お嬢様、婚約者現る(2)
皆様お察しの通り、私の超能力を知っている唯一の人物、それが流星でございます。
語るのも、思い出すのもお恥ずかしい、あの失態……。
人生の汚点を晒すのは避けたいところですが、お話を進める為にはやむを得ません。
私と流星の、実に間の抜けた出会いをお聞き下さいませ。
あれは二年前のこと。
名の知れた資産家が集うパーティーに、私は両親に連れて行かれました。
二人は口では、
「そろそろ美麗も社交の場に行かないとな、母さん」
「ええ、もう立派なレディですもの。きちんとマナーを覚えないと」
と綺麗事を並べておりましたが、内心は欲望が渦巻いており、
(有栖川家の為にも、エラドール家の息子と結婚させなければならないからな。パーティーで会わせて、今の内に仲良くなってもらおう)
(美麗、ごめんなさい。産まれた時既にもう、貴方は流星くんと婚約しているのよ。我慢なさいね)
おいおーい!!!
え、彼らは正気でしょうか?
父も母も、何時代の人間なのですか?
ここは昭和を通り越して、大正、明治、いえ江戸時代なのですか?
ならば教科書で習った徳川家が存在するはずです。
是非財宝の在処を聞き出し、億万長者になりましょう!ヤッター!!!
などとふざけている場合ではありませんでした。
今時生まれながらの許嫁なんて、時代遅れも甚だしいです。
シェイクスピアも「まだんな事言ってんのかよ(笑)」と嘲笑うに違いありません。
私は怒りが込み上げてきましたが、超能力がバレてはいけないと、何とか堪えました。
まぁでも、お相手のエラドール・流星が私のタイプならば、問題はな
「ボンジュール♡はじめまして、エラドール・流星です。嗚呼、美しいマドモアゼル……写真で見るよりもずっと素敵な人だ。僕は世界一の幸せ者だな」
(顔よし、スタイルよし!他の女の子と比べても断トツ♡ラッキー♡)
むーーーりーーーゲーーーーキーーーターーー。
流星よ、貴方も時代を間違えていらっしゃるようです。
現代の日本の中学生が、ボンジュールとマドモアゼルを口にすることは、生涯に渡ってございません。
今すぐタイムマシンに乗って、在るべき場所に戻って下さい。
そうすればお互い幸せになれるでしょう。
と私は流星と顔を合わせた途端、一気に気持ちが萎えてしまいました。
彼は外見はとても魅力的で、人柄も明るく紳士的ではありますが、気障ったらしく、何より脳内が女の子でいっぱいです。
というより、女の子以外のことは考えていません。
逆に感心するレベル、草食系が主になっている昨今では、もはや絶滅危惧種です。
動物は好きですが、保護するつもりは更々ございません。
私はこの婚約を破談にしようと、即座に決めました。
単純に嫌われてしまえば、向こうから断るだろうと踏んで、
「そんな、私は……実はお下劣な人間ですの。人を苛めるのが大好きですし、泣き顔を見るのが趣味なんです」
「なるほど、Sなんだね!大丈夫、僕はどちらでもいけるから」
(むしろ清純そうに見えてSなんて、そそられる~♪)
「大変不潔で、部屋はゴミだらけ。まさに汚部屋ですのよ。その方が居心地がいいですの」
「そっかーまぁ沢山部屋があるんだから、いくつかそういう所があってもいいよ!」
(こんなに可愛いのに汚部屋か、ギャップ萌えだな♪)
「男性が大好きで、一人の方を愛せるかどうか、自信がないんです」
「えっ奇遇~♪僕も僕も!じゃ、お互い様ってことで、上手くやれるね」
(ヒュ~、そういう正直なとこも素敵だ♡今までにいなかったタイプ♡)
何なんだ、この揺るぎないポジティブシンキングは。
根気強すぎるだろ、恐るべし女好き……。
私は次第に苛立ちを募らせ、けれど公の場で感情を露にする訳にもいかず、自身を落ち着かせようと、近くにあったグラスを一気に飲み干しました。
てっきりミネラルウォーターかと思ったのですが。
「み、美麗さん、それ、お酒っ!」
「へ!?」
流星の慌てた声が脳裏に響いた途端、視界がぐわんぐわんと回りだし、仕舞いには意識を失ってしまいました。
ー数分後ー
瞼を開けた瞬間、見慣れない天井が目に入り、私は焦って体を起こしました。
直ぐには状況を把握出来ず、呆然としてしまいます。
すると、
「あ、気が付いた?ここは医務室だよ。お酒を間違えて飲んで、倒れたんだ」
声が聞こえてくる方に目線をやると、流星の端整な顔立ちがありました。
が、元から締まりのない口元が、ますます緩んでいる気が致します。
も、ももももしや……嫌らしいことをされました!!??
そんなことやあんなこと!!??あったでしょう!!??
いやー!!!
R18になってしまいますわ!!!
タイトルも『人の心が読めるツンデレ美少女お嬢様の初めては、超絶気障なハーフイケメンでした♡』に変更しなくては……何の面白みもなさそうなタイトルですこと……ただのリア充の戯れじゃないですの……。
と顔面蒼白になっている私に、流星はクスクス含み笑いをして、
(大丈夫。何もしてないよ。ま、ちょっと魔が差しそうになったけど)
「あ、なら、良かっ……」
……ん??
今のは……心の……声……??
まるで話し掛けてくるような口調だったので、混乱してしまいました。
え、何何、何ですの!!??
一体私の身に、何が起こっているんですの??
眉をひそめて頭を抱えていたら、流星は今度はちゃんと口に出して言いました。
「本当に人の心が読めるんだ、すごー」
ガチョーーーン!!!
……思わず昭和の効果音が出てしまいましたわ……。
分からない方は是非、お祖父様かお祖母様に訊いて下さいまし。
でも仕方ありません。
だってまさか、まさかまさか。
よりにもよってこの自称婚約者、キングオブ女たらしに露呈するなんてー!!!
私は言葉を失い、ただただ虚空を見据えるしかありませんでした。
対して流星は、実に憎たらしく笑みを深め、
「ふふ。可愛かったよ~♡ベロンベロンに酔っ払っちゃってさ、私は人の心が読めるだの、貴方は女の子のことしか考えてないだの。言うだけ言って寝ちゃった。でも、本当だとはね~」
「う……うぇぇぇ……」
無意識の内に、喉が潰れたカエルのような呻き声が出ました。
え、何この声……いつもは小鳥のさえずりよりも美しい声ですのに……私ったら、何処から発したのでしょう。
けれど、これは好機かもしれません。
ええい!!!
私はヤケクソになり、白目寸前まで目尻を釣り上げ、鼻の穴を広げ、歯を剥き出しにするという、世界一醜い犬もびっくりの表情を晒すことにしました。
それを見たら、流星の私に対する百年の恋(どころか出会って数時間ですけれども)も冷めるかと考えたのです。
が。
(うんうん、変声も変顔もいいな~♡超能力がある上に、こんな一面もあるなんて、多才な人だ!)
りゅ、う、せ、い……。
お前のメンタルは鋼で出来てるのか。
叩いても叩いてもヒビすら入らねぇ……!!!
私は絶望感に襲われ、がっくりと肩を落とし、布団に額をこすり付けました。
こうして私と流星の、切っても切れない繋がりが出来てしまったのです。
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