お嬢様、夏に賭ける(1)
夏と言えばそう、臨海学校でございます。
我が校にはプライベートビーチがあり、それに隣接する施設にて一泊二日致します。
昼は浜辺にてバーベキュー、それから海で水と戯れ、夜には肝試しという、え?これ本当に学校?リア充の夏休みじゃん??思わずそうツッコミたくなる行事が満載なのです。
さあ、皆様もうお分かりですわね?
今度こそ、山田と男女の仲になる大チャンスなのです!!!
バーベキューでは手際良く調理する姿を見せつけ、海ではプロ並みの泳ぎを披露し、肝試しではか弱い一面をアピールする……。
そうすれば山田は、
(有栖川さん……こんなに魅力的だったんだ……それに気付かずに俺は……バカバカバカ!!!ごめんね、改心するよ。これからは永遠に君にラビンユーさ♡もう離さないから、覚悟して♡♡♡)
ってキャーーー♡イヤーーー♡
山田のハレンチーーー♡♡♡
……となる予定だったのですが……。
「何で貴方が、ここに居ますの……!?」
私はヒクヒクと、口元を痙攣させながら睨み付けました。
相手は勿論。
「だって楽しそうだし、美麗とずっと一緒にいたいからさ♡パパにお願いしちゃった♪」
エラドール・流星……!!!
これだからお坊ちゃまは嫌になりますわ!お金があれば何でも思い通りになると思って!
……ん?ブーメランじゃないか、ですって??
ノンノンノン、私は理性のある令嬢でございます。
ここまで欲深くはありません。
今まで親におねだりして買ってもらったものは、某避暑地の別荘くらいです。
何て慎ましやかな乙女なのでしょう。
ハッ!呑気にはしていられません。
山田に流星の存在を知られてしまいました。
婚約者とは明かしていませんが、こんなに馴れ馴れしく接していれば、疑問を抱くに違いありませんわ。
……もしかしたら、私達の関係を訝しんで、嫉妬なんかしちゃったりし
(流星くん、格好いいなーこんな人いたんだ。身長高いし、綺麗な顔してるし。すげー)
そっちかーーーい!!!
え、何ですの……?
私の第一印象は鼻毛だった癖に、流星には『格好いい』『綺麗』ですって!!??
貴方の視力は0.000001にも満たないようですわね!!!
それともBとLを始めるおつもり……!?
ナンパなハーフイケメン×陰キャな実はイケメン……人気出ちゃいそうな組み合わせじゃないですの……そうなれば私は完全なるモブ女……イヤアアア!!!
嗚呼、目眩がして参りました。
しかも死に物狂いで山田と同じグループになったものの、流星も乱入してきた挙げ句、
「健太郎!また一緒のグループか~ほんまうちらは腐れ縁やな」
(ふふ、ラッキー!上手いこと一緒になれて良かったわ)
「本当にな。もう一生このままかも」
(ま、仕方ないか。幼馴染みってそんなもんだろ)
「!?い、一生なんて……もうっ♡」
(こ、ここれってプロポーズみたいやーん♡)
「??」
(え、何か変なこと言ったか……?てか、流星くんと話したいなー)
キイイイーーー!!!
瀬戸 悠莉、相変わらず油断ならぬ女……!
そして、山田 健太郎!!!
流星に興味持ちすぎだろ!
眼前に巨乳が四つあると言うのに!!!
え、まさか本当にBとLを始めるのかしら……と危惧致しましたが、
(ああいうタイプ、今まで居なかったし。フランスの話とか聞きたい)
なるほど、単なる好奇心のようです。
全くもう、フランスなら私も数え切れない程行っているので、遠慮なく訊いて下さればいいのに……照・れ・屋・さ・ん♡
などと一人盛り上がっていたら、
「はい、では今からバーベキューの準備を始めまーす!グループごとに、食材を切って下さい」
oh!チャンス到来ですわ!!!
ふふふ、この日の為に私は、地獄のような猛特訓を受けたのです。
専属のシェフに教えを乞い、来る日も来る日も食材を切り続けました。
全てはそう、山田に『お嬢様でも料理出来ますのよ』アピールをする為。
何でも完璧にこなす私ですが、残念ながら料理はそこまで得意ではありません。
卑劣にも手作り弁当で気を引こうとした、瀬戸さんの方が腕前は上でしょう。
ですがバーベキューであれば、肉や野菜を華麗に切れさえすれば、誤魔化せるのです。
ビバ☆バーベキュー!サンキュー☆リア充!!!
さあ山田、見てなさい。
神をも感嘆させる、私の手さばきを!!!
