お嬢様、策を練る
スポーツとは、人と人の絆を深めるものでございます。
普段はさほど交流がない方とも、共に体を動かすことによって、気持ちを通わせていく。
古代より続く、神聖なる戯れー。
なので、体育祭は私と山田の距離を縮める、大チャンスだと踏んでおります。
最強のライバル・瀬戸さんが現れたからには、一分一秒とて無駄には出来ません。
狙うは競技の中でも一番の目玉となる、男女混合リレー!
男子二人、女子二人でバトンを繋いでいきます。
チームワークが要となり、否が応でも親密になるので、そこから恋が芽生えるパターンも多いのだとか……ふふ♪
幸い私も山田もかなり足が速いので、メンバーを決める際、いの一番に名前を挙げられました。
「え……私なんかでよろしいですの……?」
内心は自分以外はあり得ない、選ばれて当然と思いつつも、マナーとして謙遜致しますと。
他の方々は口を揃えて、背中を押して下さいました。
「有栖川さん以外あり得ないよ~」
(美人でスポーツ万能なんて、リアルヒロインだもんな)
「うんうん、せっかくだから優勝狙いたいし」
(有栖川さんが出たら、絶対盛り上がるしね!)
「他のクラス、皆悔しがるぜ」
(今でもあんな美人がいるなんて狡い、って言われてるんだよ。芸能人並みの人気だわ)
嗚呼……き・も・ち・い・い♡
これこれ、これですわ。
止まない称賛の嵐に、久しぶりに高揚致しました。
やはり私は、崇め奉られる存在でなくては。
さぁ山田、貴方も私と共に走れることを、光栄に思
(ハァ~面倒くさ。どうしよ。辞退しよっかな)
や~ま~だ~!!!
す~こ~し~は~よ~ろ~こ~べ~!!!
ふん。
まぁ、けれど想定内でございます。
山田に恋をして早数ヶ月、彼の性格を大分把握出来るようになりました。
色気より食い気、やる気より気怠げ、とにかく常に省エネモードな男です。
このままでは本当に辞退しかねません。
なので、
「山田くん、一緒に頑張りましょうね!!!」
離れた席からガッツポーズをし、激励する振りをして『お前辞退すんなよタダじゃおかねぇぞ』と圧をかけました。
他のクラスメイト達も一斉に山田を見つめ、『決め直すのもめんどいしお前走れよ有栖川さん裏切るなよ』と加勢して下さいます。
何て素晴らしいクラスでしょう♡
これが青春の風物詩、一致団結という奴ですわね♡
さすがの彼も、一対数十名では敵わないと観念して、
「は、はい……」
(あ~も~こんなん断れる訳ないじゃん……最悪だ……)
ガックリと項垂れておりましたが、何卒安心して下さいませ。
きっとこれを機に私の魅力に気付き、脳内がお花畑と化し、
(有栖川さん……いや、美麗様……なんて美しい♡♡♡顔も性格も最高だ♡♡♡俺の天使……女神……もはや神……!!!) と身悶えするようになるのです。
私と相思相愛になるなんて、殿方にとってはこの上ない幸せなこと。
そう、貴方は明るい未来への第一歩を、踏み出したのです。
オーホッホ!
さすが私、一ミリの隙もない完璧な計
「はいっ!うち、リレーに立候補しますっ!」
どえええーーー!!??
そうきたか、瀬戸 悠莉ーーー!!!
チッ……当たり障りのないモブを推薦しようと思っていたのに……!
予想だにしなかった展開に、私は密かに慌てふためきました。
教室中がどよめき、山田も呆気にとられています。
何せ瀬戸さんは遅れて入学し、その理由も体調不良だったので、体育祭の参加すら疑問視されていたのですから。
実力は未知数ではありますが、自ら立候補するなど、誰も考えておりませんでした。
……もしや、山田の傍にいる為……!?
彼にボインボインと揺れる巨乳を、アピールするおつもり!?
