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お嬢様、黄昏る

すっかり傷心した私は、誰もいない屋上から、既に閑散(かんさん)としている運動場を見つめていました。

昼間の喧騒(けんそう)は何処へやら、数人の生徒達が片付けをしているだけです。

嗚呼、予定では今頃、山田と二人で祝勝会をするはずでしたのに……。

彼の財力に合わせて、生まれて初めてマ◯クやサイ◯リアに行く覚悟でしたのよ?

使用したことはございませんが、銀の小銭二枚だけで食せるハンバーガーや、これまた銀の小銭四枚だけで食せるドリアがあると、ネットで下調べまでしましたのよ?

馬鹿な男です。

こんな絶世の美少女を袖にするなんて。


「でも……完敗、ですわね……」


残念ながら。

山田は心の声を読まずとも、瀬戸さんの異変をいち早く察して助けました。

余程想いが強くないと、あのように体は動きません。

悔しいけれど、二人の間には他人が介入出来ない絆があるのです。

……クソッ……。

私も幼馴染みならば、絶対に勝てたはずなのにいいい!!!

どんだけ不利なんだよおおお!!!

……失礼致しました。

けれど今回ばかりは失恋に免じて、許して下さいまし。

まだ感傷(かんしょう)に浸(ひた)っていたいところですが、そろそろ迎えが来てしまいます。

恥ずかしながら、実は体操着のままなのです。


「とりあえず、着替えましょう……」


そう呟き、後ろを振り返ると。

思いもよらぬ人物が立っていました。


「やっと見つけた。良かった~」


や、ややや山田!!??

え、いつからここに居たのです!!??

心の声も何も聞こえなかったんですけど!?貴方は忍者ですか!!??

突然の想い人の出現に、私は動揺を隠せませんでした。


「ど、どどどうしてこちらへ?せ、瀬戸さんは?」

「ん?ああ、あいつならもう大丈夫。親が来てたから、一緒に帰ったよ」

(?何か有栖川さん、話し方変だな~悠莉のこと、余程心配してくれてたのか)


幸か不幸か、山田の恐るべき鈍感力のおかげで、むしろプラスに捉えられたようです。

が、相変わらず何でも瀬戸さんと結びつける彼に、切なくなりました。

ここはもう負けを認めて、初恋に終止符(しゅうしふ)を打つしかありません。

ルーララ……悲しいラブソング……アハー……。

私はせめて虚勢(きょせい)を張り、嫌味も含めて、


「山田くんと瀬戸さんは、とても仲がよろしいんですわね」


満面の笑みでそう言うと、山田は照れ臭そうに頬を掻きました。


「まぁ、幼馴染みだから。小中も一緒だったし」

(何かもう、妹って感じだし。腐れ縁だよな)


……妹……?

今、妹と……申しました……?

いも、うと……imouto……sister……!?

oh yeahーーー!!!!!

何ということでしょう。

山田にとって瀬戸さんは、決して!恋愛対象ではなく、可愛い可愛い妹のような存在だったのです。

しかも腐れ縁……うふふ、うふふふっ♡

まだまだ諦める必要はないようです。

そうですわよね、この何処からどう見ても完璧な私が、失恋なんてする訳がありませんもの。

絶対成就するに決まっています、いえ、させてみせましょう♡

途端に勢いを取り戻し、私は深海魚の如く体をくねらせました。


「そうでしたの~それは素晴らしいことですわ!幼馴染みって、羨ましい!」

「そんないいもんじゃないけど。でさ、有栖川さん、俺より先に悠莉を止めようとしただろ?」


ドキッ。

鈍いようでこの男、ちゃんと見ていたのですね。

もしや、人の心が読めることを勘づいて……??

リアリストな山田が、そんな非現実な発想をするとは、あまり思えないですけども。

珍しく言葉に詰まっていますと、彼は今まで聞いたことのない、柔和(にゅうわ)な声色で言いました。


「ありがとう。あんた、良い人なんだな」


ファァァァァー!!!

こ、これぞ棚からぼた餅……いえ、ぼた餅どころか金塊ですわ!!!

頭に当たったら失神してしまいます、などとふざけている場合ではありません。

まさか瀬戸さんのおかげで好感を持たれるなんて、想像もしておりませんでした。

心の準備を何もしておらず、どうお返事をしていいのか、困惑してしまいます。

でも、嬉しい。

とってもとっても、嬉しい!


「い、いえ!瀬戸さんの顔色が悪かったので、当然のことをしたまでです。結局、何も出来ませんでしたし」

「いんや。ああいう時、なかなか体が動かないもんだよ。しかもあんな、大勢の人の前でさ。すっげーな、って思った」

(ただのお嬢様じゃなかったんだ。うん、見直した)


おっしゃー!!!

私は心の中でガッツポーズを決めました。

無我夢中で行った行為でしたが、ここまで称賛されるとは。

ふふふ、聖母マリアの如く清く優しい淑女で良かったですわ♪

どうやら山田は、人の内面を見抜く才があるようです。

まぁ私だって性格を重視(じゅうし)する、誠実な人間でもありますのよ。

だって彼は、前髪で顔が隠れて見えなー。


「わっ」


フワッと。

タイミング良く突風が吹き、山田の前髪が宙に浮いて、初めてはっきりとその顔を拝みました。

……ん?

んん??

やっぱり、意外とイケメン!!??

黒目がちの円らな瞳に、長く濃密(のうみつ)な睫毛、鼻筋も整って……。

ちょ、待てよっ(某イケメンの口調で読んで下さいまし)!!!

ピピピー!!!

緊急事態ですわ!!!

私、てっきり山田はキングオブ地味顔、陰キャ中の陰キャだと思っておりましたが……。

これでは少女漫画も真っ青の展開ではありませんか。

いけません、この真実が明らかになれば、野獣たち(その他大勢の女子達)が一斉に食らいつくのが、容易に目に浮かびます。

ただでさえ瀬戸さんという、最強のライバルが居るのに!

ここは一つ、先手を打たなければ。


「山田くん、その髪型とてもお似合いですわ」

「え?そうかな……ちょっと切ろうかと思」

「いいえ!!!私、少し人相占いが出来ますの。それによると貴方は、前髪で顔を隠した方が運気が上がりますのよ。特に金運!!!」


つい躍起(やっき)になり、意味不明なことを口走ってしまいました。

はたと我に返り、こんな嘘八百に騙(だま)される馬鹿がおるかーい、と恥ずかしくなりましたが、


「そっか……じゃあこのままにしとこっと」

(これ以上貧乏になったら嫌だしなー、うん)


良かった……山田がこんな嘘八百に騙される馬、いえ純粋で助かりました。

しかしこれは単なる応急措置。

飢(う)えた野獣たちが彼の美貌に気付き、群がるのも時間の問題ですわ。

一刻も早く彼の心をゲットしなくては!!!

私は夕日を背にしつつ、決意を新たに致しました。

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