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7/29

お嬢様、全力疾走する

こうして迎えた、体育祭当日。

晴天にも恵まれ、滞りなく進行しておりました。

何せ穏やかな気質の方が多い我が校、さほど白熱することもなく、よってトラブルも滅多に起こりません。

そんな中でも私は、モデルも真っ青の美脚は勿論のこと、飛び抜けた運動神経でも注目の的でございました。


(うわ~顔だけじゃなく足も速い!)

(何だよ、あの子……もう芸能人じゃん)

(いいなぁ、私もあんな風になりたい♡)


ふふふ、聞かれました?

会場にいる全員がー親族も含めてーこちらを見て感嘆(かんたん)しております。

人間は美しい存在を目にすると、自然と癒され、心が落ち着くそうです。

私を創り上げて下さった神に、全人類が感謝すべきですわね……。

さぁ!この勢いに乗って、山田にも夢中になってもらいましょう!

いよいよ男女混合リレーの番が訪れ、出場者が各々準備を始めました。

私はトップ、次にモブ男子(失礼)、瀬戸さん、ラストが山田の順です。

無論私としては山田との愛のバトンタッチ♡を計画していたので、これには反旗(はんき)を翻(ひるがえ)したかったのですが、スピードを考えるとどうしても妥当(だとう)だったので、受け入れざるを得なかったのです。

ま、彼がゴールする時により早く迎え入れられるので、良しと致します。


「ごきげんよう、山田くん。リレー、頑張りましょうね♡」


ストレッチをしている山田に、アイドルも顔負けな程愛らしく、小首を傾げながら声をかけると、彼はしかし、「ああ、うん」とだけ頷いてー何たることでしょう、瀬戸さんの身を案じました。


「悠莉、本当に大丈夫か?今、気分はどう?」

(ったく、無茶な奴なんだから。目が離せないよな)

「だーいじょうぶやって!ほんま心配性やな、健太郎は」

(ふふ、そういうところも大好きやけど♡)


シーッッット!!!

sit!sit!sitー!!!

……申し訳ございません、令嬢らしからぬお下品な言動を……。

意味を解せぬ方は、自己責任の上ググって下さいまし。

で、でででも、わ、私だって体が病弱なら心配されたはずですわ!

実際は生まれてこの方、風邪すら引いたことのない健康優良児ですけれども。

クラスの殆どがインフルエンザにかかっても、人一倍元気でしたけれども。

嗚呼、貧血の一つでも起こらないかしら……。

いえ、今はそれより美脚をアピールする時です。

倒れている暇などございません。


『では、男女混合リレーを始めます。出場する人は、それぞれの位置に移動してください』


とのアナウンスが流れ、私はスタート地に向かいました。

山田との恋を成就(じょうじゅ)させる為の競技(きょうぎ)ではありますが、決して手は抜きません。

勝負事は常に真剣に挑むよう、心掛けております。

そして……優勝した暁(あかつき)には皆で喜びを分かち合い、どさくさに紛れて……山田とハグしてみせますわ♡きゃー♡

殿方と触れ合うなんて、ハレンチ極まりないですけれども、貴方なら許しましょう。

感謝しなさいっ♡


『位置について、よ~い……スタート!』


ハッ!いけない!

妄想に耽(ふけ)っている内に、始まってしまいました。

幸い寸でのところで我に返ったので、出遅れずに済みましたが、瞬時に気持ちを切り替え、全力で駆け抜けます。

さすが選抜(せんばつ)された方々だけあって、思いの外苦戦しましたものの、終盤(しゅうばん)は断トツでトップに躍り出ました。

待ち受けているモブ男子に、華麗にバトンを渡します。


「はい!お願いしますわ!」

「うん、任せて!」

(わ~有栖川さんとバトンタッチ、嬉しい♪)


モブ男子よ……こんな切羽詰まった時なのに、正直な人だこと。

いえ、私が美しすぎるがゆえですわね、ごめんあそばせ。

しかし彼はなかなかの健脚(けんきゃく)ぶりを見せつけ、トップを守って下さいました。

次は瀬戸さんーなのですが……。

ここで、思わぬ事態が起こりました。

意図せず、彼女の心の声が聞こえてきたのです。


(何や、ちょっと調子悪いかも……でも、リタイアなんか出来ひん……ま、大丈夫やろ……)


と。

嫌な予感が致します。

一見したらそこまで顔色は悪くないので、周りは誰も気付いていない様子。

直ぐに止めようかと思いましたが、何せ他人には聞こえていないのですから、躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。

そうこうしている内に、瀬戸さんにバトンが渡りました。

初めは好調でしたが、次第に不穏な気配が漂います。

彼女の悲痛な心の声が、容赦(ようしゃ)なく流れてきまして。


(辛い……しんどい……もつかな、これ……でも……せっかくトップなのに……!)


もおおお!!!

こんなの、放っておける訳ございません!!!

例え頭のおかしな奴だと認識(にんしき)されようと、私が助けなければ。

心に決めた私は、瀬戸さんの元に向かおうとし、


「瀬戸さん、お待ちなさい!無理なさってはー」


いけません、と言おうとした所で。

言葉が出なくなりました。

何故ならー山田が私より先に、瀬戸さんの元へ駆け付け、いわゆるお姫様抱っこをしたからです。

会場が一瞬にして、シンと静まり返ります。

彼女は顔を真っ赤にして、勢いよく手足を振り回しました。


「ちょ、ちょちょ、何してんねん!リレーの途中やで!?」

(ひゃ、ひゃー!け、健太郎の顔、近っ!むり、無理無理っ!)

「お前、調子悪いだろ。医務室行くぞ」

(ほんっと、ちょっと油断したらこれなんだから。……でも気付けて良かった)

「で、でででも、歩ける、歩けるからっ」

(うちのこと、そんな見ててくれてるんや……手、あったかいなぁ……)

「こんくらい昔よくしてたし。いーから、大人しくしてろよ」

(大分重くなったけど。中身は変わってないな。昔から一生懸命で、見守ってやらなきゃ駄目で……)


……嫌。

嫌、嫌、嫌!!!

山田の瀬戸さんを案じる想いが、拒もうとしても脳裏(のうり)に入り込んでしまいます。

こんなに超能力を辛く感じたのは、生まれて初めてでした。

まるで心臓を鷲掴みにされたように、苦しい。

もう何も聞きたくありません。

何も……。

私はフラフラと覚束ない足取りで、その場を離れました。

背後で山田を称(たた)える拍手が響き、更に胸の痛みが増したようでした。

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