そう訝しんだ私は、あらゆる雑音が入り交じる中、必死に彼女の心の声を読み取ります。
すると。
(入学が遅れたから、まだクラスから浮いてるし。早く皆と仲良くなる為にも、少しでも役に立つんや)
け~な~げ~!!!
な、何ですか、その清らか過ぎる思考は。
ますます私が悪役令嬢への道を歩んでいるような……。
いいえ!そんな訳ございません。
私はれっきとした、誰からも愛される、純情可憐なヒロインなのです。
ここは一つ、優しさを知らしめておきましょう。
「瀬戸さん、無理をなさってはいけませんわ。お体を大切にしないと」
え?
親切を装って、蹴落とそうとしてるじゃないかって?
ノンノンノン、それは邪推というものです。
私は本当に、心の底から瀬戸さんが心配で心配で、その身を案じているのです。
山田からも、不安の滲んだ心の声が聞こえてきます。
(そうだよ、何でリレーなんか……体弱いんだから、無理すんなって)
……彼こそ心の底から心配していて、少々癪に触りますが……。
他のクラスメイト達もこぞって、「うん、無理はしない方がいいよ」「他にも楽な競技があるし」「たかが体育祭なんだなら、のんびりいこ~」と、さすがお坊っちゃん・お嬢ちゃんばかりの学校、実に寛容でございます。
ふふふ、これならさすがの瀬戸さんも、諦め
「いや、もう体は大丈夫やし。元々は陸上やってて、リレーが好きやってん。だから、是非やりたいんやけど……あかんかな?有栖川さん……」
(有栖川さんとも一緒に走ってみたい!絶対楽しい!)
チュドーーーン!!!
こ、こここの方は、どのように育ったらこんな、無垢なまま十五歳になれましたの?
主人公のライバルなのだから、少しは性悪でありなさい!!!
などと口に出来るはずもなく、私はウッと言葉に詰まりました。
他のクラスメイト達は、瀬戸さんの切なる訴えに、
(あんなに一生懸命……なら、いいか)
(せっかく立候補してくれたんだしね)
(有栖川さんが傍にいてくれたら、きっと色々フォローしてくれるはず)
すっかり絆され、その上あろうことか私に過剰な期待をしております。
更には山田も、
(心配だけど、有栖川さんがいてくれたら大丈夫か。あの人、しっかりしてるもんな)
oh my god……!
まさかあの山田が私を頼りにするなんて……!
これでもし拒んだら、せっかくのチャンスがふいになってしまいます。
本音は『何でわいがライバルの世話を焼かなきゃいけないんじゃあああ!!!』ですが、致し方ありません。
そう、若干忘れておりましたが、私は聖母マリアの如く清く優しい淑女。
相手が最強のライバルの巨乳女子であっても、快く受け入れてみせましょう。
「なら、私も是非瀬戸さんと走りたいです♡一緒に頑張りましょう」
そう柔らかな声で申しましたら、拍手喝采が起こりました。
(さすが有栖川さんだ!)と皆褒め称えて下さいます。
瀬戸さんも頬を朱に染め、嬉しそうに上半身をピョンピョン跳ねさせ、
「有栖川さん、ありがとう!うち頑張る!」
(やっぱええ人やわ。有栖川さんと……健太郎とも走れるなんて、幸せや♡)
ムッキイイイ!!!
や、やはりそこも狙っていたのですね……クッ!
純粋な振りをしておいて、実は策士なのかしら……!?
恐るべし、瀬戸 悠莉。
ですがもう後戻りは出来ません。
敵に不足なし、とはまさにこのこと。
潔く真っ向から勝負しようじゃありませんか。
そうです、先程山田は私に多大なる信頼を
(ま、何かあったら俺も助けられるし。むしろリレー選ばれて良かったな。悠莉のやつ、直ぐに無理するから。全く、昔から変わってない)
……い、今奴の頭の中は、瀬戸 悠莉>>>越えられない壁>>>絶世の美少女である私、ですけども……。
まだまだこれからですわ、ファイッッッ!!!
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