お嬢様、奔走する
学生において席順というものは、人間関係を築く上で非常に重要でございます。
一番親密になるのが左右の者、次に前後の者と徐々に仲を深めていきます。
一緒にお弁当を食べたり、テストの答え合わせをしたり、教科書を見せ合ったり。
しかし残念ながら、今、私は山田とは席が離れております。
心の声も、聞こえづらくて少々不便なのです。
何せ『有栖川』と『山田』ですから。
このままでは私の魅力を伝え、夢中にさせるのも一苦労。
と、いうことで。
「今日のHRは席替えです。くじ引きを作ってきたので、順番に取って下さい」
ヒャッホー!ですわーーー!!!
学級委員長の鶴の一声に、密かに狂喜乱舞致しました。
だって私、この為に彼に圧をかけ続けたのです。
ことあるごとに「もっとクラスの親睦を深めたいので……私……早く席替えしたいですわ♡」と自慢のDカップで谷間を作り、ウィンクを連発致しましたの。
おかげで異例の早さで、実現することになりました。
他の皆も驚きつつも、殆どが賛同しているようです。
中でも殿方達は、
(次こそは有栖川さんの隣狙うぞ!)
(あの綺麗な顔を近くで眺めたい……匂いを嗅ぎたい……)
(後ろの席もいいな。いつでもずっと見放題だ)
もう……私ってば、罪な女ですわね。
普段は紳士的な彼等を、理性のない獣にしてしまって。
けれど仕方ありません。
これは美しく生まれたゆえの、神から与えたもうた試練
(え~マジか。ここ、早弁が見つからなくてラッキーだったんだけどなぁ)
ってやっぱりお前か山田あああー!!!
早弁のことしか頭にないんかい!!!
相変わらず色気のない思考回路に、怒りすら覚えましたが、まぁ許しましょう。
ふふふ、観念しなさい、山田 健太郎。
貴方は私の隣の席になるのです。
それは抗えない運命なのです。
何故なら私は位の高い魔術師に教えを乞い、毎夜『好きな人と隣の席になるダンス』を神に捧げたのですから。
ベッドの上で躍り狂う私を見て、婆やは恐怖のあまり失神しそうになっていましたわ。
それほど真に迫っていたということ。
となればきっと、効果は絶大のはずです。
そもそも超能力を持っているこの私が、叶えられない訳がございません。
さぁ、いざ出陣!!!
堂々と胸を張り、勢いよくくじを引きました。
ー数分後ー
やりました……やりましたわ……。
見事、山田の隣を勝ち取りましたわー!!!
睡眠時間を削ってまで、『好きな人と隣の席になるダンス』を神に捧げた甲斐がございました。
しかも彼は窓際の一番後ろ、その横が私ですから、反対側には誰もいないのです。
……ハッハッハ。
ハーハッハッハッ!
ついにこの瞬間が来ましたわね!
これから貴方は私の可憐な横顔に見惚れ、その魅力に胸を焦がし、毎分毎秒身悶えす……ん?
あら、今までこんなに間近で、じっくりと顔を眺めたことがなかったですけど……。
意外と、……整ってらっしゃる……?
ええい、髪の毛が邪魔でちゃんと見えな
「何?何かついてる?」
つい凝視しておりますと、山田は敏く視線に気付き、キョトンとした表情でこちらを向きました。
その顔立ちは、やはり長い前髪に隠れてしまっています。
私は慌てて目を逸らし、
「な、何でもございません」
嫌だ、私ったら。
山田ごときに何照れていますの。
あちらにペースを乱されるなど、何たる不覚。
ここは早速、ありとあらゆる手段を講じて、陥落してみせますわ!
「お隣になれて嬉しいですわ♡これからよろしくお願い致します♡」
私は鉄板の必殺技、お堅い学級委員長をも虜にした、自慢のDカップで谷間+ウィンク連発をお見舞いしました。
近くにいる他の殿方は、(やっべー!たまんねー!)と鼻血を吹き出しそうな勢いで興奮しております。
ふふふ、これが健全な男子高校生の、正しい反応というもの。
さすがの山田も、我慢出来るはずがな
「あー俺、廊下側の人と席代わってもらうから」
「……へ?」
全く予想だにしなかった山田の発言に、私は呆然としてしまいました。
この男……正気ですの??
誰もが羨むこの席を得ながら、一瞬にして自ら手放すと……!?
ハッ、もしや……!!
貧乏ゆえに借金取りに追われ、常に廊下を見張っていたいとか!?
もしくは実は危ないバイトをしていて、暗殺者に命を狙われ
「すみませーん。俺トイレ近いんで、出来たら廊下側がいいんだけど、誰か代わってくれる?」
ヲーーーイ!!!
走れ、ここから廊下くらい走れ。
若いんだから耐えれるだろ、ってかお前50m走6秒代だろ余裕だろ!!!
私がギリギリ歯軋りしているのを余所に、クラスは笑いに包まれました。
そしてすぐさま、廊下側にいた殿方達が一斉に手を挙げ、
「はいはい!俺、代わりまーす!」
「いや、俺が」
「いやいや、俺が」
(((俺が有栖川さんの隣、ゲットしてやるー!)))
嗚呼、なんて常識的な言動でしょう。
雄が優美な雌に惹かれるのは、もはや本能なのです。
にも関わらず山田 健太郎よ、貴方は本当に雄なのですか?
産まれた時に、大切な何かを置いてきたのではありませんか?
(良かった~これですぐトイレ行けるし、寝坊してもバレずに済むな)
なんて満足げに去っていくその心理、全く理解が出来ません。
残念ながら私の作戦は、失敗に終わってしまいました。
次は『好きな人と隣の席になるダンス』ではなく、『好きな人と隣の席になり且つ彼の尿意と睡眠欲を抑えるダンス』に励もうと思います。
しかし、収穫もございました。
今のところ、山田に想いを寄せている女子は居ない模様です。
誰一人(山田くんの近くがいいな♡)という心の声は聞こえてきませんでした。
ま、所詮は陰キャ。
そんな物好き、絶滅危惧種くらい珍しいですわよねーオホホ、……なぞ自分のことを棚に上げ、油断していたら。
数日後、最強のライバルと対峙する羽目になるのです。
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