お嬢様、最強のライバル現る
その日も身嗜みを入念にチェックし、自身の完璧な美しさにうっとりしつつ、教室へと向かいました。
山田は相変わらず一人、ぼんやりと虚空を見据えております。
初めの頃よりはクラスに馴染み、友人もそれなりに出来たものの、元来孤独を好む人間のようです。
一見したら闇を抱えていそうですが、その脳内では。
(あ~眠いな……それにもうお腹減った……あ~眠いな……それにもうお腹減った……あ~眠)
他に考えることはないのかしら?
フッ、仕方ありませんわね。
そろそろ本気を出して、私のことで頭の中を一杯にしてあげ
「なーにぼんやりしてんねん!相変わらずやなぁ」
……ど、どどど、どなたです……!!??
突然現れ、馴れ馴れしく山田の頭を叩き、小気味良い関西弁でツッコミを入れて、ケラケラ笑うこの女子。
顔立ちは愛らしい小動物系で、円らな瞳が燦然と輝き、小麦色の肌は健康的な印象を与えます。
小柄だけれど、……胸は恐らく、Fカップ……!
セーラー服がこれでもか、と言う程膨らんで……!!
……ふん、大きければいいってものではありませんわ。
バランスで言えば、こちらが圧勝しております。
ってそれは置いておきまして!とにかく!一体何者……!?
戸惑っていると、山田は珍しく真剣な面持ちになり、
「悠莉!?もう大丈夫なのか?」
よーびーすーてーキターーー!!!
え、え、どういうことですの??
この校内一、いえ日本一、いえ世界一、いえ宇宙一の美少女である私の名前を覚えるのは、多大なる時間を要しましたのに。
他のクラスメイトには、割りと仲のいい同性が相手でも、呼び捨てなんて決してしませんのに。
突然の急展開に、動揺を隠せませんでした。
とにかく、二人の動向をじっくり窺わなくては。
悠莉と呼ばれた女子はニコニコ、人懐っこい笑顔のまま、
「うん、もう大丈夫や。色々ありがとうな。いや~にしても、高校生になっても同じクラスとはね」
(ラッキー!頑張ってこの高校入った甲斐があったわ。ますますいい男になってるし♪……やっぱ今でも好きや……)
「なら、いいけど。無理するなよ?お前、変に能天気なんだから」
(とりあえずは良かったけどさ。やっぱり心配だな)
「健太郎に言われたないわ。昔、俺は不死身だ!とか言うて、学校の二階から飛び降りて骨折したん誰や」
(あれは傑作やったな~ま、男らしいっちゃー男らしいんやけど♡ふふ)
「う、うっせーな。小学生の頃の話だろ」
(ああ~これだから幼馴染みは……でも元気そうだ、安心した)
キエエエーーー!!!
『お前』、『健太郎』、自分しかし得ない過去話……。
これは、本当に現実……?悪夢だと、誰かおっしゃって……?
実際の会話も、心の声も、私を容赦なくカウンターパンチしてきますわ……K.O.寸前ですわよ……。
そもそも童顔で小柄、挙げ句巨乳な女子が幼馴染みとか、何ですの?
ここはいつの間に、ちょっとエロチックな少年漫画の世界へと変貌を遂げましたの?
聞いてませんわよーーー!!!
ハアハア……いえ、冷静になりなさい、美麗。
心の声を聞く限り、悠莉と呼ばれた女子は山田に想いを寄せているけれど、彼はまだ判然と致しません。
どうやら体調がよろしくない彼女を、案じているだけのように思えます。
それにやはり、スペックは私の方が完全に上のはず。
まだまだ勝機はございますわ。
私は満面に笑みを湛え、
「ごきげんよう、山田くん。えっと、こちらの方は……?」
二人の間に割って入り、さりげなく関係性を探ります。
悠莉と呼ばれた女子はこちらを振り返って、ハッとして目を見開き、
(うっわー!めちゃくちゃ美人やん!こんな子初めて見た)
……ふむ、大変正直で、悪い方ではなさそうですわね。
私は非常識でない程度に、彼女の全身を眺めました。
間近で見ても可愛らしく、男性から人気を集めそうな雰囲気です。
ま、私には遠く及びませんけど!
山田はというと、ポリポリと頬を掻き、少々照れ臭そうに、
「こいつは、瀬戸 悠莉。俺の幼馴染みなんだ。ちょっと体調を崩して、入学が遅くなって。その、……仲良くしてやって」
(なんか恥ずかしい……でも、幼馴染みだからな。クラスの人気者の有栖川さんと仲良くなれば、安心だし)
クウウウーーー!!!
あの淡白で他人に興味のない山田が、私には鼻毛にしか目がいかなかった山田が、仲を取り持とうとするなんて……。
腹立たしいーーー!!!
クラスの人気者と煽てられようが、引き受ける気には到底なれません。
そうです、私が瀬戸さんを突き放せば、たちまち彼女は孤立するでしょう。
フッフッフ。
ここはちょっと、思い知らしてや
ってストップウウウーーー!!!
こ、これでは私の方が、今流行りの悪役令嬢……!
病弱でキュートなヒロインを苛め、読者様の反感を買い、人気投票で最下位になるパターンではありませんか。
更には山田に嫌われ、自滅する未来が見えます。
駄目です、悲劇です、主人公も形無しです。
ここは一つ、自分の感情は押し殺すしかございません。
私は神々しいと評判の笑顔を作り、
「勿論。こちらからお願いしたいくらいですわ。私は有栖川 美麗と申します。仲良く致しましょう」
「!あ、ありがと~うち、こんなコテコテの関西弁やし、入学遅れたから不安やってん。有栖川さんみたいな人と友達になれたら、心強いわ。よろしくな」
(こんな美人と友達になれるなんて、入学早々ついてるわ~健太郎のおかげやな。後でお礼言おう♡)
瀬戸さんはやはり、中身も快活で嘘のない人のようです。
にしても、完全に油断しておりました。
まさかこんな、とんでもない強敵が登場するとは。
せめて見目麗しくなかったり、性格がひん曲がっていたら、打開策が考えやすかったのですが。
残念ながら(?)彼女はかなりの美少女、且つ好人物であると見受けられます。
極め付きには、幼馴染みという最強の切り札を持っております。
漫画やラノベならばイライラする程のすれ違いを経て、最後には結ばれる立ち位置……クッ!
けれど、屈するつもりは更々ありません。
私だって類まれなる美貌、清廉潔白な人柄に加え、心の声が聞こえるという、最終兵器がございます。
それに幸い、山田は瀬戸さんに対しても、今のところ恋愛感情は抱いていないようです。
見ていなさい、瀬戸 悠莉!さん!
この超能力を駆使して、山田の本心を汲み取り、操ってみせ
(あ~悠莉と有栖川さんが仲良くなって良かった~さ、早弁するか)
……まだまだ色気より食い気ですけれども!
貴女よりも先に彼をときめかせ、心を奪ってみせますわー!!!
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