お嬢様、試みる(2)
ある日突然、超能力が使えなくなるなんて。
これじゃ魔女○宅急便のキ○じゃないですのーーー!!!
私は黒猫は飼っておりませんわ!
ヨークシャーテリアでございます!
などと抜かしている場合ではありません。
大ピンチです。
私はずっとずっと、人の心を読み取り、それによって行動していたのです。
なのに。
「有栖川さん?まだしんどかったりする?」
山田の心配そうな表情に、胸が締め付けられました。
何故?どうして?
こんなに優しくするのです?
今まで私のことなどアウト・オブ・眼中、使い回しのパセリ以下の扱いだった癖して……!
よりにもよって能力を失ってから態度を変えるなど、卑怯ですわ!!!
なら初めから、霜降りの黒毛和牛並みの扱いをしてちょうだい!!!
などと憤っていても仕方ありません。
私は笑顔を引き攣らせながら、
「だ、だだ大丈夫ですわ。お、おお医者様にも健康そのものと、太鼓判を頂きましたのよ。オホホッ」
「そっか。……良かった」
そう呟いて微笑む山田が、あまりにも眩しくて。
後光が差しているかのようでした。
な、何というか……心の声が聞こえなくなったら……。
ますますドキドキするんですけども……!?
え、ナニコレ珍百景(失礼)。
考えていることが分からないって……こんなに高揚して……こんなに不安になるんですの……!?
産まれて初めて芽生えた感情に、戸惑いを隠せませんでした。
「で、では、授業が始まるまでに、ちょっと御手洗いに行って参ります、し、失礼っ!」
「え、あ、ああ」
山田はまだ何か言いたそうでしたが、心臓が持たないと判断した私は、足早にその場を去りました。
ドクンドクンドクン。
それでもなかなか止まらぬ動悸に、廊下の隅でへたりこんでしまいます。
一体どうしたことでしょう。
ただ心の声が聞こえなくなっただけで、正気を保てなくなるなんて。
世の人達は、これを乗り越えて恋愛しているのですか?
相手の考えていることが分からず、不安で押し潰されたりしないのですか??
どう思われているのか想像しただけで、何もかも手につかなくないですか???
今まで凡人だと思っていた方達は、私なんかよりもずっと逞しかったのですね……。
自身の不甲斐なさに、嘆息を吐いていると、
「おはよう、美麗。もう大丈夫なん?」
背後から聞き慣れた声が聞こえてきて、ハッとして振り返りました。
そこには、悠莉が真顔で立っていました。
いつも笑みを絶やさない子なのに、大変珍しいです。
心が読み取れないので、余計に不思議に感じます。
それでも動揺を悟られるのは癪なので、平静を装い、
「ええ、もうすっかり元通りですわ。ご心配、ありがとうございます」
「良かった。……あ、あんな、文化祭の劇やけど……勿論美麗が第一候補やってんで?でも病気の人に押し付けるのはどうか、って話になって……その、当日出席してた人達の中で投票したら、うちと健太郎に……あの、なんか、ごめんっ!」
なるほど。
抜け駆けをしたと思われていると思い、謝罪してくれたのですね……。
まぁ思っていますけど!!!
抜け駆け乙ーーー!!!
さすがあざと巨乳関西弁ーーー!!!
などと口にすれば、さすがに好感度が地に落ちるので止めておきます。
ただでさえヒロインの割には、人気がないのですから。
私は静かに首を横に振り、
「仕方ありませんわ。体調を崩した私が悪いんです。気にしないで下さい」
「……ありがとな。ほんま、美麗は優しいから、……これ以上、卑怯な真似したくない」
悠莉は何か、覚悟を決めた眼差しをこちらに向けました。
何を言わんとしているのか。
心の声が聞こえずとも、薄々は察せられ、思わず喉を鳴らします。
まさか、もしかして、と。
心臓が口から飛び出してしまいそうです。
「うち、文化祭が終わったら……健太郎に告白するわ」
周りの喧騒が、一瞬聞こえなくなりました。
まるで私と悠莉だけ、異世界に居るかのように。
随分と長い間見つめ合い、沈黙を貫きました。
ずっと膠着していた恋が今、大きく動き出そうとしているのを、嫌でも肌で感じたのでした。
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