お嬢様、婚約者現る(1)
体育祭にて、山田との距離が縮まったと踏んだ私は、ここぞとばかりに猛アピール致しました。
目の前でわざとノートを落としては、
「あら、嫌だ~♡」
と仰々(ぎょうぎょう)しく屈み、胸元を見せたりだとか。
さりげなくランチに誘う為、これまたわざとお弁当箱を忘れて、
「まぁ、お弁当を忘れてしまいましたわ!山田くん!一緒に学食に行きません?♡」
と奥義・睫毛がとれそうなまでの高速瞬きを食らわせつつ、声を掛けたりだとか。
で・す・が。
さすがキングオブ鈍感、残念ながら反応は乏しく、
(有栖川さん……そこまで屈んで……体が硬くて届かないのかな……?)
(学食、人が多くて嫌なんだよ。お金かかるし。一人で屋上で食おうっと)
山田よ……。
この胸は保険をかけるならば、億単位の価値がございますのよ??
仏を拝むかの如く扱うのが、男性のマナーじゃなくて??
しかもこの私が、学食に誘っているのに何故に断りますの??
専属のシェフが作った、超絶美味なお弁当を犠牲にしているの、お分かりかしら??
その上……。
瀬戸さんがモジモジと、豊満な胸を揺らしながら、
「な、なぁ!こないだのお礼に、お弁当作ってきたんやけど……一緒に食べへん?」
(初めて作ってみたんやけど、喜ぶかなぁ。えへへ♡)
「え、マジ!?うん、食べる食べる」
(ラッキー、食費浮いたー!助かるー!)
キエエエー!!!
さすがクイーンオブあざとい、瀬戸 悠莉!さん!!!
あっさり出し抜きやがりましたわ!!!
てか本当に貴女、ちょっとエロチックな少年漫画の世界から来たキャラじゃなくて!?
……いえ、これは私の完全なるミスです。
ナチュラルに揺れる谷間に、身の丈に合った手作りのお弁当。
山田の性格と懐事情をも考慮した、見事な作戦でございます。
彼はそこまで性欲は強くないようですし、学食すら節制したがる庶民の感覚を考えるべきでした。
悔しいですが、次から参考にさせて貰いましょう。
にしても山田 健太郎、少しは私の魅力が分かったと思いましたのに、やはり難しい男です。
「次は学食を奢る……?いえ、男のプライドを傷つけてしまいますわ……。シェフにお弁当を作って頂こうかしら……?でも豪華すぎて、引かれたら困りますし……」
下校時間を迎え、SPの車が待つ校門へと向かいながら、ブツブツ呟いておりますと。
何やら人集りが見えました。
大勢の女子生徒が、目を♡にして『誰か』を囲っています。
(やだ、こんなイケメンこの高校にいたんだ~!)
(ハーフかしら?色白で鼻も高くて、綺麗♡)
(しかも車はロールスロイス……かなりのお坊ちゃんだわ)
げっ!!!
ゾワッと悪寒が背筋を走りました。
大変嫌な予感が致します。
まさかあの男がここに来ているとは、油断しておりました。
私はクルリと身を翻し、立ち去ろうとしましたが、
「美麗~!久しぶりだね♪」
いち早くこちらの存在を察した彼が、満面に笑みを湛えて手を振ってきました。
そして群がっていた女子達に、
「ごめん、僕のお姫様が来たから、また今度遊ぼう」
「「「はーい♪楽しみにしてますぅ」」」
ゲロゲロゲロー!!!
全くもう!絶世の美少女に何て効果音を吐かせますの、こいつは!
しかし皆様、想像して下さいませ。
いくら瞳が淡い茶色、透き通るような白い肌、日本人ではとても考えられない高い鼻、を持った美形の男でも、この令和の時代に『僕のお姫様』発言はいかがなものかしら??
鳥肌が立つのも当然のように思えます。
ああ、私の美しい肌がブツブツに……これ以上のアレルギー反応は、放送禁止になってしまいますわ。
私は気付かない振りをして(かーなーり強引でしたけど)、その場を去ろうとしました。
すると。
(いいのかな~♪皆に『秘密』をバラしちゃうけど、いいのかな~♪)
な、なんて卑劣な男なのでしょう……!
わざと心の声で伝えてくる辺り、性根が腐っております。
この超絶イケメン!長身野郎!顔小さすぎ、足長過ぎ坊っちゃんめー!!!
……あら?貶そうとしたのに、褒め称えてしまいました……チッ、無駄に外見はいいんだから……。
私は瞬時に笑顔を張り付け、クルリと振り返って、
「あら、ごきげんよう、流星さん。お久しぶりですわ。フランスからお帰りになったのね」
「ああ、つい先日ね。いやぁ、良かったよ。休学して行った甲斐があった」
(何せ向こうは美女ばっかりだからなぁ。あの子も、あの子も最高だった……あ、いけないいけない、つい思い出しちゃった☆)
ああーーー不愉快極まりねぇーーー。
私は舌打ちしそうになるのを、必死に堪えました。
お察しのとおり彼、ことエルドール・流星は日本人の母親と、フランス人の父親を持つハーフで、特に父方の血を濃く受け継いでいるのか、女子を見ると声を掛けずにはいられないプレイボーイです。
年齢は私よりも一つ上、つまりは高校二年生、のはずなのですが……。
「一応二年生のクラスに在籍してるけど、一年生の授業も自由に受けていいって話だから、いつでも会えるからね、美麗♡」
そうなのです。
我が校における流星のご両親の権力は絶対で、このようなあり得ない提案も通ってしまうのです。
残念ながら、私の家柄ですら太刀打ち出来ず、
「さ、乗って。一緒に行きたいところがあるんだ。勿論、ご両親には伝えてあるよ」
と言われたら、断る訳には参りません。
私は密かに嘆息を吐き、無表情で車の後部座席に乗り込みました。
どんな方法で逃げ出すか、思案しながら。
流星は隣に腰を掛け、運転手に「出して」と伝えて、
「もう、そんな顔しないで。僕達、婚約してるんだから」
(ふふ、不機嫌な表情も可愛い♪)
ハァァァ。
神様、貴方は残酷な方です。
私に類稀なる叡知と美貌、更には財力まで与えておきながら、婚約者がこのスケベ野郎なんて。
しかも弱味を握られている。
悲劇以外の何物でもございません。
「今夜は帰さないよ、お姫様♡」
(どんな手を使っても、僕のものにしてみせる♡)
ぎぃやあああーーー!!!
鳥肌を通り越して、蕁麻疹が出ますわー!!!
顔が綺麗でなければ、反射的にぶん殴っていたことでしょう。
どうぞご両親に感謝して下さいませ。
私はすっかりチベスナ顔になり、ひたすら窓の外を眺めてました。
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