お嬢様、婚約者現る(3)
それからエラドール家から結婚を前提とした交際の申し込みがあり、私はとりあえずお友達から、という条件で渋々受け入れました。
流星は筋金入りの女たらしです。
ひたすら冷たくあしらえば、他の女性に目移りするだろうと、内心軽んじておりました。
が、意外にも執拗に追いかけ回され、今に至ります。
まぁ世界三大美女にも匹敵する美しさ、全国模試で常にトップ争いをする頭脳、美脚をアピールしつつ全力で走れる運動神経、更には人の心が読める超能力を有する私を手に入れたくなるのは、男として当然でしょう。
山田 健太郎が例外中の例外なだけなのです。
よりにもよってそんな人に恋をした私……しかも校内一貧乏で超絶鈍感な陰キャ……ロミオとジュリエットを超える悲劇ですわ。
「さ、着いたよ。降りて降りて♪」
気付けば車が停まっており、窓の外を覗けば見知らぬ風景が広がっていました。
大人しく家に送ってくれる訳がない、と覚悟はしていましたので、何も言わずに従います。
既に辺りは暗闇に包まれ、眼前には眩いばかりに輝く数々の電飾がありました。
どうやらここは郊外にある丘の上で、夜景が見所のようです。
私も年頃の女の子、このようなロマンチックな展開は嫌いではございません。
「どう?君のために貸し切りにしたんだ。綺麗でしょ?」
(ふふ、さすがの美麗も、喜んでるみたい。このままの勢いで、チューしちゃおう♡)
こういう浅はかな心の声が聞こえてこなければ。
私は嘆息を吐き、チラリと流星を一瞥致しました。
彼は相変わらず人懐っこい笑みを浮かべております。
……散々毒を吐いてしまいましたが。
この二年間の付き合いで、悪い人間ではないのは分かっています。
むしろ女たらしという点を除けば、周りを常に明るくしてくれ、裏表も全くない、善良な方でもあるのです。
けれど。
(嗚呼、なんて美しい唇……僕に奪われる為にあるようだ……)
あーーーやっぱり鳥肌が立ちますわーーー!!!
聞こえているのを知っていて、この所業。
流星のメンタルは鋼どころかダイヤモンドレベルです。
それに、私は……恋をしてしまいました。
本意ではないにせよ、このままでは二股になってしまいます。
そうなればまたタイトルが『人の心が読めるツンデレ美少女お嬢様は、清楚ぶったビッチでした☆』に変更になるやもしれません。
一部の成人男性に大変受けそうですが、ビッチの座は謹んでお断りさせて頂きます。
「……あの、申し訳ないんですけど……私、好きな人が出来ましたの。ですから……婚約を、解消して頂きたいんです」
私はお得意の瞳潤ませ+上目遣い攻撃をしながら、思いきって切り出しました。
流星は少し想定外だったのか、一瞬目を見開きましたが、直ぐに笑顔に戻り、
「そんなの、問題ないよ♡お互い様って言ったじゃないか」
「あれは……嘘です。私は、一人のお方しか好きになれません」
「……そうなんだ。……本気なのかな?」
「ええ。将来は結婚を考えてますわ」
「で、そいつとは両想い?」
「へっ」
そこを突かれると……つ、つらみーーー!!!
そうです、うっかり両想いかのような言い方をしましたけれど、現実は第一印象がまさかの鼻毛、猛アピールしても華麗なるスルー、挙げ句幼馴染みの巨乳に出し抜かれる始末……!
今のところかなりの劣勢を強いられています。
嘘でも『ええ、もうラブラブですわ、オーホッホ♡』と言えれば良いのですが、何せ私は(自称)純粋無垢の化身、そんないい加減なことは出来ません。
躊躇っていると、流星は満足げに笑みを湛え、
「そんな、君の素晴らしさが分からない男なんてやめておきなよ。……僕はさ、確かに気が多いけれども、美麗と想い合えるのなら、他の女の子達とはサヨナラ出来る。……かもしれない」
(こんなに魅力的な人、他にいないもの。失う訳にはいかない)
『かも』かよ。
と内心ツッコミを入れました。
ですが彼の心の声によると、上っ面だけの言葉ではなさそうです。
……私だって、分かっております。
山田よりも流星を選んだ方が、何不自由ない生活が送れること。
家柄を考慮しても、釣り合いがとれること。
痛い程理解しているのです。
それでも。
それでも、私はー。
「じゃあさ、こうしよう」
ひたすら押し黙っていたら、流星の明朗な声が響きました。
何を提案されるのかと警戒する私に、彼は実に楽しそうに、
「もしその『彼』をゲット出来なかったら、僕の所においで。そうだな……期限はこれから一年以内!どう?」
(ふ、ふ、ふ~美麗は負けず嫌いだから、絶対乗ってくるはず。でしょ?)
こんのフランスかぶれ気障野郎め……!
足元見やがってえええーーー!!!
失敬。
時折、心の中で飼っている獣が暴れだしますの。
非常に腹立たしくありますが、ここで退いては女が廃ります。
流星の言う通り、私は相当な負けず嫌いなのです。
あんな校内一貧乏で超絶鈍感な陰キャくらい、この類稀なる美貌と素晴らしい人柄で、一年以内には落としてみせますわ!!!
「分かりました。お受けしましょう」
そう頷くと、流星はますます笑みを深めました。
こうして私と山田を取り巻く恋愛模様は、更に混迷を極めることになるのです。
いつもブックマーク・評価・ご閲覧ありがとうございます!
申し訳ありません、少し更新が滞りそうです。
また更新しましたら、よろしくお願い致します。




