お嬢様、旅立つ(2)
「……あ……す……が……さん、……有栖川さーん!!!」
……。
……や、や、や、山田 健太郎ーーー!!??
は!?へ!?い、一体何なんですの!?
もしや私は幻覚を見ているのでは……??
イヤアアアー!!!
齢十五にして、願望のあまり幻覚を見るなんて……何て恐ろしい……!!!
そうですわ、自分で自分の頬を思い切りぶん殴れば正気に戻
「ちょちょ、ストーップ!!!美麗、何自虐しようとしてるのさ」
「だ、だって……山田の幻覚が見えますの……私、どうにかなってしまったんですわ……このままではいつしかゾンビが見えるようにな」
「もう!あれは本物だよ!本物の山田 健太郎!……君を追い掛けて来たんだよ」
流星の優しい声に、それでも私は直ぐには理解出来ず、再び目線を山田の方に移しました。
彼は今まで見たことのない、必死の形相で全力疾走しています。
いつもぼんやりとしていて、冷静な山田が。
何故?
どうして??
放心状態に陥っていると、久しぶりに脳内が刺激されるのを感じました。
(有栖川さん……俺……俺……)
こ、これは……山田の心の声……!!??
まさかのタイミングでの超能力復活!さすがラノベ!何と都合のいい展開!!!
などと感心している場合ではございません。
私は息を呑み、彼の心の声に耳を澄ませます。
本心を知るのが、怖いけれど。
期待していいのか、未だ迷うけれど。
でもー。
(俺……あんたのことが……好きだー!!!……って叫んだ方がいいのかな……)
ヲイ!!!
ここに来てためらうな、陰キャよ。
そういう大切なことは、口に出して言いなさーい!!!
思わずずっこけてしまいましたが、……ようやく現状を把握し、少しずつ、少しずつ喜びが込み上げてきました。
山田が、私のことを好き。
好きになってくれた。
その事実を噛み締めると、視界が滲みました。
こんなに幸福感に満たされるなんて、産まれて初めてです。
どんな高価なプレゼントを貰った時よりも、嬉しくて溜まりません。
人差し指で涙を拭っていたら、車が停止致しました。
目線の先にて、流星は微笑を浮かべながら、
「行きなよ」
「……流星、さん……」
「両親には僕から上手く言っておくから。気にせず行っておいで」
(愛する女性には、幸せになってもらいたいからね☆ま、出来たら僕を好きになって欲しかったけど)
流星の心の声には、私への愛情と未練が入り交じった、複雑な感情が感じられました。
嗚呼。
この方を選んでも、きっと大切にしてもらえたでしょう。
育ってきた環境や価値観も合う、優しい人です(女性関係は除くpart2)。
何不自由ない生活を送れ、誰もが羨む未来が待っていたに違いありません。
けれど、私は。
私はー。
「……ありがとうございます。本当に、ありがとう……!」
勢いよく車から飛び出し、山田の元へと駆けて行きました。
暫し間を置き、運転手が口を開きます。
「いいんですか?」
「……珍しいね。君がプライベートに口を出すなんて」
「長年側にいますから。お坊ちゃんが彼女を心から好きなことなんて、とっくにお見通しですよ」
「ははっ。そっか~バレてたか」
「他の女の子を見る目線とは、全然違いました。とてもお似合いでしたのに。今ならまだ」
「ストーップ!いいんだよ、これで。何でも手に入れてきたんだから、たまには挫折しないと」
「ふふ。お坊ちゃんらしいです」
「いい男だから、僕は。さ、気分転換にドライブでもしよう。新しい運命の人を探さないと、ね」
そんなやり取りなど露知らない私は、メイクが崩れるのも髪の毛が乱れるのも意に介さず、ただただ走り続けました。
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