お嬢様、夏に賭ける(2)
「だから何で……こうなりますのかしら……」
思わずポツリと漏らしますと、前を歩いていた瀬戸さんは咄嗟に振り返って、
「ん?何か言うた?」
「いえ……」
「いやーにしても結構怖いコースやなー!しっかり者の有栖川さんと一緒で良かったわ」
(健太郎も一緒やと、もっと良かったんやけど♡ま、しゃーないか。同性とペアやないとあかんもんな)
そうなのです。
男女の不埒な行為があってはいけないと、肝試しは同性同士の組み合わせで行くことになり、私は今こうして瀬戸さんと薄暗い道を歩いているのです。
確かにこんな暗闇に包まれた中、年頃の男女が歩いたら十中八九ピーでピーな展開が訪れ、R18になるかもしれませんが……(え?)。
砂浜でバーベキューをさせるような我が校が、何故にそこだけ厳しいのか。
まさに学校の七不思議でございます。
名探偵コ◯ンも解決出来ないに違いありません。
しかもよりにもよって、最大のライバルと二人きり。
山田は流星と行くことになっています。
ハッ……それこそ危ないんじゃなくて!!??
(流星くんと二人きりなんて、ドキドキするな……やっぱり顔、綺麗だし……、え、俺……巨乳に興味ないとは思ってたけど……もしかして……??)
ってノオオオーーー!!!
何だかやけに現実味があります……が。
夏に冷やし中華に人気をとられるラーメンじゃあるまいし、突然現れたナンパなハーフイケメンなんかに、あっさり奪われてたまりますか!!!
今更ジャンルをBLに変更するなんて、私も読者も許しませんわ!!!
早く肝試しを終わらせて、ラブが芽生える前に合流しなくては。
私はスタスタと足を速め、
「さ、早く終わらせてしまいましょう。肝試しなんて、馬鹿馬鹿しいですわ」
「ハハッ、有栖川さん、さすがやな」
(うちとしては、ゆっくり話したいんやけど。訊きたいことあるし。……健太郎のこと、どう思ってるんか、とか)
ギクッ!!!
今……何と申しました……??
もしや……私の恋心が、バレて……!!?
……ってよくよく考えたら、当然ですわね。
眼前で繰り出される私の秘技、胸元の強調や猫なで声を前にしたら、余程のお間抜けさんでない限り気付くでしょう。
流星が即見抜けたのですから、むしろ今までスルーしていた彼女は、かなりのんびり屋かもしれません。
にしても、どう対処すべきなのか。
ライバルとして宣戦布告した方が潔いでしょうか、それともこのまま黙って作戦を遂行した方が利口でしょうか。
躊躇していたら、続けて瀬戸さんの心の声が聞こえてきました。
(ま、こんな可愛くて綺麗な人が、健太郎を好きになる訳ないか!勘違い勘違い)
うぐっ。
ま、まぁ、そう思われても仕方ないですわ。
私は神が創りたもうた最高傑作の美少女であり、誰もが憧れる崇高な存在であり、本来ならば陰キャである健太郎は、見ただけで眩し過ぎて直視出来な
(それにーもしそうやとしても、負けへんもん。幼馴染みやし、めっちゃ仲良いし。絶対うちを選ぶわ)
かっちーーーん!!!
ちょっとお待ちなさい、瀬戸 悠莉。
お気付きかしら、初めて呼び捨てを致しました。
これまでは良きライバルとして、一目置いてる部分もございましたので、さん付けをして参りましたが……。
黙って聞いてりゃ調子乗りやがってーーー!!!
何だお前ちょっと巨乳で可愛くて幼馴染みで巨乳だからって(大切なことなので二回言いました)、どや顔してんじゃねぇぞ……??
向こうがその気なら、こちらも負けてはいられません。
有栖川家の名にかけて、立ち直れないまでにフルボッコにしてやりますわ。
私はキッと目をつり上げて、
「瀬戸さん、お話がございます」
「え?」
「私、実はー」
そう言いかけた所で、私は目を見開きました。
そしてゴクリと息を飲みー瀬戸さんの腕を掴んで、脇目も振らず駆け出します。
勿論彼女は驚いた様子で、
「な、何!?なになに!?」
「犬!」
「へっ」
「野犬が追い掛けて来てますわ!とにかく走って!!!」
そう。
瀬戸(これからは呼び捨てにしますわよ)の背後に、牙を剥き出しにした大きな野犬の姿が、視界に飛び込んできたのです。
耳障りな声でギャンギャン吠えながら、後を猛スピードで追ってきています。
ああ、もう!
こういうドラマチックな場面は、ヒロインとヒーローでやるべきではございません!?
『山田くん……私、野犬なんて初めてで……怖いですわ……』
『大丈夫だよ、有栖川さん。俺がいるから。絶対に守ってみせる』
『ありがとうございます。……ふふ』
『何かおかしい?』
『いえ。貴方と一緒で良かったなぁって』
『それは俺の台詞さ、my honey……』
『oh my darling……』
こうして力を合わせ危機を乗り越え、二人は互いの想いを確信しあったのでありました……。
となる絶好のチャンスに、作者は何をしてますの!?馬鹿ですの!?
このままでは私達も流行りの百合展開に……ツンデレ美少女お嬢様と、関西弁巨乳美少女……この場合どちらがどちらになるのかしら……ってイヤアアア!!!
などと全力疾走しつつも苦言を呈すという、器用すぎる技を披露している内に、野犬を何とか振り切れました。
が。
「ハアハア……瀬戸さん、大丈夫かしら?ごめんなさい、突然走り出して……」
「ゼエゼエ……いや、むしろありがとう。全然気付いてへんかったわ。でも、ここ……何処やろ……?」
「……ふむ、……何処でしょう……」
気付けば公道から大きく外れ、木々が繁った山中に迷い込んでいて。
どうやら私達は、遭難してしまったようでした。
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