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冷徹と評判が高い財務局長は、少々怯える部下たちの姿を見て、ひょっとして本当にフェリシティ嬢の方が度胸があるのでは?と思ってしまった。
だがフェリシティ嬢には仕事モードの自分を見せていないし、逆に部下たちにはプライベートモードの自分を見せていない。
フェリシティ嬢はともかく、部下たちは目の前で私が笑ったところで幻覚だと思うかも知れないが。
それに怯えたふりをしているだけで、コイツらは本心から怯えているわけではない。
その証拠に、レイモンドをからかうことは忘れていない。
「ローガン・モントレー子爵令息を探ってくれ」
おそらくこのコインのことを探していたと思われるフェリシティの婚約者の名前を出した。
レイモンドとフェリシティはお互いの家名を教え合ってはいないが、レイモンドの頭の中には全貴族の情報が入っている。
何と言っても財務局は、その貴族たちから税金を取り立てる部署だ。
金のために、子供を使って何かをしている家もある。
なので家族構成もしっかりと頭の中に入っている。
フェリシティという名前と年齢から何となく当たりは付けていたのだが、婚約者のローガンという名前で彼女の家名を知っていた。
だがあの公園での心地良い一時を失いたくなくて、フェリシティのことは今まで知らぬふりをしてきた。
けれど、このコインはだめだ。
彼女自身に罪はないだろうが、その婚約者のことは調べなくてはいけなくなった。
「モントレー家の長男さんですねー」
名を言っただけで長男ということまですぐに口に出てくるこの部下たちも、ほとんどの貴族家の顔と名前を覚えている。当主夫妻はもとより、その家の小さな子供のことまで覚えている。
「えーっと、モントレー家の財政状況の資料は、っと」
別の部下が、資料の中からモントレー家の財政状況について書かれた書類を探し当てた。
が、それについてまず言いたいことが出来た。
「なぜ資料がそこで山積みになっているんだ?」
「違うんです、局長!別に整理整頓していなかったとかじゃなくてですね。ちょっとモントレー家の港に見慣れない船が停泊していたって話を小耳に挟んだので、何でかなー?って思ったんです。モントレー家に新しい産業でも興ったのかと思って、ちょっと去年の資料から調べてたんですぅ」
「そうか。それなら仕方ない、とでも言うと思ったのか。まず、その船の件を私に報告するべきだろう」
「しようと思ったんですけど、話を聞いたのが昨日の夕方頃だったんですよ。局長、昨日は珍しく定時で上がられたのでいなかったんです。それにちゃんと資料を集めておかないと、説明が二度手間になるでしょう?朝から資料をかき集めてようやく分かったので、局長が帰ったらすぐに報告しようと思ってたんです!」
だから、がんばりましたー、と幻影の尻尾をぶん回している姿が見える。
何故だろう?普通の人間なら見えないのに。
確かに、去年と比べて今年はどうか、という資料は必要だ。
勘も嫌いではないが、資料があるとなお良し。
ちなみに昨日はフェリシティへお菓子を贈るための入れ物を探しに行ったので、珍しく定時で帰っていただけだ。普段は、だいたい夏でも日が沈みきってから帰っている。
「まぁ、いい。それで?」
「えーっとですね。この使用料なんですけど……」
モントレー家では小麦以外にも野菜や果物を作っていて、他領に出荷している。
典型的な農業領地だ。
それ以外にも少しだけ海に面している場所があってそこに港がある。ただし、山が近くてほとんど開けておらず、港の規模もそれほど大きくはない。
大型船は停泊することが出来ず、中型船なら何とか、という感じらしい。
とはいえ、全く来ないかと言えばそんなこともなく、漁業関係者が漁の途中で休憩に立ち寄ったり、中型船が船旅の途中の補給に寄ることもあるので、多少は使用料が入ってくる。
「……モントレーの港の使用料が、少しだけ上がっているな」
基本的に自領の漁業関係以外の船が港を使う時は、領主に使用料を支払う。
当然、そこから国に税金が納められる。
使用料が増えているということは、何かしらの船がモントレーの港に去年より多く来ていることを示している。
「はい。でも、モントレー家の港の使用状況の報告書では、去年とあまり変わってはいません」
「見慣れない船というのは、中型か?」
「そうです。月に二回ほど来るそうで、その船は他国の商人の持ち物だそうです」
レイモンドは、別の資料を手にした。
「輸入、輸出共に去年と変わりはない。商人なのに、何も売らず何も買わない、ということはないよな」
「ですよねー。何を運んでいるのかが、分かんないんですよ」
「馬鹿正直に使用料は報告してきているのか」
「今年は全体的に小麦が豊作だったのでそっちの金額が多いですから、そこに気を取られて港の使用料については気にしてなかったんじゃないですか?こちらも見知らぬ船のことを聞かなければ、わざわざここまで微々たる金額について調べようと思いませんもん」
「まぁ、そうだな。この程度なら、小麦の運搬で増えたと思う程度か。私もこのコインが関わっていなければ、モントレー家のことを調べようとは思わなかったな」
「ちょうど合っちゃいましたね」
見知らぬ船と、あってはならないコイン。
結びつけるのは早急だが、全く繋がっていないとも思えない。
「モントレー家について、もっと詳しく調べてくれ」
「うち、財務局ですけど、どこまでやりますか?」
「税金も硬貨も、うちの管轄だ。徹底的に調べろ」
そう言った瞬間、連日仕事で忙しいはずの部下たちが、目を輝かせたのだった。




