フェリ!全力で婚約から逃げて!
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