ー数分後ー
おかしい……おかしいですわ……。
「わあ瀬戸さん、すごーい!もうこんなに切ったんだ」
「それに形も綺麗。普段から料理してるって感じ」
「へへ♡ありがと~親が共働きやから、夕飯はいつも作ってんねん」
「どうりで!家庭的で素敵だな~」
クラスメイト達がこぞって瀬戸さんを称賛しているのを、私は歯軋りしそうな勢いで見つめていました。
その中には山田も紛れており、
「悠莉は昔からそれが取り柄なんだよ、な?」
(そういえば小学生の頃から上手かったわ。こいつの作るカレー、美味いんだ)
「もー!何、その他には何もないみたいな言い方!」
(健太郎ってば、素直じゃないんやからっ。私のカレー好きなの、知ってるんやで♪)
こ、ここ、こんなはずではなかったですのにーーー!!!
私はガックリと肩を落とし、絆創膏だらけの手を眺めました。
そう、私は料理対決で惨敗を喫してしまったのです。
敗因は瀬戸さんが予想以上の腕前だったことと、こちらの実力が思いの外伸びていなかったこと。
だってだって……自宅の包丁と、全然切れ味が違いますもの!
何故こんな貧相な刃で、あのようにスピーディーかつ美しく切れますの?
彼女は精密に作られたロボットなのかもしれません。いえ、きっとそうです。そうでないと、私が負けるはずはありませんわ!!!
なんて強がっても、後の祭りでございます。
人の輪から離れ、人差し指でのの字を描いていると、
「マドモアゼル、そんなに落ち込まないで。不器用な君も素敵だよ♡」
(ふふ、君が好きなのは山田 健太郎だね?)
ファーーー!!??
流星にカウンターパンチを食らい、私は目を白黒させました。
彼らしい気遣いなのか、心の声で訊いてくる辺りが憎らしいです。
そ、そんなに分かりやすいのかしら、私……そりゃ胸元を強調したり、猫なで声を出したりしてますけど……、……ふむ、バレて当然ですわね……むしろこれで気付かない方が、目が節穴ですわ……。
けれどあまり動揺しては、相手の思うつぼです。
わざとニッコリと、極上の笑顔を見舞いつつ、
「ありがとうございます。その通りですわ。流星さんは本当にお心遣いが素晴らしいですわね」
と実際の声と心の声、どちらともに通用する返事を致しました。
流星はますます笑みを深くして、
「そんな、僕は本心を言ってるだけだから」
(やっぱりね。うーん、無理ゲーだと思うけどなー。彼、悠莉ちゃんといい感じじゃん)
「クッ……!……いえ、そんなことございませんわ。私も貴方を見習って、頑張らないと」
「ふふ。ま、そんな君も好きだけど♡」
(この調子だと、賭けは僕の勝ちだね~♪ツンデレ美少女ゲット、ヒュ~♪)
クウウウーーー!!!
こんのナンパなハーフイケメンがーー!!!
BとLしたら、受にしてやろうかーーー!!!
人気が出すぎて困りやがれーーー!!!
あら嫌だ。なんてお下品なことを……。
私はハァと嘆息を吐き、ふと山田の方を一瞥致しました。
すると。
彼がこちらに向かって来るではありませんか。
ヒエエエーーー駄目駄目、無理無理!!!
きっと料理が全く出来ない私に、失望してるに違いありません。
(ハァ、有栖川さんにはガッカリだな……野菜も切れないなんて。悠莉の方が100000倍素敵だ♡♡♡)
とか言う心の声が聞こえてきたら、HPがゼロどころか-100000ですわ……回復するのに数ヶ月は要します……いえ、もはやgame over……。
私は慌て目線を逸らし、踵を返してその場を去りました。
「あ、有栖川さん!手、大じょう」
背後から山田が何か言いかけていましたが、遮るように。
「皆さん、次に予定していた、水泳なんですがー」
おっしゃーーー!!!
学級委員長の掛け声に、私は内心ガッツポーズを決めました。
水泳ならば、存分に本領を発揮出来ます。
胸のサイズでは少しだけ!ほんの少しだけ!瀬戸さんに負けますが、スラリと長い瑞々(みずみず)しい手足と、内蔵が入ってないのではと疑われる程のくびれは、例え超絶鈍感な山田も釘付けになるでしょう。
この日の為にオーダーメイドの水着も用意致しました。
清楚な白いビキニです♡
きっと彼の雄の本能が剥き出しに……♡
オーホッホッ!ついに運が巡ってきましたわ!さあ、これまでの汚名を返
「波が高いそうなんで、中止にしまーす」
ズコオオオ!!!
……これはコントか何かですの………?
だとすればかなりの低レベル、あのよく笑う松ちゃんが、無表情でスルーするレベルですわよ……。
私は一気に消沈し、力なく崩れ落ちました。
ええい、まだ肝試しがございます!
実はこちらもか弱い女子を演じようと、プロの方に指導を受けましたの。
うるうるの潤んだ瞳+上目遣いに、『やだ~こわ~い』という甘え声の出し方、さりげないボディタッチ♡までレクチャーして頂きました。
ツンデレ美少女お嬢様がお化けには弱いなんて、全人類が萌える設定に違いありません。
萌えなければ、もはや人間ではございません。
次こそ作戦を成功させ、山田の心を奪ってみせますわー!!!
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